お仕事ほいほい

 長かった1週間も終わり、学生にとって待ちに待った休日土曜日。


 嫌なことに今日は雨。

 洗濯物大丈夫かなぁ……と言うより、アリスが洗濯を失敗しないか心配だなぁ……。


 何て不安を抱いてしまうただ今。

 ふざけるなと言う思いを胸に、俺は現在車に乗って移動していた。


「……社長」


「何かな、我が息子よ」


「まだ違いますよ……って言うか、その話を仕事でしないで下さい」


「アハハハハッ!すまないすまない!」


 謝罪の気持ち何一つなく豪快に笑うおっさん。

 くそぅ……腸が煮えくり返りそうだ。


「その話はまた後日と言うことで……」


「後日って事は、籍を入れる覚悟があると?」


「話進めさせろやクソ親父」


 豪華な車内。

 そこで俺は初めて暴力沙汰を起こしてしまいそうになった。

 って言うか、ここで上下関係がなければとっくに殴ってる。


「それで、何か用かね我が息子よ?」


「話進めたいので息子発言はスルーしますけど……私達、今何処に向かっているのですか?スケジュールとは違う場所のようですが……」


 車窓から外を眺める。

 次の予定は新宿のはずなのに、何故かお台場の景色が一望できた。


「予定が変わったのだよ。急遽別の仕事が入ってしまったんでね、会議は延期だ」


「俺、秘書なんですけど? 源さんがいないから見習いじゃなくて本当の秘書なんですけど?」


 どうして秘書に予定を言ってくれないの?

 勝手に言われても困るんですけど?


 ……結構な時間この仕事をやってきたのに、俺って信用ないのかね?

 まぁ、高校生が何言ってんだって言われたらお終いなんだけど。


「ははっ!そう不貞腐れないでおくれ。ちょっとしたサプライズを含めてなんだ。楽しみにしていてくれたまえ」


 決して不貞腐れていない俺に対して、社長は豪快な笑いを見せる。


 ……不貞腐れていないもん。


 サプライズって言ったって、どうせ会議に参加とか無茶ぶりをしてくるんだろ?

 分かってるよ、お前の魂胆なんか!


 へっ、俺は今まで何十回と社長の会議に参加したんだ!


 今更どんな事があっても驚きなんかしないぜーーーー



 ♦♦♦



 ーーーーなんて思ってた時期が俺にもありました。


『さぁ、やってまいりました『クイズ・ミラクル☆』! この番組は西条院グループの提供でお送りさせていただきます!』


『『『『わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』』』』


 スタジオの観客席からは大きな歓声が上がる。


『今回は現役大学生VS現役エリート社員とのガチンコ対決!さぁ、皆さん頑張ってくださいね!』



 若い男性やら女性やらが多いのは、この番組が若い層の人によく見られるからだろう。

 ……番組、ねぇ。驚きました。


『今回はあのK大の成績優秀者と、日本人なら誰もが知る西条院グループの選りすぐりの社員さんが参加してくれました!』


 K大って、そこそこ偏差値高かったよね?

 その中の成績優秀者って……。


 チラリと横を見る。

 そこにはスーツを身に纏った若手の精鋭達の姿が。

 いやー、見るからに「エリート」って感じだよね!

 これなら大学生にも負けなさそうだ!


 あーっはっはっはっはー!


(んなわけあるかあんのクソジジイィィィィィィィィィィィィィッ!!!)


 内心憤怒。

 俺は客席でふんぞり返りながら笑みを浮かべているおっさんにガンを飛ばす。


「えーっと……君って確かバイトの子だよね?」


「……はい」


「……何歳なんだい?」


「高校生です……うぅっ」


 隣に座っている先輩社員から同情の目を向けられる。

 しくしく、悲しきかな。

 どうして俺はこのメンバーに選ばれてしまったのか……。


(あんにゃろー、「我社が提供しているTV番組の見学」とか言っておいて……なんで俺が出演されるんだ!?)


 俺もTVが生で見られんの!?と、嬉嬉として来たのにさぁ……。

 何コレ? 見学って文字はどこに行ったのよ?

 って言うか、大学生相手にクイズ番組って勝てる訳ないじゃん。

 ぶち殺すよ?


『しかし何と!? あの西条院グループには17歳と言う若さでその力を発揮しているメンバーもございます!』


『『『『おぉ〜〜〜〜!』』』』


 客席から感嘆とした声が漏れる。

 止めて、そんな出来る子みたいな反応しないで。


『おい、マジかよ……』


『あの入社試験が難しい西条院グループに高校生が……!?』


『どうせコネで入ったんだろ?』


 大学生達の後半に聞こえたセリフは間違ってないので言い返せないな……。


 って言うか、これで無様晒したら恥かくよな?

 分かってんの?勝てねぇよ……?


『優勝したグループには西条院グループが運営しているレジャー施設の1年間パスがゲットできます!』


 俺は再びあのふざけた顔を見る。

 くっそぉ……ニヤケ面しやがって……!


 どうせ俺の無様な姿が見たいんだ……ふざけやがって!


(やってやんよゴラァァァァァァァァァァァァッ!!!)


 そのふざけた面を驚愕の色に染めてやる!!!

 そして、この俺を嵌めた事を後悔させてやるこのクソジジイが!!!


『さぁ、皆さん張り切って参りましょう!!!』


 やったろうじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る