新学年!ここからスタートです!

 ここ、私立桜ヶ丘学園は全校生徒1000人を誇る進学校である。

  俺は中学時代男子校だったため、地元から近くて共学の高校に通いたいがために進学校である桜ヶ丘学園の入試を受け、入学し――――そして、2年生になった。


 桜が咲くこの季節。

 初々しい気持ちでこの学校をくぐった俺は、今ではすっかり馴染んでしまい、逆に初々しい姿で門をくぐる新入生を教室の窓越しに眺めていた。


 俺————時森望ときもり のぞむは少し感慨深くなってしまう。


 あぁ……俺も、あんな緊張した顔つきで入学したのかねぇ?

 正直、去年のこの頃は「彼女が欲しい」の一心だったような気がする。


 果たして、これだけの新入生の中に俺と同じ気持ちを抱くひとは何人いるのだろうか?

 そんな夢見る男子よ。一言だけ言っておこう。


「その夢、叶うぜ」


「何を馬鹿なことを言っているのですか……」


 俺が夢見る男子にありがたい言葉を贈ると、不意に横から声をかけられる。


「柊夜か」


「そうですよ。あなたの愛しい彼女です」


「愛しいなんて堂々と言えるなんて……まじリスペクトっす」


 腰までかかるサラリとした金髪。誰もが可愛いと認めるほど整った顔立ちに、お淑やかな雰囲気の美少女。そして、悲しいほど平らな胸――――あぁ、神様。何故ここまで整えておいて、最後の大事な部分はお恵みにならなかったのか?これではあまりにも彼女が可哀想すぎ――――


「失礼なことを考えているのはこの頭ですか?」


「こ、こめかみがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 ミシミシって!ミシミシって頭から聞こえてくるんですけど!?

 やめて!?俺の頭が卵みたいに割れちゃう恐れがあるからぁぁぁぁぁ!


「……はぁ、望さんの考えていることなんて分かるんですから」


 小さくため息をつき、俺の頭から手を離す金髪美少女。

 俺の頭は、絶賛痛みの余韻が残っております。


「エスパーっぷりが健在で、俺は驚きを隠せません」


「そうですか?あなたの彼女であれば当然だと思いますけど?」


「……多分、関係ないと思う」


 俺、この先一生浮気なんてできないのではないだろうか?

 まぁ、するつもりもないのだが……。


 夢見る男子よ、紹介しよう。

 彼女の名前は西条院柊夜さいじょういん ひいよ。なんと日本では知らない人はいない超大手企業西条院グループの1人娘。おまけに全国模試では2回連続1位をとってるいるぐらいの頭脳明晰っぷり。学校では僅か1年で生徒会長を務めるほどの人気者の1人。


 そんな美少女様――――実は、俺の彼女です。


 はっはっはー!信じてないな?

 正直、俺も付き合って1ケ月近く経つが、未だに現実味を帯びていないので仕方ないと思う。


 でも、信じて欲しい。

 こんな美少女様が、俺の彼女。マイガールフレンド。以上、よろしく!


「しかし、もう俺達も2年生か……」


「えぇ……早いものですね。それに、少し寂しくもあります」


 俺達は感慨深く教室の窓から外を覗く。

 慣れ親しんだ教室とは違い、今は新しく変わった教室。まだ全員揃ってはいないが、知らない生徒が大勢このクラスに集まっている。


 クラス替え――――1年生のクラスメイトの何人かは一緒のクラスになることができなかった。


 それは仕方ないだろう。

 何故なら、この学校は地域一のマンモス校。

 その為、一学年と言えど多くの生徒が在籍しており、そのクラスも多く存在する。

 なので、仲が良かったクラスメイトと離れるのは少し寂しく感じてしまう。


「アリスも佐藤さんも違うクラスになってしまいましたね」


「そうだな……幸い、二人は同じクラスみたいだから、幾分かはマシだと思うが……」


 1年生の時、いつも一緒にいるメンバーであった2人は違うクラスになってしまった。

 それでも、関わる機会が全くなくなったわけではないので、関係性が崩れることはないと思うのだが……。


「まぁ、どうせ昼休憩とか生徒会室でまた会うだろ」


「……そうですね」


 寂しそうな表情をしていた柊夜は、少し元気な表情に戻る。


「今にして思えば、私は望さんが一緒のクラスであれば、さして問題ありませんし」


「……さしてとか言うのやめない?」


 嬉しいんだけどさ?友達が離れても問題視しないのは流石によくないと思うよ?

 いや、まぁ……嬉しいんだけどさ?


「ふふっ、これで誰にも邪魔されずにお付き合いしている者同士の行為ができますね」


「いや、それは多分できないと思う」


 手を繋ごうと手を伸ばした、柊夜に待ったをかける。


「どうしてですか?」


「……あれを見てみろ」


 俺は教室の隅を指さす。

 そして、その先を追って柊夜が視線を動かした。


『おい、あいつまた西条院さんと仲良くしてるぞ』


『去年は違うクラスで、半信半疑だったが……どうやら、噂は本当のようだ』


『殺っちゃわない?僕、今年も同じ光景を見せられて吐き気がするんだよねぇ~』


 そこには唇を噛みしめながら、嫉妬の念を送ってくる男子達の姿があった。

 クラス替えをしたのにも関わらず、こんな光景が我がクラスで行われていると考えると――――俺、頭が痛いです。


「分かったか。ここでイチャイチャした光景を見せれば、俺は三途の川にダイビングしなくてはいけない恐れがあるんだ」


 本当は、世のカップルがしているみたいにイチャイチャしたい。

 折角彼女ができたのに、春休みは一向にカップルらしい行動は出来ず、こうして新学年を迎えてしまった。


 できることなら、学校でのイチャイチャイベントを――――でも、殺されてしまっては意味がないんだ!


「俺には分かる!これ以上柊夜と仲良くしていたら俺が殺されるということを……!」


 それは過去の経験則からなのか……妙にその確信だけは抱けた。

 去年とクラスメイトが違うはずなのに、どうしてここだけは変わらないんだろうなぁ……?


「しかし、私は望さんがどうなろうと一向に構わないと思えるほど、イチャイチャしたいです」


「俺が殺されたらイチャイチャできないからな!?」


 どうしてこの子はこんなにも人の命を軽々しく見捨てることができるのか?

 俺、彼氏なんですけど!?あなたの想い人の男の子何ですけど!?


「では、入学式の準備もありますし、体育館に向かいましょうか?」


「その前に、柊夜の俺に対する扱いにじっくり話し合いたい所存です」


 という俺の発言も無視して、教室から出ていく愛しき彼女。


 ……はぁ。

 まったく、この先が思いやられる。


 しかし、こんなやりとりも悪くないと思えてしまうのは、彼女が好きからなのか?


 よく分からないが、とりあえず俺は柊夜の後を追った。

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