初日の指導は終了して
「そんじゃま、生徒会の大まかな仕事だけを伝えておこうか」
俺は二人に柊夜作の一枚の紙を二人に手渡す。
「本来、生徒会は生徒を代表して、行事や風紀を取り仕切ることにある。この学校では、生徒の自主性が重んじられている為、大体の決定権は生徒会に委ねられているわけだが————まぁ、最終的に先生のチェックが入るから、下手なことはできないようになっている」
例えば朝礼や、来賓行事などの先生主体で行うことは教師主導で行うのだが、それ以外の体育祭や文化祭、臨時の生徒総会など、その他のイベントは全て生徒会が仕切っているのだ。
「もちろん、生徒を代表して取り仕切るのだから、それに伴う責任ものしかかってくるわけだ。例えば、必要のない機材を発注したりだとか、行事のプログラムミスなんか、非難の先は生徒ではなく生徒会。だから、あまり半端な気持ちで臨まないで欲しい」
2人は、紙を真剣に見ながら、神妙に頷く。
「だから、ギャルいは大丈夫か……?正直、なんで生徒会に入って来たのか不思議で仕方ないし、お前が一番心配なんだが……」
「さっきの真面目な雰囲気台無しですよ……。失礼上乗せですね」
そう言って、ギャルいは嘆息ついて肩を落とす。
いや、だってさ?こんな成りで生徒会入ってんだよ?
あからさまに「イェーイ!まじまんじー!」とか言ってふざけてそうなイメージしかないんだもん。
「……こう見えて、私は千歳っちに続いて2位の成績保持者なんですよ?」
「嘘だッ!!!」
「今時ひぐらしは時代遅れなのでは?」
仕方ないじゃん、ひぐらし好きなんだもん。
それに、こいつが成績優秀者なんて信じられない。まだ、柊夜がCカップあるって言う話の方が信じれる。
「本当ですよ時森先輩。蜜柑ちゃんは私の次に試験の成績がよかったです」
「な、なんだと……っ!?」
こいつが成績優秀者!?
見た目完全ギャルで、普段から遊びまくっていそうなのに、頭がいいだなんて……。
「この学校の入試も、落ちたものだな……」
「千歳っち、私スタンガン持ってきたんだけど、今使っていい?」
「み、蜜柑ちゃん……なんでスタンガンなんて持ってるの?」
額に青筋を浮かべたギャルいが、スタンガン片手に臨時戦闘態勢をとっていた。
もしかしたら、この学校は女子でも猟奇的な発想を持っている人がいるのかもしれない。
「とりあえず、お話は分かりました。私も蜜柑ちゃんもしっかり生徒会の仕事をしますよ————ね、蜜柑ちゃん?」
「うん、結城先輩にしっかりしているところを見せる為にも、私、頑張ります!」
動機が不純な気もするが……まぁ、真面目に仕事をしてくれるのであればよしとしよう。
「んじゃ、早速お前達の仕事を伝えよう――――しっかりメモしとけよ?」
♦♦♦
「こ、こんなにあるのですね……」
「う~ん……私、覚えられるかなぁ~?」
書記の仕事、会計の仕事をそれぞれ伝え終わると、二人は苦悶の表情をする。
ギャルいは顎に人差し指を当てて、唇を尖らしながら心配そうに声を上げた。
その仕草は、大変あざとい。
可愛いが、あざとい。
「先輩、私こんなにも無理ですよぉ~!」
そして、俺の隣に座ってきて、そのまま身を寄せる。
一般男子ならノックアウト。彼女の上目遣い&困ったアピールは中々の破壊力だった。
「あざとい」
「あざといっ!?」
ギャルいは文句なしの美少女だろう。
それこそ、大和後輩も含めて学園3大美女に匹敵するほど。
しかし、なぜだろう?
ここまであざとかったら、ドキドキも何も感じず、ただただ鬱陶しい。
それに、ここで靡いたら確実に柊夜に殺されてしまうから……っ!
「しかしすごいですね、時森先輩は……こんな仕事量をお一人でこなしているだなんて……」
「確かに、顔こそ平凡で、性格こそクソったれだけど……この仕事量をこなす器量だけは褒めてあげます……」
「お前は先輩への敬意をどこに捨ててきたんだ?」
前半バリバリ貶してるじゃねぇか馬鹿野郎。
やはり、ギャルいにはいつか先輩に対する敬意というものを教えなければならないようだ。
「でも正直な話、この量を私達がこなすのは難しい気がします……慣れている状態であればまだしも、私達入ったばかりなんですよ?」
俺なんか事前告知も何もなかった状態で、この仕事をさせられたんだけどな……。
何を甘ったれたことを言っているのか?お前は、上司から渡された仕事に文句を言うのか?
と、流石にそこまでは言わない。
最近になって気づいたが、多分この仕事量は異常で、それをこなしている俺がおかしいだけなんだ。
これぞ、社畜技術ってやつなのだろうか?
だったら、なんとも身に着けたくないスキルを身に着けてしまったのか……今すぐドブに捨ててきたい。
「流石にそこまで言わねぇよ。始めに言った通り、補佐がお前たちの仕事だ。俺が渡すものだけやってくれればいいし、分からなかったら随時教えてやるから」
「と、時森先輩が教えてくれるんですね……!」
すると、大和後輩は何故か頬を染め、うっとりとした目でメモした紙を見つめる。
……風邪か?
「とにかく、始めは失敗でもなんでもしろ。俺がカバーしてやるし、一緒に謝ってやるから、お前達は気楽に生徒会というものに取り組んでくれ————それが、俺から与える、最初の仕事だ」
俺は言いたいことを言い終わると、資料を持って準備室を出る。
教育はとりあえず今日は終わり。始めはこれぐらいでいいだろう。
もどって、柊夜に帰らせてもいいとお願いしなくちゃな。
日も沈んできたし、入学当日ぐらいは早く帰らせてあげよう。
どうせ、明日から忙しくなるんだからな。
そんなことを思い、俺は生徒会室へと向かった。
♦♦♦
「……ふぇ?」
「あ……っ」
準備室に取り残された二人は、望が出ていったのにもかかわらず、その場を動こうとしなかった。
しばらく虚空————もとい、先ほどまで望の座っていた場所をただただぼーっと見つめている。
「や、やっぱり……時森先輩は……っ!?」
「な、なにアレ……?先輩のくせにちょっと……か、かっこいいんですけど……?」
二人が準備室を出たのは、それから十数分のこと。
その時、二人の顔は真っ赤に染まっていた。
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