愛が重いと思った今日この頃

 理不尽なことなんて世の中いくらでもある。

 例えば、自然災害や仕事での急な転勤などなど。一人の意志など無視して現象というのは起こってしまう。


 それは仕方ない。諦めるしかないのだ。

 しかし、それでもと足掻くことはできる。


 アリスのロシアへの引っ越しなんかがいい例だろう。

 アリスは親の転勤によってロシアに引っ越すことになったのだが、柊夜の支えもあって、彼女を無事連れ戻すことが出来た。


 今は一緒に住んでいるのが理不尽に抗った結果という形で現れている。


 つまり、理不尽な現象は仕方ないとは言え抗うことが出来るのだ。

 いい結果に結びつける為に。


 だから俺はーーーー


「違うんだ柊夜。俺は決して邪なつもりでギャルいと帰った訳ではなくて、少しでも元気になってもらおうとーーーー」


「言い訳は男らしくないですよ?」


 ーーーー必死に土下座をしていた。

 理不尽な現象に抗うため、昼休憩に教室のど真ん中での綺麗な土下座。

 長年の経験によって培われたこのスキルは見るも美しい土下座へと変貌を遂げた。


 周囲も「ねぇ……また時森くんは西条院さんに何かやったの?」「見事な土下座が気持ち悪いな」「恥を知らないのかあいつは」など賞賛とした声を上げていた。


「いや、しかしだな!お前も納得してくれたじゃん!アイコンタクトで察してくれたじゃん!」


「元気づける所までは納得しましたけど、ゲームセンターに行って、洋服を見て、一緒にお食事する所までは許してません」


「ほんの成り行きだったんです!」


 ハイライトが消え始めたので、俺は床に頭を擦り付ける。

 っていうか、なんで知ってんの?監視カメラ?盗聴器?

 ……ちょっと彼女に恐怖を感じました。はい。


「望は一体何やったの?」


 そして、一緒にご飯を食べている一輝は俺の姿を見て疑問に思った。


「……新しく入った後輩ちゃんとデートしてたんだよ」


「そ、そうなんだ……」


 既にハイライトが消えたアリスにたじろぐ一輝。

 分かる……分かるぞ一輝。アリス……ハイライトが消えたら怖いもんなーーーー柊夜も怖いけど。


「デートではない!そこだけは信じてくれ!」


「客観的に見てあれがデートでなかったらなんなのですか?」


「否定ができない!」


 確かに、俺でもデートだと思ってしまう!

 だけどーーーー


「信じて欲しい!決して邪な気持ちがあった訳ではなく、ただ単に元気になって欲しかったんだ!」


 これだけは混じりっけの無い本心。

 ギャルいとキャッキャウフフという感情なんてなく、ただ単に元気になって欲しかっただけ!


 だから気持ちが伝わって欲しくて必死に頭を擦り付ける。


「……はぁ」


 柊夜はそんな俺の姿を見て嘆息つく。


「……いいです。今回は許してあげましょう」


「あざーす!」


 俺は許してもらったことに再び頭を下げる。


「望さんがタラシなのは今に始まったことではありませんからね」


「違うぞ柊夜。俺はタラシじゃない」


 許してもらったはずなのに全くを持って嬉しくない。

 そんな理由で納得なんてして欲しくないぞ?


「あら?事実望さんは私含め三人もタラシこんでいるではありませんか?」


「はい!タラシこまれた一人です!」


「言い方、言い方に悪意がある」


 こいつらは俺のことが嫌いなんだろうか?

 タラシこまれたって……俺、意図してやったわけじゃないよ?

 じゃなかったらもっと早い内に彼女ができてたわ。


「確かに、望はタラシの素質があるよね」


「うるさい、顔面だけでタラシこんでる奴に言われたくないわ」


 このイケメン!お前が歩いただけでどれ程の女子がタラシこまれたと思ってんだ!

 被害者は多いんだぞ!


「それで、蜜柑ちゃんは元気になったの?」


「蜜柑ちゃん?誰?」


「望さんが昨日一緒に帰った子ですよ……どうして覚えていないんですか……」


 あー……あいつ蜜柑っいう名前なんだ。

 いつもギャルいしか言っていなかったから名前忘れてたわ。


 にしても外見ギャルいのに名前が蜜柑なんて……可愛いやつ。


「あぁ……なんか元気になったっぽいぞ?」


「ふぅーん……どんな風に?」


 訝しむ目でアリスが俺を見る。

 だから俺は何もしてないんだって。


「いや、帰り道はなんか顔が赤かったけど、別れ際は「ありがとうございます!スッキリしました!」って元気よく手を振ってくれたな」


「望がまたやったよ……」


「ねぇひぃちゃん……もう望くんはアウトだと思う。スリーアウトでチェンジだよ」


「えぇ……今後、彼には女の子を近づけない方がいいかもしれませんね」


「だから俺が何やったんだよ」


 悪いことしてないだろ?

 初めての後輩を元気づけただけでさ?どうしてそんなこと言われるの?

 っていうか、その非難の目やめて。痛いしキツい。


「今後、望さんには行動と言動に気をつけてもらいます」


「審議の結果、望くんには盗聴器をもう一個加えてつけてもらう事になりました!」


「良かったね望」


「嬉しくない。っていうか盗聴器って何?俺既に一個ついてんの?」


 やばい、早急に盗聴器を見つけないと。

 っていうか、いつの間につけたんだよ?怖いわ。本当に彼女達の愛が怖いわ。



 帰ったらすぐに盗聴器を見つけるーーーーそう決意した俺であった。

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