第一回体育委員会

 柊夜達が泊まりに来た翌週水曜日。

 クラスで体育委員の選抜が終わり、いよいよ第一回目の体育委員会が行われた。


「では、第一回の体育委員会を始める」


 場所は多目的ホール。

 そう体育委員会の第一声を担ったのは見たことのないガタイのいい先輩。

 ……結構なイケメンだ。強面って感じ。不良っぽい。俺、怖いなぁ~。


「まず、各クラスそれぞれ机に置いてあるプリントを見て欲しい」


 そして、その言葉の元に各学年の体育委員が机に置いてあったプリントを手に持つ。

 体育委員も、桜学祭同様各クラス男女それぞれ一名ずつ。

 体育委員長はあらかじめ三学年の人達で決めているらしく、多分仕切っているあの強面先輩がそうなのだろう。


 ちらりと視線を動かせば、反対側にはギャルいの姿がーーーーちゃんと、体育委員になれたようで何より。


 しかしーーーー


「ふふっ、こちら側に来るのは初めてですね」


「……何で、お前が委員になってんだよ」


 何故か、隣では楽しそうに笑う我が彼女の姿。

 ……まぁ、ここにいるのは単純に柊夜が体育委員だからなのだが。


「生徒会長自らが体育委員ってどうなん? 仕事的にも役職的にも」


「そこは問題ありませんよ? 仕事はちゃんとしますし、今回主導するのは体育委員会ですーーーー生徒会の役職は体育祭ではあまり関係ありませんから」


「……そうっすか」


 何か無理やり感が異様に強いが……まぁ、柊夜がいいのならいいんだろう。


「望さんが参加するのに、私が参加しないわけにはいかないですからねーーーーふふっ、これで一緒にいられる口実が増えました♪」


 ……最後辺りに、嬉しい本音が聞こえた気がする。


「今回集まってもらったのは、互いの顔合わせもあるんだがーーーー先に決めなければならない競技種目を決めるためだ」


 ……ありゃ? 何も決まっていなかったの?

 って言うか、例年毎年恒例みたいな競技があるんじゃないの?


 ……プリントを見ても、確かに競技種目の欄は白紙だ。悲しいことに、俺の心のように真っ白だ。


「(我が校では、生徒が自主性と協調性を向上させるために大半が生徒の判断に委ねています……ですので、決まった種目はなくその時の生徒が意見を出し合って決めるんですよ)」


 そんな事を疑問に思っていると、隣に座る柊夜が説明してくれる。

 うん、解説ありがとうマイガールフレンド。


「では、とりあえず各学年で話し合ってくれ。その後、この場で発表してもらう」


 まずは小さな意見を纏めろという委員長の言葉に、皆が学年ごとに集まり始める。

 素晴らしい。これなら、早速ギャルいは自分のクラス以外の男子と接点が作れるじゃないか。ナイスです、委員長。


 ……こうしてはいられない。

 俺も俺のやるべきことをしなければ。


「では、皆さんは何か意見はありますか?」


 二学年の体育委員が集まると、我先に率先して指揮をとり始める柊夜。

 流石は学園のトップに君臨する者だ。


 そして、一人の男子が手を上げる。


「だったら、『時森式綱引き』なんてのはどうだろうか?」


「なんだよその俺式の綱引きってのは」


 一人の男子が意見を出したかと思えば、また訳の分からん意見を出しやがった。

 題名に俺の名前が入っている時点で不安と嫌な予感しかしねぇよ。


「いや、時森を綱代わりにして皆で引っ張る種目だが?」


「千切れるわ」


 どうしてこの男子はそんな澄みきった眼でそんな事が言えるのだろうか?


「だったら、『時森式玉当て』もいいかもしれない。ここがこだわりなんだが、的は時森……玉は硬式の野球ボールーーーーいかがだろうか?」


「いかがだろうか? じゃねぇよ馬鹿野郎」


 こだわる場所がおかしいんだよこんちくしょう。


「俺からは『時森式玉転がし』を提案する。もちろんーーーー」


「玉は俺なんだろ?」


「その通りだ」


「ふざけんじゃねぇよ」


 さっきから俺いじめられすぎじゃない?

 時森式って俺が対象になってるだけじゃねぇか。恨み募らせ過ぎじゃねぇか。

 俺ら、今日初めて話しただろうが。


「いやいや、何を言ってるんだ時森!」


「そうだぜ?」


「俺達は決してふざけていないさ」


「ふざけてねぇなら尚更怖いわ」


 全身に身の危険を感じる。

 この学校の男子は些か猟奇的過ぎるので大変困っています。


「だってお前ーーーー」


「「「西条院さんと付き合っているお前に、俺らが恨みを持たない訳がないだろ?」


「もう嫌だこの学校っ!」


 何処にも俺の身の安全がない!

 助けてよ西条院ぱぱ~ん! 遠距離でいいから、何処かに転校したいっ!


 俺は溢れる涙を堪えきれなかった。


「はいはい、望さんをあまりいじめないで下さいね」


「「「はぁ~い!!!」」」


「お前ら……本当に……ッ!」


 この男女差別の温情。

 幸せな男子に容赦がなく、女子にはめちゃくちゃ優しいその性格が、何とも腹立たしい。


(……そういえば、ギャルいは大丈夫だろうか?)


 ふと気になり、一学年が集まる場所を見やる。

 そこには、楽しそうにお喋りをするギャルいの姿と、それを囲うように群がる男女の姿。

 ……本当に、男女問わず人気なんだなぁ。


 そんな事を思いながら、俺は他のクラスの男子達に足蹴りされていた。

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