飲み会!※お酒は飲みません

「「「「「かんぱーい!!!」」」」」


 某居酒屋。

 そこでは数人のスーツを着た男性達が一つのテーブルを囲んでいた。


 もちろん、語り部である俺も一緒に同席しているわけなんだけど……違和感が半端ない。

 社会人の中に高校生ーーーー違和感だなぁ。


「時森くんよくやった! 今日はお疲れ様!」


「いやぁー、案外K大の奴らも大したことなかったッスね!」


 あーはっはっはー! と。

 皆一様にテンションが上がっていた。


 何の番組か分からない撮影も無事に終わり、こうして俺は連れていかれるがままにここに足を運んだ。

 と言うのも、何時もなら社長が送ってくれるのだがーーーー


『社長からの言伝です。「今日は娘とディナーなんだ。先に帰らさてもらうよ」との事です』


 らしく、俺は一人置いてけぼりにされた。

 ふざけんな!折角あいつの驚く顔を見たいが為に……それと、馬鹿にされたからクイズ頑張ったのに先に帰りやがって!ーーーーと、叫びたかったが自重。

 これもお仕事だ。ギャラが別途支給されるらしいので、よしとしよう。

 ……今度このお金でみんなとご飯にでも行こうかな。


「それにしても凄いな君は。問題の半分を持っていかれたよ」


「何を言っているんですか大和さん。こんなの一般教養ですよ」


 隣に座ってハイボールを飲んでいる大和さんが褒めてくる。


 結果としては社会人チームが圧勝。

 流石は西条院グループと言ったところか、大学生にも負けないくらいに凄かった。


 いやぁ〜、それにしてもK大生の奴らの顔凄かったな〜!

 ほとんど答えれなくてすっごい悔しそうな顔してたもん!今日のジンジャエールが美味く感じるぜ!

 あ、みんなお酒飲んでるけど、俺は飲まないからね? 未成年だし。


「あれが一般教養って言ってる高校生はお前ぐらいなもんだよな!」


「流石は社長の懐刀! 恐れ入ったよ!」


 皆テンションが高いなぁ……。

 そんなに俺を上げないでください……。


「でも、これで僕達の面子も保たれたよ。西条院グループで働いている以上、会社の評判を下げる訳にはいかなかったからね」


「マジで俺の力じゃないッスよ。どちらかと言うと皆さんの力です」


 だって俺、会社の評判の為に頑張ったわけじゃないし。

 クソ野郎の驚く顔が見たかったのと、馬鹿にされたからやっただけだから。


「時森くんは高校卒業したらこの会社に入社するのかい?」


「いえ、まだ決めていませんがーーーー」


 一応、ここでバイトしているのは社会勉強の為であって、ここで働く為じゃない。

 為じゃないのだがーーーー


「最近、徐々に外堀が埋められているように感じるんですよ……」


「君も苦労してるんだね……」


 会議に出席させられたり、しょっちゅう顔合わせに連れて行かされたり、こうしてTV番組に出演させられたり……これで入らないってなったら、皆に変な顔されそう。


「なんだぁ〜!?時森はここに入らないのか!?」


「もったいない!もったいないよ!」


 話を聞いていた他の先輩達が食いついてきた。


「部署によって違うが、基本給は25万!福利厚生バッチリ!歩合もボーナスもついている!」


「それだけではありません!社員旅行や年末行事もありますし、何より西条院グループに入社しただけで履歴書に箔が付くのです!」


「そ、そうなんっすね……」


 二人の勢い余った剣幕に、思わずたじろいでしまう。

 確かに、聞くだけなら凄いんだが、実際に働いている内容がなぁ……。

 鬼なんだもん。鬼鬼。


 正直、俺は安定して稼げれて、尚且つアリスが心配しないように定期的に休みが取れる職を望んでいるんだよなぁ。後、やってて面白いの。


「でも、なんだかんだで君は入社しそうだよ。同じ部署で働けるか分からないけど、そしたら俺も面白そうで嬉しいけどね」


「大和さんまでそう言いますか……」


 にこやかな笑みで大和さんがそう言ってくる。

 ……まぁ、入社するかもしれないし、しないかもだから確証は言えないけどーーーー


「おら、じゃんじゃん食べろ! 今日は経理から金が出るんだ!」


「そうですよ!遠慮せずに食べてください時森くん!」


(この先輩達なら面白くていいけどな……)


 入社してみてもいいかもしれない。


 先輩達を見て、そう思ってしまった。



 ♦♦♦



「大和さん、大丈夫ですか?」


「すまないね、時森くん……」


 しばらくテンションの高い飲み食いが終わり、俺は帰宅。

 明日は仕事がお休みらしく二次会へと向かう先輩達だったのだが……。


「大和さんってお酒弱いんですね……」


「恥ずかしい事にね……」


 なんと大和さんだけは別行動ーーーーと言うか帰宅。

 青白い顔で、現在俺の肩に寄りかかっている状況だ。


 タクシーで地元の駅まで連れて行ってもらい、住所も教えてくれないまま現在「あっち」「こっち」で大和さんの家まで送っていっている。


 本当ならタクシーで家まで連れていくのだが、あの時は吐きそうなくらいぐったりしていたのだ……かろうじて最寄り駅まで分かった俺を褒めて頂きたい。


(タクシー代と、家までの送迎は今日の授業代としておくか……)


 今日は社会人の一幕を勉強させて貰った……気がする。

 だからこれは必要出費だ。最近はどうにもお金を貰いすぎている気がするしな。


「ここが俺の家だぁ……」


「だぁ、じゃなくて頑張って下さいよ。後少しなんでここで吐かないで」


 どうやら、家に前までやって来れたらしく、大和さんが立ち止まる。

 見た感じは普通の一軒家。しかし、どうにも先輩は限界値に達しそう。


 なので、俺はゆっくりと玄関横のインターホンを鳴らす。


 するとーーーー


「お兄ちゃん、遅いよ!どこ行ってたの!?」


 バタバタと足音が聞こえ、勢いよくドアが開かれる。

 そこには青い寝巻き姿の見た事ある女の子が血相を変えて登場しーーーー


「……大和後輩?」


「えっ!? 時森先輩?」



 どうやら、ここは大和後輩の家でもあったようだ。

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