初めまして、覚えていますか?⑥
「ふむふむ。今朝から自分の記憶に違和感を感じていた。そしてその原因を知るべくこの紫カレーを食べたところ全てを思い出した、そういうことで当たってますか?」
「まあ大体は」
「二日目のガキ大将カレーをかき込むなんて、なかなかスリリングなことをなさいますね」
「作った本人が言うな!」
正面に座るセラはけらけらと笑う。
「本物のなじみは、
聞くのをためらっていたが、いつかは聞かねばなるまい。たとえ浄化されていたとしても、時間はかかるだろうがしっかりと受け止めよう。
「いまはなじみさんの家で寝てます」
「ん?」
寝ているとは一体どういうことだ。
「早起きさせられてとても眠そうでしたから。でも、もうそろそろ起きるんじゃないでしょうかね」
「てことはつまり……」
「
セラから残火人の無事を聞き、スケヒトは胸をなでおろす。
「管理局の監視が付くという条件で、無害認定されました」
これで残火人が狙われる心配はない。浄化されなかったということは、これからも
「残火人の処分は分かった。それで、セラの処分はどうなったんだ?」
いま一番気になるのはそこだ。セラは管理局に逆らった行動をしてしまっている。残火人のような処分では済まないだろう。
「それが……御覧の通り出向になりました」
「出向?」
出向、簡単に言えば管理局から飛ばされたのである。しかし、出向程度で済んだのならよかった。管理局は思ったよりも優しいようだ。
「出向先での無賃金労働が今回のペナルティです」
「無賃金労働って……」
前言撤回、管理局は鬼であった。オタクであるセラにとって、収入がなくなるのは一番キツいことである。
「それに加えて
やれやれとセラは肩を竦める。
「それは確かに大変だな……って、ん?」
ここまで話してきて、忘れていたことを一つ思い出した。
「さっき俺に、家政婦としてここで働くって言ったよな」
「はい。言いましたが?」
「その、出向先ってのはつまり」
「スケヒトさんの家に決まっているじゃないですか!」
管理局は人の家を何だと思っているのだろうか。セラが帰って来てくれたことはうれしい。だがしかし、管理局からの出向先――つまりはこの家が管理局から見て地方だと思われているとなると悔しい気持ちになる。
「ま、仕事が大変なのはいつもと変わりませんがね」
「おいちょっと待て」
「はい?」
「出向先が俺の家ってことは、残火人を監視しながら俺の家に住むってことだよな」
「そうですよ」
「それってさ……いままでと何も変わらないじゃん!」
この仕事のどこが大変だと言うのだ。残火人が無害化したいま、セラは戦わなくていい。残火人とも打ち解けたようだし、監視も苦にならないだろう。となると、セラはただこの家に居候するだけということになる。大変だと言うのは、紫カレーを食べさせられるこちら側なのではないのだろうか。
「ありゃりゃ、気づかれてしまいましたか」
「んなもんすぐに気づくわ!」
「もー、冗談の通じないお人ですねー」
冗談かどうか分からないことを言わないでいただきたい。
「そうですよ。いままで通りの生活ですよ」
セラはすねたように唇を尖らせて言う。
「だったらさ、どうして記憶操作なんかしたんだ」
いつも通りの生活が戻ってくるのならば、そんなことをする必要はなかったはずだ。逆に記憶操作をしたことで状況が面倒くさくなっている気がする。
「いえ、この記憶操作は一時的なもので、今日の十八時には記憶をもとに戻す予定なんです」
「一時的なもの?」
「はい、私と
「えっ何、じゃあ紫カレーを無理して食べたのは無駄だったってこと!?」
「はい。全くもってその通りです」
死の淵まで追い詰められたというのに、最悪だ。
「でも、私にとっては無駄じゃありません」
「ん?」
「スケヒトさんが私のために命を懸けてくださったのですから」
セラはにっこりと微笑んで言う。
確かにこの笑顔を見れたのなら、三途の川を渡りかけたことも無駄じゃないかもしれない。
「これからも、ご両親が帰ってくるその日まで、
「……あ」
そう言えば、うちの両親はいつ帰ってくるのだろうか。
――了。
いわゆる普通の家政婦ちゃん! 弐護山 ゐち期 @shinkirou
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