嫉妬と不安

 ギャルいの彼氏を作る手伝いをすると言ってから早二日。

 体育祭の準備は着々と進み、後は体育委員を決めるだけとなった。


 そんな日の放課後。

 生徒会の仕事を終えた俺達はーーーー


「悪い……アリスと麻耶ねぇ、今日は先に帰ってくれ」


 鞄を持ち、生徒会室を出る前に麻耶ねぇとアリスに声をかける。


「それはいいいけど……今日は何かあるの?」


 アリスが書類をファイルに閉じながら聞いてくる。


「あぁ、実はーーーー」


「せんぱ~い! 早く行きましょうよ~!」


 言いかけた途中、ギャルいが扉の前で鞄を持って口を挟んでくる。


「今から行くから少し待て! ーーーーというわけで、今日はギャルいと用事があるんだ……すまんな」


「う、うん……」


 俺はアリスに軽く頭を下げると、足早にギャルいの元に向かう。

 ……全く、せっかちな後輩で困ります。


「さっさと行きましょうよ~! もう、遅いんですから!」


「……じゃあ、さっさと仕事覚えような?」


「うっ……! それは善処する方向で……」


 善処というか努力をしろ。

 ……まぁ、こいつなりに努力している部分は見てきてるから、あまり無理は言えないんだけどな。


「まぁ、さっさと行くか。モタモタしてないでさ」


「それ、私のセリフなんですけど?」


 ギャルいのトゲのある目を受けながら、俺達は生徒会室を後にした。



 ♦️♦️♦️



(※アリス視点)


 望くんが言い残し、生徒会室を出ていった。

 それを見た私はーーーー


「浮気っ!? 望くんってもう浮気しちゃったの!?」


 パニック状態に陥っていました。


「お、おおおお落ち着いてください神楽坂先輩っ!? と、時森先輩がう、浮気だなんてそんなことある訳がっ!?」


 私と同じことを思ったのか、千歳ちゃんもファイルを落として大慌て。

 言ってる自分が落ち着いていない。


「皆さん、落ち着いてください」


 すると、ひいちゃんがティーカップを持った状態で私達を諭してくる。


「だけどひいちゃん!? 望くん蜜柑ちゃんと二人っきりでどっか行っちゃったよ!? 二人っきりだよ!?」


「しかも私達に何の報告もなしですよ!?」


 まぁ、本当は私達に報告なんてする義務もないんだけど!?

 で、でも……いつもならちゃんと言ってくれるもん! 報連相はちゃんとしてくれるもん!


「望さんが浮気だなんて……そんなことするわけがないじゃないですか」


 ひいちゃんは望くんが浮気強いているかもしているかもしれないいのに落ち着いた声音で話す。

 これが正妻の余裕なのかな? 


 でもーーーー


「……ひいちゃん、ティーカップを持っている手がめちゃくちゃ震えてるけど?」


「ッ!?」


 もう、中身が溢れそうな勢いだよ。

 よく見れば、体も微妙に震えている。


「しょ、しょうがないじゃないですか!? 望さんが私に何の報告もなく二人っきりで出掛けたんですよ!? これが落ち着いていられますか!?」


 ひ、ひいちゃんに逆ギレされました……。

 どうやら、落ち着いた声音で話いていたのも、単なる虚勢だったみたいです。


 まぁ、そうだよね。

 悔しいけど、羨ましいけど、ひいちゃんは付き合っているんだもん。

 私達より不安になるのは仕方がないと思う。


 私も、付き合っていないのに不安になっちゃうんだから……。

 こんなに不安になるってことは、未だに本当に好きなんだなぁ……諦めてないけどね!


「で、でも……蜜柑ちゃんは可愛いですし、皆からの人気も凄いですから……浮気しちゃう気も分かってしまいます……」


「「……」」


 私とひいちゃんの不安が一気に加速する。

 蜜柑ちゃんは社交性がとても高い。私達とは違って、本当にクラスで人気者の女子高生って感じなのだ。


 そう考えたら、望くんが浮気しちゃう気持ちも……。


「い、今から問い正しに行ってきます!」


「わ、私も!」


 不安が行動を呼んでしまう。

 だから私達は立ち上がり、望くん達の後を追いかけようとする。

 するとーーーー


「落ち着いて二人とも~」


 PCに向かって文字を打ち込んでいた麻耶さんが止めに入ってきた。


「ど、どうして止めるのですか鷺森さん!? 望さんが浮気しているのかもしれないのですよ!?」


 ひいちゃんが激情する。

 だけど麻耶さんは焦った様子もなく、いつもの声音で口を開いた。


「望くんは浮気なんてしないと思うよ~? だって望くんはしっかり物事に筋を通すし、人を傷つけるような事はしない責任感の強い子だからね~」


 それは分かっている。

 そんな望くんが好きになったんだから。


「多分、私達になにも言わなかったのは単に言えない理由があっただけで、きっと今も誰かの為に動いてるだけーーーーお姉ちゃんはそう思うな~」


「「「……」」」


 麻耶さんの言葉に、私達は黙りこんでしまう。

 言われてしまえば、確かに望くんがそんなことをするはずもない。


 だけど、信じられず不安に駆られてしまった。


(やっぱり、麻耶さんが一番望くんの事を分かってるんだなぁ……)


 そんな中、一人だけ望くんを信じ、落ち着いていた。

 それは望くんと長い時間を過ごし、一番理解しているからこそ。


 ……悔しいなぁ。

 私の中で敗北感が生まれてしまう。


「大丈夫、望くんは絶対にそんなことしないからーーーーだから、落ち着いて望くんのしたいことをさせてあげない?」


 最後に麻耶さんが言った言葉に、私達は言葉が出なかった。


 もちろん、問いただしに行くこともーーーーしなかった。

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