吊り橋効果、マジすごいです!②
「ん? どうした?」
廃墟の中を進んでいると、急になじみが立ち止まった。
「もしかして、脚が痛いのか?」
ハンカチには少しだが血がにじんでいる。
「歩けないんなら背負ってやるぞ」
幼馴染をおんぶするくらいの体力はある。ま、あると言ってもほんとギリギリくらいなのだが。
「……何故だ」
「ん?」
「何故私に優しくする!」
なじみが叫んだとたん、ポケットの中の携帯が鳴った。
その音を聞いて、スケヒトは驚く。鳴っているのはセバスチャンではなくセラの携帯。昨日、黒い女が出現したときと同じ警告音を発している。
「マジかよ……」
なじみの――
「私はお前を殺したいのだぞ? いつ襲ってくるかも分からないのに、どうして背負うことなどできるのだ」
なじみの声で、残火人は言う。
「突き放しておけばいいものを、お前が優しくするせいでこの体を奪うのに手間がかかってしまったではないか。
すっかり変わってしまったなじみを見て、スケヒトは後ずさりをしてしまう。
セバスチャンは戦えないだろうし、セラに助けを求めることも不可能だ。さっきまで普通のなじみだったから完全に油断していた。
「だがそれもこれまで。用心棒もいないようだし、いまのうちに死んでもらおう」
残火人がスケヒトを睨む。その瞬間――黒い女が動き始めるのと同時にスケヒトは走り出した。下の階へ急いで向かう。
「おい、セバスチャン」
置いてあった机の陰に隠れ、小声でセバスチャンを呼ぶ。
頼む、反応してくれ。
「なあってば!」
全く反応なし。かろうじて画面はつくが、システムが進行中という表示が出るだけでその他には何も起こらない。
「こうなりゃこれに賭けるしか……」
スケヒトはもう片方の手に持っていたセラの携帯を見る。画面には相変わらずロックがかかっていた。
ごくりと唾を飲んで画面に指を伸ばす。伸ばした先には緊急の文字。いま押さなければ、いつこのボタンを押せと言うのだ。
「えいっ」
そう思いつつも、ビビりながらボタンを押すスケヒト。
管理局やスクワットに情報がいくかもしれないのだ、軽い気持ちでは押せない。
「……ん?」
てっきりどこかに電話がいくものだと思っていたが、違ったらしい。画面には召喚の二文字が表示される。もたもたしてもいられないので、あまり深く考えずにボタンを押した。
「一体何が――って、うわ!」
目の前に光の柱が出現したかと思うと、その中から
いつもならゆっくり降りてくるのに、緊急時だからだろうか。
「そこだ!」
部屋の中に残火人の声が響く。
輪廻刀を召喚したせいで場所がバレたらしい。地面から輪廻刀を引き抜き、急いでその場から離れる。
「うおっ!」
間一髪のところで黒い女の攻撃を回避。後ろでは隠れていた机が木っ端みじんに破壊されていた。あと少しでも遅れていたらきっと殺されていただろう。
「くそ! どうすればいいんだ」
輪廻刀が手に入ったとしても、それを使うのが素人では意味がない。スケヒトは刀を持ったまま廃墟の中を逃げ回る。
「どうして刀を持っていながら戦わない。逃げてばかりいないで、昔のように――私を斬ったときのように戦え!」
そう叫ぶ残火人に呼応するように、黒い女の攻撃も激しさを増す。
そしてとうとう、フロアの一番奥まで追い詰められてしまった。先程のように退路となる階段はない。まさに絶体絶命の状況だ。
「やるしかないのかよ……」
じりじりと迫ってくる黒い女に切っ先を向けながら、後ずさる。いまはこれが精いっぱいの抵抗だ。
「そんな構えで何ができる」
残火人があざけるように言う。それと同時に、黒い女が刀のようになった腕で輪廻刀を払った。
「うわっ!」
輪廻刀を手離さなかったものの、刀を弾かれた衝撃でスケヒトはよろける。そして床の段差につまずき、尻もちをついてしまった。
「前世でのこととは言え、あんなに強かったお前がここまで落ちるとは。誠に無様なものだ」
「くっ!」
スケヒトの目の前で、黒い女が腕を――刀を振りかざす。
ここで殺されてしまうのか。何が信じろだ、これでは家で待っているセラに顔向けできない。
「それでは、私のために――」
残火人がなじみの声で冷たく言う。
「――死ね」
黒い女の刃が、容赦なくスケヒトに襲いかかったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます