第二章 昔からの片想い

プロローグ

 中学二年生の頃。


 私は恋に落ちた。


 人見知りで、あまり周囲に馴染めなかった頃。

 蜜柑ちゃんしか友達がいなくて、日々孤立とした日々を送っていた。


「千歳っち、ごめん!今日、急にカラオケ行かないって誘われちゃって!」


 ある日の放課後の教室、いつも一緒に帰る蜜柑ちゃんが両手を合わせて謝ってる。


「ううん、大丈夫だよ」


「ごめんね!明日また一緒に帰ろ!」


 そう言って、蜜柑ちゃんは他の女の子達の元に向かっていく。


 こういう事はよくある。

 蜜柑ちゃんは私よりも人気者で、人当たりもよく、明るくて、可愛くて、クラスの人気者。

 男の子も、大体の人が蜜柑ちゃんが好きなんだとか。


(私とは全然違うなぁ……)


 幼なじみであるにも関わらず、私と蜜柑ちゃんは全然違う。

 どうしてここまで差が出るんだろう?

 長い時間を一緒に過ごしてきたのに……。


「変わりたいなぁ……」


 そんな零れた私の言葉は誰に聞かれることもなかった。

 既に、皆は帰ってしまい、薄暗い教室には私だけ。


「帰ろ……」


 私も、帰ろう。

 家に帰って、勉強でもしようかな。


 私の取り柄って、これぐらいにしか思いつかないんだもん。


 そんな時ーーーー


「おーい、誰も残ってないかー?」


 不意に教室のドアが開かれた。

 気だるそうな声。開かれた扉の先には、一人の男の子。


(誰だろ……?)


 見たことがない。

 雰囲気的に下級生という訳でもなさそうだし……先輩なのかなぁ?


「お!いるじゃん誰か!」


 そして、その男の子は私見るや、駆け寄ってきた。


「なぁ、このクラスってアンケート出したか覚えてるか?」


「あ……あの……」


 いきなり話しかけれて、あたふたしてしまう。

 言葉が上手く紡げず、返答ができない。


「ん?どした後輩?」


 オロオロする私に、先輩は不思議そうに顔を覗き込む。


(話さなきゃ……ちゃんと出しましたって言わなきゃ……!)


 頭ではそう思っていても、行動に移せない。

 さっきから、口をパクパクさせているだけで返事ができない。


「……あれ?俺って威圧的なのかね?」


 違う。

 ただ私が人見知りで引っ込みじあんなだけなんです。


「ち、ちがっ……!」


 あぁ……蜜柑ちゃんだったら、違うんだろうなぁ……。

 惨めに思えてくる。こんなどうしようもない私がーーーー私は嫌いになってくる。


「ははーん……さてはお前、人見知りだな?」


「ッッッ!?」


 すると先輩は私の性格を見透かすように言い放った。

 その言葉に、私は思わず肩を震わせてしまう。


「ど、どうして……」


「うん?いや、俺別に威圧的な態度をしたわけじゃないし、キョドってるし、そうかなーってさ」


 や、やっぱり……私ってそう言う風に見えてるんだ。

 改めて自分の惨めさに心が沈んでしまう。


「でも後輩、人見知りは良くないぜ? 何せ、人とコミュニケーションをとれる最大の行動ができないって事なんだからさ」


 分かってる。

 こんな性格、治した方がいいに決まってる。

 だけど、変わりたいと思っても変えれないんだ……。


「という訳で後輩!ちょっと手伝ってくれや」


 そして、先輩は徐に私の手を掴んだ。


「え……え、え?」


 その事に、私は頭が真っ白になる。

 突然の出来事に頭がついていかなかった。


「その人見知り、俺が治してやろうーーーー大丈夫、怖い思いはさせないし、お前を傷つけることもしない。精々、勇気を振り絞って貰うくらいだ」


 そう言って、先輩は私の手を引いて教室を出た。


 ……その時私は、訳が分からなかった。



 ♦♦♦



 それから、私は先輩に連れ回された。

 なんでも、先輩は遅刻の罰則としてアンケートを回収しているらしい。


「よぉ!アンケート回収しに来たで〜!」


 そこからは戸惑いの連続だった。


「誰その子?」


「時森くんの彼女〜?」


「……それは俺の野望を聞いて言ってんのか?」


 なんてやり取りが目の前で繰り広げられる。

 先輩は誰にでも仲良くでき、あっという間に輪の中心に入っていった。


 私とは違う人。

 人見知りで臆病な私とはーーーー


「後輩、お前からも言ってやれよ」


 ーーーーだけど、先輩は


「お前も、輪に入れ。これが、お前が踏み出さなきゃいけない1歩だ」


 無理やり輪の中に入れさせる。

 臆病な私の問答などお構い無しに、その輪に加えてきた。


「そ、そんなことないです……」


「えー!違うのー!?」


「やっぱり、時森にはこんな可愛い女の子の彼女なんて無理だって!」


「お前、殺すぞボケ」


 その一言で、周囲から笑い声が上がった。


「ふふっ……」


 私も、思わず笑みが零れてしまった。


(あぁ……楽しい)


 そんな事を思うくらい、こんなやり取りが楽しかった。

 先輩が話題を振り、からかわれ、私も少しだけからかってみて。


 最後には自然と言葉が出るようになった。



 ♦♦♦



 結局、私が先輩と一緒に回ったクラスは五クラス。

 それも全て、先輩が会話の話題を作って私を輪に加えてくれた。


 ……でも、最後には自分から話しかけれるようになったんだ。

 それが、とても嬉しくて、変われた様な気がしてーーーー


『後輩、喋ると言う行為は相手に自分の想いを伝える重要なものだ。それを、勇気が出せないからと言ってしまい込むのは勿体ない』


『大丈夫だ。後輩ならできる。俺が思わず手伝ってやりたくなるような女の子だ。自信を持て、お前はただ勇気が振り絞れなかっただけなんだから』


『もし困ったら俺を呼んでもいいぞ?そん時は会話の橋渡しにでもなってやるよ』


 別れ際に言われたその言葉。

 これが、私にどれだけの勇気を与えてくれたことか……多分、先輩は分かってない。



 ♦♦♦



 それから、私は先輩の言葉を受けて、クラスの女の子に話しかけるようにした。


 勇気が足りなかっただけ。

 だから、頑張って勇気を振り絞ってみた。


 ふふっ、そしたらみんな驚いちゃってたなぁ……。

 目を見開いて、「えっ?」みたいな顔してたもん。


 蜜柑ちゃんも、これでもかと驚いてたな……。


 でも、そのおかげで私はみんなと話せるようになった。


 友達もできた。

 帰りに遅日に行くことも増えた。

 一人でいることも無くなった。


 今にして思えば、すっごい単純な理由。

 ただ、私が一歩踏み出さなかっただけ。


(でも、先輩はそんな簡単な事に気づかせてくれた……)


 無理やり、私の意思などお構い無しに手を引いてくれた。



 その後ろ姿に私はーーーー


「蜜柑ちゃん……私、好きな人できちゃった……」


「はぁっ!?」



 恋したんだ。





















 その先輩は、時森望という名前らしい。


「時森先輩、ここの書類の書き方はこれでいいですか?」


「おう、流石だな大和後輩」



 この恋は、いつか成就したいと今でも思う。


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