ギャルいの理由

 時刻は18時を回っているにも関わらず、まだ辺りは明るい。

 そんな中、俺とギャルいは近くのファミレスへと来ていた。


「そう言えば、どうしてお前は生徒会に入ったんだ?」


 ドリンクバーでついできたメロンジュースをちびちびと飲んでいるギャルいに、少し疑問に思って尋ねる。


「そんなの、かっこいい結城先輩がいたからに決まってるじゃないですか」


 かっこいいの部分が無駄に強調された気がする。あれか?俺を馬鹿にしてんのか?


 しかし、その発言には違和感しか無かった。


「お前、それは嘘だろ?」


「……は?」


 ギャルいは驚いた声を上げる。


「な、何言ってるんですか先輩〜?どうして私が嘘言ってるって思ったんですか〜?」


 しかし、その表情も一瞬。

 すぐさまいつもの小馬鹿にするようなあざとい笑みに変わった。


「いや、かっこいい先輩がいるだけで続けんだろ普通?生徒会って、思ってる以上にキツイ仕事だしな」


 生徒会の人数は7人。

 それに対して全校生徒は千人を超えているのだ。


 それを取り締まり、管理する生徒会の仕事は並大抵の量じゃない。

 こいつみたいに外見遊んでいそうなやつが入ったらすぐにでも辞めてしまうだろう。


 生徒会の補佐はあくまで自主性。

 辞めたければ辞めれるなんとも羨ましいポジションなんだ。


 まぁ、確かに。一度入ってしまったから辞めるのが気まずいって言う理由もあるかもしれんが……それでも、強い目的がないと務まらないーーーー俺はそう思ってる。


 ……あれ?俺、大した理由もないのに続けてるんだけど?おかしくない?


「……」


 ギャルいは面食らったように口をポカンと開けてしまう。


「いや、まぁ別に言いたくないなら聞かないし、単純に気になっただけだから気にすんな」


 これで変な空気になっても嫌だからな。

 だから俺はそうそうに話を切り上げた。


「あ、いや……そ、そうですね……」


 しかし、ギャルいは未だに戸惑って上手く言葉が紡げていない。

 いや……別にそこまで意識しなくてもいいんだけどさ?


「べ、別にそこまで重たい理由とかではないんで、話しても……いいですよ?」


「何故疑問形で返してくる?」


 いらんわ、そんな疑問形。

 そして、ギャルいはハッと我に帰ったのか、再びその口元を歪ませた。


「あれぇ〜?こんな可愛い子の理由、聞きたくないんですかぁ〜?」


 先程までのあざとさは一体どこに行ったのか?

 思わず額に青筋が浮かびそうだ。


(しかし……これも先輩としての務めなのかもしれん)


 柊夜の親父が、上に立つものとして、下の話をよく聞くべきだと言っていた。

 それはコミュニケーションを図ると同時に、相手の事を考えた動きができるからとか。


 であれば先輩として、こんなにあざとくて癪に障るやつの話を聞かなければいけない。


「……仕方ない、話したいなら話せばいい。仕方ないけどな」


「どうして「お前が話したいから仕方なく」みたいな反応するんですか?」


 いや、事実そうじゃないか?

 さっきのあざと発言のどこに俺が聞きたくなるような要素があったんだよ?


「まぁ、いいです……」


 ギャルいは嘆息つくと、手元にあるジュースを一気に飲み干した。

 そして、ストローで氷をいじりながら、もの鬱げに語る。


「私が生徒会に入ったのはなんですよ」


「負けたくない?」


「そうです、私は負けたくないんですよ」


 ギャルいは、俺の顔は見ずにそのまま言葉を続ける。


「私と千歳っちは幼なじみなんです。幼稚園の頃からずっと……」


「ほう?だから仲がいいのか」


「ですです。それで、千歳っちとはずっと一緒にいて、小中も、高校も一緒です」


 本当の幼なじみ。彼女達はずっと一緒にいた。俺と麻耶ねぇよりも時間は違うようだ。


「千歳っちって本当になんでもできるんですよ。運動も出来ますし、今回の入試の成績を見たら分かる通り、勉強も出来ます」


「ほぉん……」


 大和後輩が……ねぇ?


「そんな千歳っちと一緒にいると劣等感が半端ないんですよ。周囲は千歳っちしか見ないですし、私はいつも二番目ーーーーでも、甘えてしまったらどんどん離されちゃう」


 甘えーーーーつまり、大和後輩に縋ることだろう。少しでも妥協してしまえば、それこそ二番目ではなくなってしまう。

 一生大和後輩には追いつけなくなってしまう。


「だから私はこの劣等感を抱きながらも頑張ってるんです。いつか周囲を見返す為、いつか千歳っちに勝つ為。私に才能がないのは分かってますけど」


「……」


「凡人、劣等者ーーーー上等ですよ。それでも、私はこの劣等感を無くしたい。そう呼ばれてでも勝ちたいんです。だから私は千歳っちに負けないように生徒会に入ったんです」


 そして、最後には自嘲気味の笑みを浮かべた。


「どうです?こんな遊んでいそうな奴がこんなこと言って可笑しいでしょ?笑っていいですよ、先輩」


 ……は?

 何言ってんだこいつは?


 俺がどうしてギャルいを笑わなくてはならない。

 俺は、ギャルいに対してーーーー


「笑うわけないだろ、馬鹿が」


 笑みなどない真面目な顔で言い放った。

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