強い意志は彼女の一言によって消え去るのです!

 入学式はつつがなく終わった。

 面白くもない校長先生や来賓代表の挨拶も終わり、新入生が一人一人壇上に上がり、入学の証であるバッチを渡され、最後は生徒会長と新入生代表の挨拶。


 壇上に上がる柊夜の姿はとても凛々しく、生徒会長の威厳を感じられた。

 そのことを後に褒めたら、顔を真っ赤にして照れました。

 その顔が素直に可愛いと思ってしまいました、はい。


 ……それにしても、新入生代表の子も可愛かったなぁ。

 まぁ、実際に会って話すことなんてないんだけどね。


 というわけで時は過ぎ、現在お昼休憩。

 俺達は違うクラスであるにも関わらず、いつものメンバーで机を合わせて食事をとっていた。


「望、お願いがあるんだけど」


「嫌だ」


「即答で断らないでくれないかな?」


 そう言って、俺の正面で困り顔をするイケメン。

 ほどよく切り揃えられた黒髪に、妬ましいほどの整った顔立ち。一言で表すなら『イケメン』。

 ————死ねばいいのに。


「死ねばいいのに」


「……どうしていきなり罵倒されたのか分からないけど、とにかく話を欲しい」


 本当に困っていそうな顔をするイケメン————佐藤一輝さとう かずきがしつこくお願いを聞かせようとする。


 ……いや、親友の頼みでもあからさまにめんどくさそうだから嫌なんだけど?


「話ぐらい聞いてあげたらどうですか望さん」


「そうだよ!話はちゃんと聞かないとダメなんだからね!」


 嫌がっていると、美少女二人から軽く怒られてしまった。

 ……神楽坂よ。その発言は微妙に意味合いが違うぞ?


「……はぁ、仕方ない。話だけ聞いてやろう」


 正直気がめちゃくちゃ進まないが、二人に言われてしまったら聞くしかない。

 最近、二人には頭が上がらないのは気の所為だろうか?


「ごめんね――――それで、お願いなんだけど、今日の部活動紹介に参加してくれないかな?」


 でたー!

 本気でめんどくさそうな内容が来たよー!


 部活動紹介。

 それは新入生を確保する為、各部活が新入生を招いてアピールする場。


 そんな行事で、俺に動け働けと?


 俺ね、出来れば動きたくない人間なわけよ?

 家でまったりしたいし、ゲームしたいし、残ってる家事とかしなきゃいけないし、忙しいの。

 ただでさえ新学期も始まって生徒会も忙しいのに、貴重な放課後をつぶしたくない。


 だから、ここは丁重ではなく本気で却下しよう。


「いいですよ、佐藤さん」


「待て待て柊夜。何を勝手にOKしているんだ」


 断ろうとした瞬間、俺ではなく柊夜が代わりに返事をしてしまった。

 しかも、俺の意見とは真逆の参加意思の表明。


「いいではありませんか?親友が困っているのですよ?」


「困っているのは俺もなんだが?」


 主に勝手に発言された件についてにだが。


「どうしてダメなの?別に参加してあげてもいいと思うんだけど……」


 不思議そうに首をかしげる神楽坂。

 愛嬌のある仕草は大変可愛らしい。おっもちかえりー!したい。

 すみません、してましたね、現在進行形で。


「あのな?部活動紹介って、サッカー部だったらデモンストレーションやら練習試合で絶対に体動かすだろ?俺は動きたくないの、生徒会も忙しいし、無駄な時間を過ごしたくないの」


 分かって欲しい、この気持ち。

 最近、バイトやら生徒会やらで碌に休めてないんだから、放課後と言う貴重な時間を奪わないで欲しいんだ。


「佐藤くん、時森くんは参加するって」


「俺の話聞いてた?」


 どうして俺の話を聞いても、そんなことが言えるのだろうか?

 いじめ?俺をいじめてるの?


「……そもそも、お前らはどんな立場で勝手に決めてるんだよ?」


「彼女として」


「同居人として」


「そんな当然みたいな顔をするな」


 どちらの立場でも決定権とかないから。決めていいのは俺だけだから。


「二人とも、そう言ってくれるのは嬉しいけど、やっぱり無理を言う訳にはいかないよ」


 どうしてだろう?

 お願いをしている人の方が物分かりが良くて優しい気がする。

 お願いする立場なのに。


「……ちなみに、俺の意見は覆らないと思うが、何をさせるつもりだったんだ?」


「望にはキーパーをお願いしようと思ってたね。それで、僕がシュートを打つ」


 ……なるほど。


「つまり、お前は俺が無様に負けて、自分がかっこいい所を桜田先輩に見せるわけだ」


「ごほっ、ごほっ!?な、何を言っているの望!?」


 俺がその言葉を言うと、一輝は綺麗に咳きこんだ。

 フフフ、お可愛いやつめ。どうせ一輝の好きな人————桜田先輩にいい所を見せようと思ったのだろう。

 野球部のマネージャーである彼女は、同じグラウンドにいるもんなぁ?見てくれるだろうし……そりゃ、いいところも見せたいよなぁ?


「分かってる分かってる。親友の思ってることなんて、すぐ分かるさ~」


「違うって!」


 そんな必死に否定しなくても~。

 逆にその必死さがより顕著に物語っているんだぜ?


「では、望さんはその親友の為に頑張らないといけませんね」


「待て、それとこれとは話が違う」


 確かに、親友の恋路の為なら協力してやろうって気になるが、流石にこれはめんどくさい。

 何時間拘束されるか分からんからな。


「では、望さんが必ず参加してしまう魔法の言葉を言って差し上げましょう」


「はっ!俺の意思は固いぜ?いくら彼女だからって、簡単に俺が参加するとでも――――」


「私は、望さんのかっこいい姿が見たいです」


「……」


「……」


「……一輝、俺の分のユニフォームを用意してくれ」


「……わ、分かったよ」


 ずるい……本当にずるい気がする。

 彼女に、かっこいい姿が見たいなんて言われたら————断れないじゃないか。


 ……あぁ、くそっ。自分の単純さに嫌気がするなぁ。

 やばい、少しだけ顔が熱い気がする。


「……ひぃちゃん、本当に隙を作るつもりないよね」


「ふふっ、当たり前じゃないですか」



 俺の強い意志なんて、彼女の一言で消え去ってしまう。

 彼女が初めてできた俺は、脳内辞書にしっかりと記録しておいた。




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