ギャルいと草むしり

「……先輩、これって生徒会の仕事なんですか?」


「……言うな、これも仕事のうちだ」


 翌日生徒会、放課後。

 皆の一日の終わりを喜ぶような声があちらこちらから聞こえてくる清々しいド平日。

 きっと、これから帰宅なのだろう羨ましい。


「……先輩、女の子がしていいような作業じゃないと思います」


「……いつものあざとい口調はどうした?」


「……あざとくないです」


 軽い冗談も真面目に返される始末。

 よっぽどこの作業が不満なのだろう。

 ……全く、これだから若者は。って言いつつも、俺も内心不満爆発である。


「声出してこー!」


「「「1、2、3、4、2、2、3、4!!!」」」


 そんな中、目の前に広がるグラウンドには野球部のランニングしている光景が目に映る。

 青春という1ページを刻んでいる彼等は、何故かそこはかとなく輝いて見える。


 それに比べて俺達はーーーー


「……生徒会が草むしりって何ですか? 普通美化委員会とかがやるものじゃないんですか?」


 ーーーー草むしりをしていた。

 体操服に軍手、麦わら帽子にスコップ片手とごみ袋という装備で、夏でもないのに日差しと戦いながら土にまみれている。


 いつもの生徒会室が舞台な俺達。

 それから外れた仕事に、ギャルいが何度目か分からない愚痴を溢していた。


「……うちに美化委員はねぇよ。って言うより、柊夜が言ってただろ?」


 確かーーーー


『もうすぐ、OBの方々が視察に来られる為、校内の花壇の手入れをしていただけないでしょうか?』


 ーーーーみたいな内容だったりしたはず。

 仕事と言われては仕方ない。これも社会に出たらやらなくてはいけないことなのだ。

 ……将来、社蓄確定だなぁ。


「言ってましたけど……何で引き受けちゃったんですかぁ」


「誰かがやらなきゃいけない仕事だろ? 先輩は先生と話に行ってたし、女の子にこんな仕事をやらせる訳にはいかないからさ……」


「私も女の子なんですが!?」


 何故か声を荒上げて憤慨するギャルい。

 おーばかだなぁ。女の子って言うのは、柊夜みたいにおしとやかで、アリスみたいに明るくて、麻耶ねぇみたいに色っぽさがあって、大和後輩みたいに優しい子のことを言うんだ。


「お前みたいなギャルは女の子とは言わん!」


「私、ギャルじゃないですよ!?」


 フッ……何を言い出すのか。


「あんなにいつもスカートを短くしやがって……恥を知れ、恥を!」


 柊夜やアリスや麻耶ねぇはそんなことしてないぞ!

 そんな色気を無理矢理出して、男子の気を引こうなんて……あぁ、何と愚かしや!


「先輩? そんなに私のスカートばかり見てたんですか~?」


 ニヤニヤとした顔を向けながら、ギャルいは隠そうともしない短パンの足を動かす。ムチムチとした太ももが、これ見よがしに視界に入る。

 くっ……! 自然と視線が誘導されてしまうっ!


「これがミスディレクションか……!」


「絶対に違うと思いますよ? って言うか、ただ先輩がえっちぃだけじゃないですか」


 そ、そんなわけ……ないと思うよ?


「はぁ……千歳っちはこんな先輩のどこがいいんだろ?」


「お前、大概失礼だな」


「失礼さで言ったら、先輩も負けてないと思いますよ?」


「なわけ」


 喋りながらも、草をむしる手は止めないまま、花壇の手入れを行っていく。

 ……流石に汗かくなぁ。


「せめて、結城先輩と一緒だったら私もやる気出たんですけどねぇー」


「お前、まだ狙ってんのな?」


 てっきり、忠告したから諦めたものだと思っていたのだが……。


「だって、かっこいいじゃないですか」


 未だに、面食いは捨てきれていないみたいだ。


「まぁ、お前の面食いはどうでもいいけどさ……早く終わらせちまおうぜ。このままじゃ、青春の1ページが灰色どころか無色で彩ってしまう」


「……今回に限っては、先輩に賛成です」


 その言葉を最後に、俺達の会話は終わった。

 それからは、ただただ黙々と草をむしるだけだった。



 ♦️♦️♦️



「終わった~!」


「お疲れぃ!」


 校舎裏の花壇。

 ついに最後となった草をむしった俺達は、作業中とは裏腹な気持ちのいい声を上げた。


「ほれ、先輩からの奢りじゃ!」


「さっすが先輩~♪ 作業終わりに冷えたジュースを用意してくれるなんて、ポイント高い~!」


 用意していたジュースを渡すと、ギャルいは嬉々として受け取った。

 全く、現金なやつである。


「いやぁ~! やっぱりオレンジジュースは美味しいですね~!」


「それは自分の名前をかけたのか?」


「先輩、寒い。うざい」


 ちょっと気になっただけなのにこの言われよう。

 本当に、先輩に対する敬意を一度道端を歩いて探してきて欲しいものだ。


「はぁ……俺はどうやらお前とは相容れないらしい」


「そんなの、今に始まったことじゃなくないですか~?」


「まぁ、確かに」


 そして、互いに買ってきたジュースをちびちびと飲む。

 早く帰らないといけないわけでもないし、ここいらでゆっくりしてもいいだろう。

 そう、互いに感じたからだ。


 そして、少しの間だけ静寂が俺達の間に訪れる。


「……先輩」


「……ん?」


 すると、ギャルいが静寂を破り口を開いた。


「千歳っちに告白されたってほんとですか?」


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