現れたのは三人ではなくてーーーー
翌日。
晴れ晴れとした天気の中、俺は電車を乗り継いで少し離れた遊園地に来ていた。
都心とは離れているものの、やはりレジャー施設の近くということもあってか、朝っぱらから活気に溢れている。
今日は一輝の恋の進展を見守る為。
本人に内緒でこっそり様子を伺おう!ーーーーそう言う話をしていて、俺と柊夜、アリスと麻耶ねぇで一緒に来る予定だったのだが……。
「アリスは風邪、麻耶ねぇは用事があるって言われた……」
一緒に住んでいるアリスに「行こうぜ!」と声をかけたのだが、風邪を引いたの一点張りで部屋から出てこなかった。
今度は麻耶ねぇに電話したら「ごめんね望くん! 今日、お姉ちゃん用事ができちゃったの!」と言われてしまいドタキャン。
……まさか、ここに来てキャンセルとはなぁ。
まぁ、別に良いんだけどさ……。
遊園地の入口ーーーーから少し離れた公園。
そこで俺は残りの柊夜を待つためにここのベンチに腰掛けている。
入口なんかで待ったら一輝達に鉢合わせしてしまいそうだからな。
今日は隠密なのだ。バレないようにしないと。
「それにしても遅いな……」
時刻は10時過ぎ。
集合時間は10時前なので、若干オーバーしている。
時間にきっちりな柊夜が遅れるわけがない。
……なんかあったのか?
やばい、少しだけ不安になってきた。
事故に巻き込まれていなければいいんだが……。
「と、時森先輩……」
なんて心配をしていると、不意に後ろから声をかけられた。
先日聞いたばかりの声。おどおどと不安そうな声をしているが、何処と無く透き通っているようで可憐さを感じる。
声につられて後ろを振り返った。
そこには、やはりと言うべきかーーーー
「大和後輩……?」
「は、はい! おはようございますっ!」
白いワンピース姿の大和後輩がそこにいた。
ストレートの黒髪を下ろし、小さな手提げバックとワンピースが清楚感を漂わせている。
隣を歩く男性はきっと目を引かれるに違いないーーーーそう思わせる程、私服の彼女は可愛らしかった。
……どうして大和後輩はここに?
というより、柊夜はどこにいるのだろうか?
「大和後輩はなんでここにいるの……?」
「あ、あの……西条院先輩にここに来てくれと言われたからなのですけど……あれ? お伺いしていなかったのですか?」
聞いてない。
というより、聞いてない。
本当に、聞いていない。
「……すまん、大和後輩。少しだけ電話してきていいか?」
「あ、はい……どうぞ」
大和後輩から許可を貰い、少しだけ離れた場所に移動する。
……やっぱり、柊夜が何かしたんだろうなぁ。
そんな確信たる思いを抱きながら、俺は柊夜に電話をかけようと携帯を開く。
すると、そこには一通のメールが届いていた。
送り主は柊夜。
……タイミング良すぎないか?
若干の違和感を感じつつも、俺はそのメールを開いてみることにした。
〜〜
望さんへ
きっと、今頃大和さんと合流していると思います。
昨日のお話の続きーーーーと言う訳ではありませんが、私なりの責任をこのような形でとらしていただきました。
……まぁ、望さんがほかの女の子と一緒に過ごすことは嫌ですが、今回ばかりは仕方ありません。
望さんには、この気を境にしっかりと彼女に向き合ってください。
西条院柊夜より
〜〜
「全く……相談なしに決めるところがなんというか……」
柊夜らしいな。
まぁ、柊夜としては俺と大和後輩が一緒に遊園地で遊ぶことによって蟠りを無くさせよう……って考えなんだろう。
確かに、一緒に遊べば仲良くなれるし、どこかのタイミングでさり気なく、昨日泣いた理由を聞けるかもしれないしな。
……ふむ、こういった場をすぐ作ってくれる当たり、俺の彼女には頭が上がらねぇ。
俺は感嘆とした気持ちを抱き、感謝を送りながら、スマホの画面を閉じる。
大和後輩を一人であまり待たせてしまうわけにはいかない。
それに、せっかくだから楽しもうじゃないか。
……当初の目的とは違うが。
だから俺は己の中でこの事態に完結をつけ、大和後輩の元に戻った。
「すまんな大和後輩。ーーーーじゃあ、行くか」
「え、えっ?行くって何処にですか!?」
小顔な彼女の表情が戸惑いに変わる。
予め、柊夜から聞かされていなかったのだろうか?
そりゃ、何処って言われてもーーーー
「遊園地に決まってるだろ? 柊夜から事情は聞いたし、今日は二人で楽しもうぜ?」
「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
どうしてそこまで驚くのか?
そう言う疑問が浮かび上がるが、俺は無視して大和後輩の手を引く。
(今日をきっかけに、何か分かればいいんだが……)
どうして泣いてしまったのか?
それに、俺と大和後輩の間には昨日から僅かばかりの溝が生まれてしまったような気がする。
それが埋まるように、何かが解決できるようにーーーー
「今日は楽しもうぜ大和後輩!」
「は、はい……」
ハイになったテンションな俺と、未だ戸惑う大和後輩。
そんな二人は、外れた公園を出て遊園地の入口へと向かった。
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