吊り橋効果、マジすごいです!③

 ガキンと、金属同士がぶつかるような音が部屋に響く。その音を聞き、スケヒトは閉じていた目を開いた。

 もし黒い女が自分を斬ったのなら、金属音なんてしないはずだ。そんな音がするような鋼の体を持っていた覚えはない。


「……バリア?」


 見ると、黒い女の刃は空中で止まっていた。力を入れているらしく、刀が震えている。しかし、以上刃が進む様子はない。


「貴様、何をした!」


 なじみが――残火人のこりびとがそう叫んだ。スケヒトは急いでポケットの中のセバスチャンを確認する。画面にはディフェンスと書かれたメーターが表示してあった。


「システムが進行中って、このことだったのか……」


 目盛りは少し減っている。どうやらいつまでも攻撃を防げるわけではないらしい。そうだとしても、バリアがあるのなら何とかなりそうだ。


「頼んだぞ、セバスチャン」


 尻もちをついていたスケヒトはすっくと立ちあがる。そして輪廻刀りんねとうを黒い女に向け、応戦する構えをとった。


「ふざけるな!」


 なじみがそう叫ぶのに呼応して、黒い女の攻撃が始まる。腕を縦横無尽に動かし、激しい攻撃をしてきた。


「くっ!」


 バリアで護られているとはいえ、斬撃の振動はひしひしと伝わってくる。

 攻撃してくる黒い女の迫力もあいまって、スケヒトは受け身に回ることしかできない。


「このままじゃ……」


 一方的に攻撃されているのでは、いつかバリアは破られてしまう。そうなってしまったら、今度こそ殺されてしまうに違いない。


「何故だ、何故攻撃が当たらない!」


 がむしゃらに、半ばやけになって攻撃してくる残火人。

 まともに戦っていても勝てない。剣術を覚えているわけでもないし、こうなれば勝つ可能性が高い方法をとるのが一番だろう。


「黙ってくたばれぇぇぇ!」


 黒い女が大振りな攻撃を繰り出した。スケヒトはそれをバリアで受け流し、黒い女の体勢を崩す。


「何だと!?」


 敵が体勢を立て直すほんの間に、スケヒトは駆けだした。黒い女の横を通ってなじみのいる方を目指す。


「うぉぉぉぉぉぉ――」


 スケヒトの目の前でなじみが身構える。

 斬ろうと思えば斬れそうな気もするが、しかし、そんなことはしない。


「――ぉぉぉぉぉ!」


 なじみには目もくれず、スケヒトは叫びながら横を駆け抜けた。


「逃げんじゃねえ!」


 力の限り全力で走る。初めて黒い女に襲われたときのようだ。

 ただそのときと違うのは、いまは自分で黒い女を倒さないといけないと言うこと。だったら一度逃げるしかない。


「――はぁっ……はぁっ……」


 一つ下の階まで何とかたどり着いた。さっきは居場所がバレてしまったが、今度こそはバレるわけにはいかない。

 素人が玄人くろうとに勝つ方法、それは奇襲をかけることだ。卑怯だと言われようがこの状況ではそれしかない。


「ふぅー」


 深く息を吐き、呼吸を整える。

 この部屋に入ってこれる入り口は一つ。黒い女が入ったその一瞬を狙う。

 入り口のすぐ横に寄りかかり、スケヒトはそのときが訪れるのを待った。


「えっ?」


 突如、天井に亀裂が走った。上からほこりや破片が降ってくる。

 どすんと言う音が大きくなるたびに、割れ目も広がっていく。そしてとうとう天井の真ん中が崩れた。


「おいマジか!」


 瓦礫が全て落ちた後、天井にぽっかりと開いた穴から黒い女が飛び降りてきた。残火人も黒い女にお姫様抱っこされる形で降りてきている。


「いつまでも往生際の悪い……」


 地に足をつけたなじみが言う。スケヒトは驚きのあまり動くことができない。


「そんなに恐いのなら、私が直接殺してやる」


 そう言って、残火人が黒い女の腹に手を突っ込む。そして、腹の中から何かを取り出し始めた。


現世こいつには済まないが、どうせ後を追うのだ、問題なかろう」


 徐々に引っ張り出されるそれは、どうやら刀らしい。全てが漆黒の刀をなじみは取り出していた。

 奇襲作戦は失敗。こうなったら戦うしかない。覚悟を決めて輪廻刀を構える。


「ただ私は、お前が憎い! だから――」


 刀を全て取り出された黒い女は、塵となって消えた。

 なじみは黒刀くろがたなを一振りして、スケヒトへと斬り込む。スケヒトも負けじと残火人に向かって駆ける。


「――死ねぇぇぇぇぇぇ!」

 

「うぉぉぉぉぉぉ!」


 こうして、電光石火のごとく二本の刀が交差した。

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