四度目の告白

(※千歳視点)


「おぉ……そうだったのか! いや、昔と雰囲気がガラリと変わっていたからなぁ……変わり過ぎじゃね? 昔の時ってもっとオロオロしてただろ?」


「ふふっ、オロオロしていましたよ? それはもう、どこかの先輩が私の話も聞かずに無理矢理連れて行くんですから」


「あー……すまんな」


 どこか遠い目をして、時森先輩は申し訳なさそうに口にする。


「気にしていませんよ。まぁ……あの時の私は一言申したかったですけどね」


 どうしてだろう? 

 こうして時森先輩からマウントをとれているこの瞬間が異常な高揚感が芽生えてきます。


「けど……今は、違いますよ」


「……違う?」


「はい……あの時の私は「どうして私の話を聞いてくれないの!?」と思っていましたが、今は全く違いますよ」


 昔は悪態の一つでもついただろう。

 しかし、今となっては違う。あの時の私があったから、今の私があるのだから。


「あの時、時森先輩が無理矢理私を引っ張ってくれなければ、今の私はありません。生徒会に入って、皆と仲良くこの学校生活を謳歌することはなかったと思います」


 ゆっくりとゴンドラが頂上を目指す。

 この時間の終わりを刻一刻と刻んでいるようだ。


「そんなことねぇだろ? 俺はただ、無理矢理手伝わせただけだぞ?」


「違いますよ。時森先輩は私をあの輪に入れてくれたじゃないですか」


 そう、時森先輩は怯えて踏み出せなかった私に一歩を与えてくれたのだ。

 加わることができなかった集団の中の輪に、勇気を無視して私を加えさせてくれた。


 それが……どれだけ嬉しかったことか。

 きっと、時森先輩には分からないだろう。


「加わってしまえば、私が不安に思っていたことなど関係ありませんでした。会話など、趣味など、途切れることは合っても邪険にされることはない————それが分からなかった私にとって、その発見は大きなものでした」


「……」


「だからこそ、私は次に活かすことが出来ました。先輩がいなくても、蜜柑ちゃんと同じように————怯えていた輪の中に……入ることが出来ました」


 それも……それも全部————


「時森先輩のおかげです……本当にありがとうございました」


 改めて、数年越しのお礼を頭を下げて口にする。


 やっとお礼が言えた。

 数年越しに言いたかったことが言えた。

 それだけで、私の中には満足感が芽生えてしまう。


「それは違うぜ大和後輩」


「……え?」


 だけど、時森先輩は真っすぐ私を見据えて否定の言葉を吐く。


「確かに、俺はお前の人見知りが治って欲しいって思って無理矢理連れだした側面もある。————だけど、それは大和後輩自らが踏み出した結果に過ぎない。それは、俺のおかげでなくて大和後輩の努力と勇気によるものだ」


「……ッ!?」


「大和後輩が踏み出したいと願ったからこその結果————そこに、俺が関与した部分はない。だから……よく頑張ったんだな。よく一人で、ここまで話せるようになったもんだ。すげぇよ、本当に————大和後輩は逞しくて強かな……強い女の子だ」


 その瞳は本当に私を褒めてくれているようだった。

 瞳は優しく、口元には笑みを浮かべている。


 ……あぁ、ダメだなぁ。

 やっぱり……やっぱり、この気持ちはどうしようもないです。


 西条院先輩が羨ましい。

 こんな先輩を独り占めしているんだから。


 だからこそ、西条院先輩はどうして私を時森先輩と一緒に過ごさせたんだろう?

 この想いは時森先輩と過ごせば過ごすほど、強くなってしまうだけなのに。


(……もしかして、西条院先輩はこれが目的なのかな?)


 私のこの想いを強くさせて、私にあの一言を言わせる為に。


 でも、どうして?

 西条院先輩からしてみれば、人の彼氏を奪ってしまうような発言はしてほしくないはずじゃ————


『どうか、後悔のない選択を』


 ————そうか。


(西条院先輩は、私にこの気持ちを伝えて向き合って欲しいんだ……)


 きっと、私はあの一言を言ったら沈んでしまうだろう。

 答えなど、もう決まっているのだから。


 だけど、それではいつまでも私はこの気持ちに引っ張られてしまう。

 後悔ばかりが、募っていってしまう。


 ……だから、この気持ちを伝えて、答えを受け止めて、そして向き合えと言っているんだ。

 向き合った結果がどこに向かおうが、私が前を向いていられるように————


(敵わないなぁ……)


 本当に、女の子としての格を見せつけられたような気分だ。

 これなら、時森先輩の横を歩いていても不思議じゃない。

 だけど、だけど————


(そしたら、私は諦めませんよ?)


 ずっと、私は時森先輩を好いてきたのだ。

 そこに彼女である西条院先輩の気持ちを無視して、私がこの気持ちと向き合ってしまえば、絶対に時森先輩を諦めずに振り向かせようとするだろう。


(でも、多分……西条院先輩からしてみれば「望むところ」なんだろうなぁ)


 きっと、鷺森先輩も神楽坂先輩も、そうして今まで過ごしてきたんだろう。

 だったら……私は————


「時森先輩……」


「……ん?」


 ————諦めなくてもいいよね?






























「私は、時森先輩のことが好きです」


 ゴンドラが終着点に到着した瞬間、私は夕日差し込むこの場で


 時森先輩に告白した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る