新入生代表の少女

「お、おい……っ!さっきから一点もとれねぇぞ!?」


「仕方ねぇだろ!?あのキーパーが強すぎるんだよ!」


 そんな声を上げ、額の汗を拭いながら悔しそうに唸る新入生。


 時は過ぎ、ついに練習試合。

 開始前よりもたくさんのギャラリーが集まったグラウンドでは、練習試合が行われていた。


 新入生 対 現役サッカー部


 どうやら一輝曰く、現役サッカー部と練習試合をすることによって交流を深め、ある程度の実力を測るのが目的なんだそうだ。

 当初はデモンストレーションで終わらせる予定だったのだが、ギャラリーと入部希望者が思っていた以上に多く参加してしまったらしく、どうせだったらということらしい。


 そういえば、去年ベスト4まで勝ち上がったのが、いい宣伝効果だったのかもなぁ。


『キャーーー!佐藤先輩かっこいい!』


『こっち見てください!』


『見て見て!佐藤先輩がシュート打ったよ!』


 いや……一輝の人気も理由の一つかもしれない。

 ギャラリーが集まる場所からすごい黄色い歓声が上がっているのを見て、男子達が哀れに感じてしまったのは、仕方ないと思う。


 ————しかし、


「おい!何をぼーっとしている!?新入生にボール奪われてんじゃねぇよ!」


「すみません!」


 コート場では、新入生にボールを奪われ、先輩が厳しい声を上げていた。

 ……それにしても、今年の新入生は中々の実力者が集まっているようだな。


 先輩達、サッカー部もそれなりの実力者だと思う。

 しかし、素人目からでも分かるように、新入生達のプレーは現役とあまり遜色ないように見える。


 ————しかし、


「いけっ!そのままシュートだ!」


 ボールを抱えた新入生がそのままゴール前まで上がってくる。

 重心は左寄り……足の向きや角度からしても右上のネットを狙っているのが分かった。


 でも、シュートを打つギリギリまで悟られないように構える。

 そして、シュートを打つ瞬間————


「マジかよ!?また止められた!」


 狙っている場所に素早く動く。

 そうすることによって、プレイヤーに思った通りの場所にシュートを打ってもらうのだ。

 そうすれば、シュートも比較的止めやすい。


「はっはっはー!青二才ごときが俺から点数を取れると思うなんて甘い!甘すぎるわ!」


 俺はボールを抱え、高らかな笑いを上げる。

 いやー!悪いね新入生諸君!

 こちとら、わざわざ点数を上げるわけにはいかんのだよ!


『すごい!時森くんまた止めたよ!』


『うん!さすが望くんだね!やっぱりかっこいいなぁ~!』


『ふふっ、カメラを持ってきてよかったです』


 ……あんな歓声を聞いたら、本当にかっこ悪いところは見せられないからなぁ。

 それにしても、柊夜よ。カメラは流石に恥ずかしい。

 肖像権で訴えてもいいんだぞ?


「さぁ、どんどん責めていけや現役サッカー部!」


 そして、俺は大きくボールをコート場に蹴り上げた。



 ♦♦♦



「……疲れた」


 試合も終わり、俺はベンチで一人ぐったりとしていた。

 インドアにとっては急な運動は辛いものがある。今日は熱い風呂にでも入ってゆっくりしようかなー。


 結果としては5対0。

 サッカー部の勝利と言う形で幕を下ろした。


 ……ふふっ、もっと褒めやがれこのやろう。

 一点もやらなかったぞ?おかげで


『流石望くんだね!』


『もう、サッカー部に入部してもいいんじゃないかと思う!』


『後で写真をお見せしますね』


 柊夜達からはいろいろ褒められたものだ。

 ふふーん!どうだいすごいだろう!


 けど、柊夜には別途写真を破棄するようにお願いしました。

 3人の写真を撮るのは好きだが、撮られるのは好きじゃない。

 自分勝手だというなよ?男だったら誰しもそうだと思うから。


 そして、5点のうち4点は一輝が奪ったものだ。

 流石エースと言ったところか、そのプレーは俺から見ても洗礼されており、一人だけ群を抜いていた。

 ……まぁ、そのおかげで点数を取るたびに不快な黄色い歓声が上がっていたのだが。


 しかし、途中から野球部のマネージャーである桜田先輩――――一輝の想い人も見に来ていたので、それはそれでよかったのではないだろうか?

 ……いいところを見せられたようだしな。


 そういえば、今二人はどこまで進んだのだろうか?

 一緒に出掛けたのは聞いたのだが、その後の進捗は聞いていないので、気になってしまう。

 ……あとで聞いてやろ。


『よし、今から入部届を渡すから、入部したい奴は集まってくれ』


『『『はーい』』』


 そして、コート場では先輩が取り仕切り、新入生たちに入部届を配っていた。

 マネージャーとして入りたい女子も、マネージャーが集まる場所で同様の紙を受け取っている。


 ……これで、俺の役目も終わりかね?


 それだったら、俺も着替えて生徒会室に戻るとしよう。

 柊夜達は先に戻って先に仕事をしているみたいだし、早く俺も自分の仕事をしなくては。


 そう思い、神楽坂からもらったタオルを首から下げ、ベンチから立ち上がる。


「あ、あの……」


 すると、不意に後ろから声をかけられた。

 おずおずとしたその声に、俺は自然と振り返ってしまう。


 肩口まで切り揃えられた黒髪に、くりりとした瞳。綺麗な鼻筋にきめ細かな肌。文句なしの美少女と言っても差し支えない少女がそこに立っていた。

 しかし、どこか落ち着かない様子だったため、引っ込み思案な性格なんだろうなと思ってしまった。


「どうかしたか?」


 っていうか、どこかで見たことがあるような気がするんだがな……。


「わ、私っ……!大和千歳やまと ちとせと申しますっ!」


 それにこの声にこの名前。

 たしか、今日聞いたような気が————


「あぁ!新入生代表の子か!」


「は、はいっ!僭越ながら、私が新入生の挨拶をさせていただきました!」


 新入生代表、大和千歳。

 入試の成績をトップであったことから、新入生代表の挨拶を請け負った少女。

 ……思い出したわ。正直、美少女だったっていう記憶しか残っていなかったが、そこは勘弁願いたい。


「今日の試合、かっこよかったですっ!全部のボールに反応して、点数を取られなかっただなんて、本当にすごいです!」


 俺は今、感動で涙が出そうです。

 一輝にしか集まらなく、男子達同様嫉妬の念を抱いていたのに、まさか俺のプレーを見て褒めてくれる人が3人以外にもいただなんて。

 ……すまない、男子達よ。俺はお前たちよりもかっこよかったみたいだ。


「あ、ありがとうね……」


「ど、どうして涙を流しているのですか……?」


 おっと、涙が堪えきれていなかったようだ。


「それで、時森先輩はサッカー部員ではないのでしょうか……?」


 おずおずといった感じで、大和と名乗る少女は尋ねてきた。


「いや、俺は助っ人みたいなものだからな……」


「そ、そうですか……」


 すると、大和はあからさまにがっかりした様子で肩を落とす。

 そんなにサッカー部じゃないことが悲しいかね?もしかして、サッカー部LOVEなのだろうか?


 それにしても————


(俺、名前名乗ったっけな……?)


 名乗った覚えがないのに、彼女は名前を知っている。

 どこかで会った覚えもないんだがなぁ……。


「わ、分かりました!ありがとうございます!突然、お声がけして申し訳ございません!」


「いや、別にそれはいいんだけど……」


「で、では!また生徒会で会いましょう!」


 そう言い残し、少女は駆け足でその場を去ってしまった。


(……なんか、おかしい子だったなぁ)


 少女の背中を見送りながら、そんなことを思ってしまった。


「そういえば、何で名前を知っているのか聞いていなかった……」


 まぁ、いっか。

 どうせまた会いましょうって言ったのだから、その時にでも聞いてみよう。

 それに、会えなかったら会えないで問題ないしな。


 ————でも、生徒会で会いましょうってどういうことなんだろうな?




 ふと疑問に思ったのだが、その答えは今は誰も教えてくれることは無かった。

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