予定、変更します!

 そして、待ちに待ってもない放課後。

 ユニフォームではなく、体操服の上にゼッケンを羽織った俺は、グラウンドに集まっていた。


 グラウンドでは、いつもよりも活気に満ち溢れており、あちらこちらに新入生と思われる生徒の姿が伺えた。

 ……すごいなぁ。こんなに新入生が集まっているだなんて。

 そんなにも皆部活がしたいのかね?


 しかしまぁ、本当に人が多いったらありゃしない。

 野球部の周りに人集り、それに続いてサッカー部、テニス部、サッカー部、サッカー部、陸上部、サッカー部、サッカー部、サッカー部ーーーー


「って、多いわっ!?」


「うわっ!?ど、どうしたの時森くん!?」


 俺があまりの多さに声を上げてしまうと、隣にいた神楽坂が驚いてしまった。


「いや、多すぎるだろ!?サッカー部を見に来る奴どんだけいるんだよ!?」


 サッカー部練習場の周りには多すぎるほどの人の塊。

 ざっと100人は超えていそうなんだが……?


「この人集りの全員が入部希望者じゃないぞ」


 俺が驚いていると、不意に後ろから野太い声が聞こえてきた。

 振り向くと、そこにはガタイのいいゴリラのような男がーーーーうわぁ……ゼッケンパッツパツ。


「ほら見ろ、半分は女子だろ」


 そして、先輩は集団の一つを指さした。


「あー……分かっちゃたな……」


「……あぁ、俺も理解した」


 ゴリラーーーーもとい、サッカー部の先輩の指さした方を見て、俺と神楽坂は納得してしまう。


『佐藤先輩!頑張ってください!』


『応援してます!』


『私、絶対にマネージャーになります!』


『はは……ありがとう……』


 イケメンは死すべし。

 大勢の女の子に囲まれている一輝なんて富士の樹海に迷い込んでしまえばいいんだ。

 ……くそぅ、あんなにモテやがって。


 見ろよ、サッカー部の部活動紹介の筈なのに、一輝の紹介になってるぞ。

 ……桜田先輩に言いつけてやる。


「まぁ、こうして佐藤くんの場所に集まってくれたら、時森くんの周りには集まらないから、それはそれでいいよね!」


 神楽坂さんや……その発言は場合にとっては、俺が助かるなら一輝を見捨てても構わないみたいなセリフに聞こえるんだが?

 っていうか、俺が一輝に女の子取られたみたいな言い方にも聞こえるぞ?


「お待たせしました」


「お待たせ〜!」


 俺がキャッキャウフフしている一輝集団を恨めしそうに見ていると、柊夜と麻耶ねぇが制服姿で現れた。

 どうやら、生徒会の雑務が終わったようだ。


「……別に二人も来なくていいのに」


「ふふっ、望さんのかっこいい姿を見逃すわけないじゃないですか」


「そうだよ〜!おねぇちゃん、応援するから!」


「……さいですか」


 どうして、この二人は俺のそんな姿が見たいのか……?

 いや頑張っちゃうけどさ……かっこいい姿を見せれるように頑張るけどさ……?


 恥ずかしいのよ、正直言って。めちゃんこ恥ずかしいの。


「おい、時森。ちょっといいか?」


 すると、またまたガタイのいいサッカー部の先輩が現れ、俺を呼び出した。


「どうしたんですか?」


「いやな、少々予定が変更することになったんだ」


 お?これは人が多すぎて部活動紹介を中止すると言う話ではなかろうか?

 もしそうなら、残念だが俺の勇姿は見せれそうにないなー!本当に残念だけど、ここは大人しく帰るしかなさそうだなー!


「予定を変更してーーーー今から、練習試合をしようと思う」


「お断りします」


「どうしてだ?」


 いや、どうしても何も、何故俺がそんな事をしなくてはならん?

 俺が承諾したのは一輝とのPK戦までだ。


 それが誰好んでPK戦よりも激しく動く練習試合をしなくてはいけないんだ。


「俺は動きたくないんです。試合だったら、キーパーでもかなり動くでしょうに」


「それは困ったな」


 と言いつつも、全く困った素振りを見せない先輩。

 ……何か、宛でもあるのだろうか?


「俺はなんと言われてもやりませんからね。この前みたいに合コンで話を釣ろうとしても、今の俺には無意味です」


 彼女がいるから。

 合コンなんて行ったら本気で殺されるから。


「合コンは一切考えていなかったな」


 あ、そうなんすか……。

 ちょっと自信満々に言ったもんだから、恥ずかしいでは無いですか。


 だったら、無理にさせるつもりがないと考えていいのかね?


「今回、お前に参加してもらう為に、サッカー部であるものを揃えた」


「結局俺を誘うんかい」


 もう少し俺以外の人を頼ろうとは思わないのか?

 人脈無さすぎじゃない?


 ーーーーしかし、今の俺の意思は大分固いぞ。

 柊夜にあんなこと言われてしまったが、それはPK戦の範疇での話だ。

 それ以上に労働力が増えるとあれば、この話は聞かなかったことにして欲しい。


「もし、お前が参加するならーーーー」


「先輩、俺は本気で動きたくないんです。ただでさえ最近忙しくて休めてないのに、これ以上の労働なんてーーーー」


「サッカー部で密かに入手した、鷺森の秘蔵写真をくれてやろう」


「……」


 ま、麻耶ねぇの秘蔵写真……だとっ!?


「それに、銀髪の嬢ちゃんの写真もプレゼントだ」


 か、神楽坂の写真まで……っ!


 ほ、本音を言えば超欲しい……!

 秘蔵写真ともなれば、俺が普段入手できないようなすごいアングルからのベストショット写真に違いない!

 し、しかし……それだけでは俺の心は……まだ、突き動かせない……!


「そ、そんな事じゃ俺を釣ることはできませんよ!だいたい、人を物で釣ろうなんて考え自体がーーーー」


「しょうがない、なら生徒会長の写真もくれてやろう」


「ーーーーさて、俺は今から練習試合の為のストレッチをしてきますので」


「うむ、扱いやすくて助かる」


 俺は先輩に頭を下げると、脱兎のごとく皆のいる場所へと向かう。


 仕方ない、練習試合、やろうじゃないか!


 べ、別に写真に釣られたからじゃないからね!せっかく着替えたんだから、協力してあげようと思っただけだから!


 ……それにしても、三人の秘蔵写真かぁ。

 俺が持っているやつじゃないといいな。


 よし、後で先輩に必ず写真を貰おう。

 そして、帰ったら直ぐにアルバムに閉じるんだ!








 そんなこんなで、予定は変更となり、練習試合をすることになった。

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