彼氏を作るお手伝いをします

「……最近、先輩と仕事をする機会が増えた気がします」


「そんな嫌そうな顔をするな」


「先輩だってめちゃくちゃ嫌そうな顔してるじゃないですか」


「何? めちゃくちゃカッコいい顔だって?」


「先輩は早急に耳鼻科に行くべきですね」


 というやり取りをしつつ、俺達は黙々とPCに文字を打ち込んでいく。

 多目的室の開いた窓からは涼しげな風が入ってくる。もうすぐ夏だと言うのに心地よいものだ。


「『主に体育委員では、競技内容を決め、クラスを取りまとめる仕事を行う』ってな感じでいいですかね?」


「そんな感じでいいんじゃね?」


「りょうかいでーす」


 会議が終わり、俺達は早速多目的室で作業を行うことに。

 面倒くさいものは早めに終わらすに限るからな。


「先輩」


「どした?」


 ギャルいが顔を向けずに声をかけてくる。

 俺も視線はPCから離さず、声だけで返事する。


「女の子って、どうやったら輝くか知ってます?」


 ……いきなりなんて話題を振ってくるんだ。


「それは哲学的な話か?」


「そんな難しい話じゃありませんよ」


 女の子が輝く……か。

 多分、照明を当てたらーーーーなんて話ではないのだろう。

 物理的ではなく内面的に、その女の子が輝く瞬間を指した質問ーーーー


「さぁなー。俺、女の子じゃないから」


「……これだから鈍感くそ野郎は」


「お前から聞いてきたのに酷くね?」


 答えられないだけで罵倒されるクイズは初めてだ。


「正解は……恋ですよ」


「はぁ……?」


 何、真顔で言い出してんの? こいつが恋だなんて……面食いのくせになぁ。

 がしかし、笑うことはしない。流石に空気を読めない男ではないからだ。


「いや、私も実感した訳じゃないんですけど……周りを見てたらそうなのかなー? って」


「周りねぇ……?」


「それに気づかない辺りが先輩はダメなんですよ。もう手遅れです」


「事あるごとに貶してくるけど……お前、俺に恨みでもあるの?」


 最近の若者は先輩に対しての敬意が全くをもってなっていない。

 まともなのは大和後輩くらいだ。


「ほら、千歳っちとか鷺森先輩とか神楽坂先輩ーーーーあと、西条院先輩とかですね」


「あ、あぁ……」


 ……確かに、そう言われてみればそんな気がする。

 恥ずかしいが、アリスも麻耶ねぇも柊夜も……俺を好きって言ってくれた時はいつも以上に輝いていた気がする。


 もちろん、これは比喩的な表現で、自然とそう俺に写っただけなのだが。

 最近では、大和後輩が顕著に変わった気がする……目がキラキラしてんのよ、あいつ。


「それで? いきなりどうしてまたこんな話題を?」


「いえ……私も彼氏を作ろうかなって思いまして」


「いきなりだな」


「悪いですか?」


 いや、悪くはないんだが……こう、もうちょっと雰囲気を出してからと言いますか……。


「それを俺に話した理由は?」


「はい、先輩に手伝って貰おうかなーって思いました」


 ……何故だろう? すっごい懐かしいデジャブを感じる。


「……普通、そう言うのって友達とかに手伝ってもらうべきじゃないか? ほら、大和後輩とかクラスの人とか」


「千歳っちはあー見えて恋愛経験ないんっすよ。それこそ先輩が初恋だって言ってました」


「……」


 それを正面で言われた俺はどういう反応をすればいいのだろうか?

 ……普通に嬉しいようで恥ずかしい。


「クラスの友達も、結構茶化したりあまり頼りになんないので……消去法で先輩でした」


「消去法……」


 頼りになるからーーーーなんて理由じゃないのね?

 俺、最近メンタルがボロボロである。


「先輩って一応付き合ってるじゃないですか? そういった意見とかくれたら嬉しいです」


 いつになく真面目な顔をするギャルいからはいつものあざとさは感じられない。

 だからなのか、少し違和感が強いのは。


「……正直、俺も経験少ないぞ? 柊夜が初めての恋人だし」


「そんなこと言ったら私は一度もいませんよ。自慢ですか?」


「は……?」


 俺はギャルいの言葉に思わず呆けてしまう。


「え? お前、一回も付き合った事ないの?」


「……なんですか? 悪いです?」


「いや……お前みたいに可愛い子だったら、何回も付き合っていそうなイメージがあったからさ……」


 見た目こそギャルだが、ギャルいは確実に美少女の部類に入る程の女の子だ。

 遊んでいるようにも見えるし、正直恋愛経験も豊富だと思っていた。


 やっぱ人は見かけによらないよなぁ。

 柊夜もアリスも麻耶ねぇも大和後輩も今まで一度も付き合ったこと無かったみたいだしーーーー美少女は付き合わないような習性でもあるのだろうか?


「……ありがとうございます」


 少しの間を空けて、ギャルいはほんのりと顔を赤くしてお礼を言う。

 ……うーむ、やっぱりあざとくないギャルいは違和感があるなぁ。


「まぁ、俺はこれでも彼氏を作る手伝いをしたことがあるーーーー手伝ってやる分には、問題は無い」


「流石です。その顔に似合わずそんな事をしていた経験があるなんてーーーー頼りになります」


「……もう、褒める気ないだろ?」


 俺は肩を沈め、作業する手を止めた。

 なんか一気にやる気がなくなってしまった。


「でも、ありがとうございます……先輩」


 最後に呟いたギャルいの瞳は、嬉しさと同時に焦燥感が混じっているように見えた。

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