誰にも言ってはいけませんっ!

「柊夜」


「何ですか?」


「俺は真面目な話をしているんだ……だから、ちゃんと聞いて欲しい」


 日付も変わり、いつものかったるい授業が始まる新学期二日目。

 朝一番の授業も終わり、現在移動教室もないゆったりとした小休憩。


 そこで俺は、柊夜を呼んで真面目な話を切り出した。

 両膝を立て、手を顎下で構える。これは某〇条院グループ社長がよくやる格好だ。


「だからどうしたんですか?ハネムーンはイギリスで問題ないという話で纏まったじゃないですか」


「誰がそんな話したよ?」


 話が明後日の方向に飛躍し過ぎである。

 いや、まぁ……イギリスがいいならイギリスでいいのだが……。


「そこは後日またゆっくり話し合おう」


「冗談で言ったのですが、そこを真剣に考えてくれる望さんが好きですよ」


「そ、そうですか……」


 クスリと笑って俺の好意をストレートにぶつけてくる柊夜に、少しばかり照れてしまう。

 ……そ、そんな話をしたいんじゃない!


「俺は、柊夜に伝えておかなくてはいけないことがあるんだ!」


 俺は声を大にして柊夜に叫ぶ。

 この気持ちだけは伝わって欲しい。これは俺の将来に「ま、まさか……別れようと言う話なのですか…?」違う、そうじゃないから泣くのをやめて欲しい。


 話が一向に進まないだろうが。


「俺達、付き合ってるよな?」


「えぇ。誰が何と言おうと私達は付き合ってます。望さんが別れようと言い始めても、強制的に付き合ってます」


「すまん、後半部分は一切理解できんのだが?」


 特に強制的って部分が分からない。と言うより怖い。


「とにかく、俺達は付き合ってる。そして、それを知る人物は限られてるよな?」


「そうですね。アリスに鷺森さん、結城さんに佐藤さんしか知りませんね」


「あぁ、だから俺はこれ以上俺達が付き合っていると言う事を知られたくない。だから、俺は柊夜にお願いしたいんだ」


「皆さんに伝えるな……と?」


「その通りだ」


 物分りのいい彼女で助かる。

 流石は俺の彼女だ。


「私的には皆さんに言ってもいいと思うのですが……というより、言いふらして自慢したいです」


「やめろ。俺の命が危なくなる」


 ここだけは物分りが良くないようだ。

 というより、後半部分は自慢したいだけじゃないか。


「仕方ないーーーー俺達が付き合っているとバレた時のシミュレーションをしてみようじゃないか」



 〜シミュレーション〜


「俺、実は柊夜と付き合っているんだ……」


「なんだとぅ?……パキャ(←足の骨が折れる音)」


「冗談も休み休み言えや……ボコッ(←腹を鈍器で殴られる音)」


「面白いよ〜本当に、時森は面白いなぁ〜!……コキュ(←首があらぬ方向に曲がる音)」


 〜シミュレーション終了〜



「ーーーーな?俺の命が危ないだろ?」


 俺はシミュレーションを交えて説明する。

 すると、柊夜は顎に手を当てて少し考え込んだ。


「しかし、それは考えすぎなのでは?」


「お前、去年あのクラスで過ごしてきたのに、よくそんな事を言えたな?」


 俺が何回死の淵を彷徨ったことか。


「例えば、こんな風に祝福されるかもしれませんよ?」



 〜シミュレーション2~


「俺、実は柊夜と付き合っているんだ……」


「お!やったな時森!……パキャ(←足の骨が折れる音)」


「友達として嬉しいぜ!……ボコッ(←腹を鈍器で殴られる音)」


「おめでとう〜!友達として二人を祝福するよ〜!……コキュ(←首があらぬ方向に曲がる音)」


 〜シミュレーション終了〜



「いかがでしょう?」


「いかがでしょう、じゃねぇよ馬鹿野郎!?」


 こいつはシミュレーションの会話の不一致に気づかないのかね!?

 明らかに前シミュレーションと同じ目にあっているだろうが!?


 彼氏の死を肯定するんじゃないよ!


「我儘な恋人ですね……」


「我儘なというより、生きたいという意思なのだが?」


 肩を竦める柊夜に対して、俺は若干悲しくなってくる。


「しかし、望さんがそう望むのであれば……私はそれでも構いませんよ」


 すると、柊夜は辺りを見渡し、周囲にを確認する。

 そして、誰もこちらを見ていないと分かるとーーーー


「こうして、誰にも内緒でイチャイチャするのも悪くありませんし」


 そう言って、俺の唇に己の唇を当ててきた。

 それはただ触れるだけのキス。しかし、何故か前回の時よりも顔が熱くなってしまったのを感じた。


「お、おまっ!?」


 俺は慌てて唇を押さえ、顔が熱くなりながら言葉にならない声を上げる。


「それに、私はあなたが嫌がることはしませんよ」


 そう言って、柊夜は己の席へと戻っていく。

 そろそろ授業のチャイムが鳴る時間。俺も、気持ちを切り替えなければいけないのだがーーーー


(……やばい、今のは流石にやばすぎる)


 唇の感触が今でも残っている。

 それは、前回の時とは違う全くの不意打ち。

 だからなのか、周囲の連中が訝しむような目を向けてきても冷静になれないのは。


(くっそ……この小悪魔ちゃんめ……っ!)


 俺は席に座りクスクスと笑う柊夜に悪態をついた。

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