つ、次こそは勝ってやるんだからねっ!
「ほら、俺お手製のパエリアだ」
「ふふっ、ありがとうございます」
生徒会も終わり、俺はテーブルに料理を並べていく。
今日のメニューは簡略したパエリアで、本格的に作ったものとは明らかに劣るだろうが、それでもそこそこの出来映えになったと思う。っていうか、上手く作れたと思う。
「美味しそうですね……本当に、望さんには驚かされてばかりです」
「こんなん男としての当たり前のスキルだ……と言っておこう」
少しだけ嬉しく感じ、俺は笑みを浮かべながら椅子に座る。
テーブルを挟んで、部屋着に着替えた柊夜が同じく笑みを浮かべて料理を見やる。
少し薄着なその格好が目のやり場に困ってしまう。
……あれ? 俺彼氏だからじろじろ見ていいのでは?
現在、俺は柊夜の家に訪れている。
柊夜との時間を作れていないと感じた俺は、一緒に帰りたいと思い、柊夜と一緒に帰ったのだ。
その際、空きっ腹で「腹へったなー」と呟いた際に「では、私の家で食べますか?」と言われたので、こうして柊夜の家でご飯を食べることになった。
……まぁ、話の流れから「お、柊夜が作ってくれるの?」と思ったのだが、どうやら違ったみたいだ。
made in 俺。
「私、まだ料理できないのです……」と、言われてしまっては作るしかない。
男は女の子を支えてやりたくなる生き物なのだ。
「では、早速いただいてもいいでしょうか?」
「おう、召し上がれ」
そして、少しばかりの緊張を携えて俺達は晩飯にありつく。
……アリスには麻耶ねぇの家で食べてくれって言ったんだが、これなら誘ってもよかったかもなぁ。
「あっ……美味しいですね」
「そうか……それはなにより」
美味しいと言われると、少しだけ照れるな。
けど、それでも嬉しいと感じてしまう辺り、俺は料理が好きなんだなと思ってしまう。
「突然一緒に帰ろうと言われたときは少し驚いてしまいましたよ」
「そうか?」
「えぇ……最近は電話が多かったものですからね」
確かに、最近は柊夜と夜に電話するだけで、学校以外のプライベートでは一緒に過ごしていなかったからなぁ。
……だからこそ誘ったのだが。
「最近はこうして二人っきりなんてあんまなかったろ? だからいい加減……まぁ、な」
「あら? それは私と過ごしたかったということですか?」
「……悪いかよ」
「いいえ……全く」
図星を突かれて、少しふて腐れてしまう。
仕方ない、男の子だから図星突かれたらそうなっちゃうの。
「それに、私も望さんに会いたかったですから……望さんから言い出してくれてよかったです」
「……そうかよ」
「そうですよ? ……望さんは私以外の女の子とすぐ仲良くなってしまいますから、私は不満でしたーーーー大和さんにも好かれていたみたいですし」
「それはお前が焚き付けた部分もあるだろうが……」
「ふふっ、そうですね」
拗ねてみたり、笑ってみたり……本当に、俺の彼女はどこか掴めない部分があるよな。
でも、そこが愛しいというのは俺だけだろうか?
「では、せっかくですし恋人らしい事でもしてみますか?」
「恋人らしい事……というのは、俺が今からルパンダイブをするあの行為のーーーーことでおけ?」
「全然よろしくありません。それに、いざそういう事になったら、絶対に躊躇うのは貴方ですよ?」
確かに、それはその通りだな。
恥ずかしい話だが、柊夜といざそういう場面になれば、確実にチキる自信があるぞ。
「恋人らしい事というのはですねーーーーはい、あーん」
「……なるほど」
恋人らしいというのは食べさせ合いっこのことか。
フッ……どうせ、柊夜は俺が恥ずかしくなって戸惑うことを想像しているのだろうがーーーー今の俺は違う。
(俺は……成長しているんだ!)
あの時とは違う。
彼女が欲しいと言っていたのに、女性に耐性がない俺はもういなくなったんだ!
「はむ……うむ、流石は俺だな。いい味付けだ」
「あ……」
俺は差し出された柊夜のスプーンを躊躇いなく加える。
すると柊夜は予想外だったのか、口を開けてぽかんとしていた。
どうだ! いつまでも柊夜に攻められての俺ではないぞ!
攻められても平然とーーーー男らしさを十分にアピールする……これこそ理想の彼氏!
さぁ! いつまでも俺は柊夜の手のひらの上では転がされないんだ!
だから、思う存分悔し顔をーーーー
「ふふっ、顔が真っ赤で可愛いですね」
「ふぁっ!?」
ーーーー見せることはなく、何故かいつものかからうような笑みを作った。
柊夜が笑いながら言ったその言葉に、俺は思わず顔を押さえる。
確かに、心なしか顔が赤いような……ハッ!? そんな馬鹿な!?
「まだまだ、望さんが私に勝てる日は来なさそうですね」
「そ、そんなことないやい! いつか、絶対に勝ってみせるんだからねっ!」
「あらあら? 私は可愛い望さんを見ていたいので、勝たせる訳にはいきませんね」
一体何と戦っているのか?
別に勝負事ではないはずなのだが、無性に悔しくなってしまった俺は、いつか見返してやろうと決意する。
……まぁ、別に勝たなきゃいけない理由なんてないんだがな。
そんな事を思いながら、俺は赤くなった顔のままパエリアを口に運んだ。
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