大和後輩は人見知りなあの子だった
時刻は夕刻。
意外と楽しかった大和後輩との遊園地はあっという間にパレードに突入してしまった。
お化け屋敷にジェットコースター、コーヒーカップにジェットコースター、メリーゴーランドにジェットコースターなどなど。色々なものに乗った。
……いや、絶叫系多くね?っていうか、ジェットコースターが多すぎる。
でも、仕方ない。これも大和後輩が好きだったからなのだ。本当に仕方ない。
何度も吐きそうになったが、後輩の笑顔の為だ……本当に、仕方なかった。
「うわぁ……綺麗ですね……!」
ゴンドラに揺られ、真上から見下ろせるパレードの光景に、大和後輩は嬉しそうな声を漏らす。
「……本当にな」
現在、俺達は観覧車に乗っていた。
まぁ、疲れきっているからーーーーという理由もあるのだが、そろそろ帰らないといけない為、最後の締めくくりという事でこれに乗ったのだ。
ナイトパレードにも興味があるのだが、流石に明日は学校だ。
これ以上の長居はするべきじゃないだろう。
「本当に……綺麗だよなぁ」
俺からも感嘆とした声が漏れてしまう。
昇る夕日は遮蔽物がないためよくその光を差し込ませている。
さらに言えば、観覧車から覗く街並みは夕日に照らされ輝いていた。
ほんと、綺麗だよなぁ。
世の若者がここで告白するのも頷けるよ。
今、この瞬間はあまりにもロマンチックだ。
(俺も、こういうところで告白するべきだったかな……)
俺の時は夕方という時間は同じものの、ここほどのロマンチックさはない。
だからこそーーーー
(……こんな場所で、大和後輩に告白される奴は幸せ者だろうな)
夕日に照らされる大和後輩は綺麗すぎる。
オレンジ色の光と大和後輩の無邪気な顔が見事なコントラストを描いていた。
そんな彼女に、今告白される人は物凄い幸せ者だろう。
こんな時も場所も雰囲気も完璧なこの場所で、こんな美少女の告白だなんて、ロマンチストの俺じゃなくても羨ましい。
いや、こんなこと言ったら柊夜達に失礼か。
「今日は楽しかったか大和後輩?」
「はいっ! すごく楽しかったです!」
テンションがハイになっている大和後輩は無邪気な笑顔を向けた。
それだけで、今日と言う日が無駄じゃなかったのだと思えてくる。
結局、柊夜は何を向き合えと言ったのだろうか?
今日と言う日はただただ大和後輩と楽しく遊んだだけ。
これと言って特別なことがあったわけでもなく、涙の理由を聞けた訳でもない。
本当に、普通に遊んだだけだ。
(もし、このまま何も無かったら……少しばかり罪悪感が芽生えてしまうな)
少しだけ感情が陰ってしまう。
だってそうだろ? 彼女じゃない女の子と一緒に楽しく回っていたんだぜ?
柊夜は気を利かしてこの場を作ってくれたのだろうがーーーーそれを、俺は今答えを見つけれずにいる。
……まぁ、理由については帰りに大和後輩に聞いてみるか。
こんなに楽しそうにしている大和後輩に水を指す訳にもいかないからな。
「時森先輩……」
「……ん?」
「時森先輩は、覚えていますか?」
不意な質問。
特に真剣味を帯びている訳でもなく、会話の一つとして投げかけてきた言葉。
だから、俺は自然と答えていた。
「何の話か、聞いていいか?」
「ふふっ。その様子では、覚えていないみたいですね」
くすり、と。
楽しそうに口元に手を当てて笑う。
だけど、俺に至っては何の話しをしているのか分からないので、頭には疑問符である。
「私、中学の時に時森先輩と会っているんですよ? ……覚えていませんか?」
「待て、流石にそんな大事な事をサラリと言うな。……今から必死に思い出す」
「頑張ってください、時森先輩♪」
俺は必死に頭の中で、過去を洗い出す。
いや、でもあの時期は女子にモテるために必死だったから、こんなに可愛い子と会っていたら覚えていそうな気がする。
だけど、どれだけ頭をフル回転させても大和後輩らしき人物と会ったような記憶が思い出せなかった。
それから数十秒。
仕方なく、それでいて申し訳なさそうに両手を上げた。
「……すまん、思い出せねぇわ」
「大丈夫ですよ。あの時の私は、時森先輩の周りの人の一人に過ぎませんでしたから」
特に気にした様子もなく、大和後輩は外の景色を見る。
そして、感慨深く懐かしむように口を開いた。
「昔の私って、実は今よりも相当な人見知りだったんです。クラスの皆とも打ち解けられなくて、話せなくて……友達は蜜柑ちゃんだけでした」
「ほぉ……今の大和後輩からは想像つかないな」
今の彼女は、人見知りした様子もなく、こうして普通に話せている。
それどころか、こんなに可愛い子だったら柊夜やアリスみたいに皆に囲まれてそうなのに。
「そんな時です。一人の男の先輩が教室にやって来て、人見知りな私を無理矢理外へと連れ出しました。ーーーー私の話を聞かず、その手を引いて、『人見知りは勿体ないぞ?』って言いながら」
……おや?
何処かで覚えのあったようなシチュエーションだな……。
「……もしかして、その男子生徒ってプリント集めに教室に来た人だったりする?」
「はい、そうですよ。何でも、先生からの罰だったそうです」
……やべぇ。
すっげぇ思い出してきた。
中学三年生の時。
確か、他学年のプリントを集めに教室に行って、そこで妙にオドオドした女の子に会った気がする。
そこで、俺は無理矢理その子をプリント集めに協力させてーーーー
「……あの時の女の子、だったのか」
「そうです……あの時、無理矢理手を引かれたーーーー内気で人見知りな女の子です」
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