この想いは強まるばかり

(※千歳視点)


 えっ!?えー!!!

 や、やっぱり時森先輩と遊園地回っちゃうの!?


 手を引かれ、前を進む時森先輩の後ろ姿を見て、私は未だに戸惑いを隠しきれない。

 都心から少し離れた場所にあるこの遊園地。その敷地に足を踏み入れた。


 周りにいるのは、子供連れの家族や……その……カ、カップルさんだらけ……!

 わ、私達もそんな風に見えているのかな!?


「どれ乗るよ大和後輩?」


 楽しそうに笑みを向ける時森先輩。

 その笑顔に、少しばかり心臓が跳ね上がってしまう。


「わ、私は何処でも大丈夫です……」


「う〜む……実は俺も初めてだから勧めれる場所がねぇんだよなぁ……」


 あ……悩ませてしまいたかったわけじゃなかったんですけど……。

 こ、こういう時ってやっぱり自分の意見はちゃんと言わなきゃダメなのかな?

 ……未だに人見知りが解消されてない私がちょっと辛いよ。


「まぁ、歩きながら何か探してみるか! それで、何か面白そうなやつがあれば行ってみようぜ!」


「は、はいっ!」


 前向きに、楽しむ事を考える。

 相手を不快にさせないよう、それでいて相手を引っ張ってくれる。


(懐かしいな……)


 鮮明に残る記憶の中には、これと似たようなやり取りがあった。

 それが懐かしくて、嬉しくてーーーー


(本当に、私は時森先輩と出かけてるんだ……)


 思わず笑みがこぼれてしまう。


 昨日、西条院先輩から連絡があった時は驚いた。

 なんの要件もなく、ただあの場所に来て時森先輩に会って欲しいとの事だけ。


 疑問符で埋め尽くされた頭の中は、次の通知の言葉によって消え去った。


『私は、私が得てしまった幸せの責任を取らなければなりません。だからこそ、私が与えれるのはこの機会だけーーーーどうか、後悔のないよう大和さんのしたい事をして下さい』


 あぁ……これは勝てないな。

 そう思ってしまった。


 容姿も、頭も、人望もある西条院先輩が、自分の彼氏を貸してくれるのだ。

 きっと、何もかも理解した上で……私の気持ちをスッキリさせる為。

 私がズルズルと気持ちを引き摺らないようーーーー後押しをしてくれたのだ。


 なんて器が大きんだろう。

 西条院先輩から来たこの通知は、私に負けを認めさせるには充分だった。


 私だって、気持ちを整理して未練を無くせるものなら無くしたい。

 でもーーーー


(時森先輩と一緒にいたら、余計に気持ちが抑えられないです……っ!)


 引かれる手の感触が、私のこの気持ちを上げてしまう。

 西条院先輩は、どうしてこれで私の気持ちを抑えられると思ったんだろう?


「おっ! あそこに面白そうなものがあるじゃん!? いくか、大和後輩!?」


「い、行きましょう! 私も少し気になっていました!」


 未だに西条院先輩の言った意味が分からないけど……とりあえず、今日という日を楽しもう。


 そう思った。



 ♦♦♦



 コーヒーカップにて


「時森先輩!? 流石に回しすぎですよ!?」


「はははっ! これぐらいがいいんじゃないか!?」


 ジェットコースターにて


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


「きゃぁぁぁぁぉぁぁぁぁっ!?」


 お化け屋敷にて


「おわっ!?」


「きゃっ!?」


 なんかもあったりして。

 行き当たりばったりの遊園地は楽しかった。


 驚かされることもあったり、笑い合ったこともあった。

 それはそれで楽しくて……何より、時森先輩と一緒にいる事が楽しかった。


「次はどこ行くか大和後輩!?」


「そうですね……私は、もう1回ジェットコースターに乗ってみたいです!」


「じゃあ、さっきのとは別のジェットコースターでも探してみるか! 前と同じのは味気ないかもしれないからな!」


「はいっ!」


 いつの間にか、西条院先輩の言っていた言葉を忘れていた。

 ただただ、この時間をめいいっぱい過ごすことだけに夢中になっていた。


 繋がれていた手はーーーー未だに離すことはない。


「それにしても……大和後輩は意外にも絶叫系が好きなのか? 乗り終わった後、すっげぇ楽しそうにしてたし……」


「そうですね……私も子供の時以来でしたのであまり覚えていませんがーーーー多分、好きなんだと思います」


「なんじゃそりゃ」


 ははは、と。

 時森先輩は楽しそうに笑う。


「ふふっ、なんでしょうね」


 それにつられて、私も笑ってしまう。

 本当に楽しくて、未練など忘れなければならないなどと言う想いも捨ててーーーー余計にこの気持ちが強くなってしまう。


「おっ!? あそこに面白そうなジェットコースターがあるじゃねぇか!?」


「本当ですね! 行きますか?」


「もちろんだ大和後輩!」


 少し早足で、外れにあるジェットコースター乗り場に向かう。

 繋がれた手は、もちろんそのままだ。


(楽しいなぁ……)


 時森先輩はいつも明るい。

 それでいて、細かいところに気を使ってくれる優しさがある。

 それは、今日だけで嫌という程分かってしまった。


 故に……故にこそーーーーこの時の私は大馬鹿者だったと思う。


 だってーーーー




(あぁ……大好きだなぁ……)




 忘れなきゃいけないこの想いが、どんどん膨れ上がってしまったのだから。

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