もしかして、フラグですかね?③

「あのあの、スケヒトさんっ! 今日は何かご予定ありますか? よかったら外でお茶しません?」


 皿洗いを終えテーブルで一息ついていると、向かいに座っているセラがそんなことを言った。


「……本当に狙われてんだよな、俺?」


「そりゃもう、狙われまくってます!」


「狙われまくってるって……」


「いいですかスケヒトさん。狙われているからといって、引きこもっていちゃあダメですよ!」


「そんなこと言ったって、外は危険じゃないか。わざと危ない目に遭うのは嫌だ」


 いつ襲われるか分からない状況。そんな中で外に出るなど、狂気の沙汰にもほどがある。ましてやそんな提案を守護者のほうから言ってくるとは……。


「昔の偉い人は言いました。虎穴こけつに入らずんば虎子こじを得ずだと!」


「ん?」


「明日は学校もありますし、遅かれ早かれどうせ外出するじゃないですか! 警備ルートの確認だと思って、行きましょうよー!」


 確かに明日は学校だ。残火人のこりびとに狙われているからと言って、休むわけにはいかない。


「やっぱり、学校にもついてくるのか?」


「もちのろんです! 転入手続きは済ませてありますので!」


「さ、さすがだな……」


 もうそこまで手を回していたとは。恐るべし、輪廻転生管理局。


「自己紹介は期待しといてくださいね!」


 オレンジ色の腕章をつけ始めたセラを見て、スケヒトは嫌な予感がした。


「くれぐれも変なこと言うんじゃないぞ。そして、その腕章は絶対に外せ」


「そんな! せっかくウイッグと制服もそろえたのに。これじゃあ、あの名ゼリフが言えないじゃないですかっ!」


「知らんわ!」


 予想通りのことをしでかすつもりだったようだ。計画を未然に防がれたセラはしゅんと落ち込んでしまう。そして、ペンギン印の黄色い袋に腕章をしまいながらこう呟いた。


「まあ一応ではありますが、指定の制服を注文しておいて正解でした」


「まさか、言わなきゃコスプレで登校するつもりだったのかよ!」


 やれやれと肩をすくませてから、セラはスマホ型の機器を操作する。しばらくして、セバスチャンの登場と同様、指定の制服が光の柱から降りてきた。


「まあこの制服も可愛いですし、自己紹介は別のにしますよ。それより、今日どこ行きますか?」


 相変わらず話の切り替えが早い。

 どこへ行くと聞かれても、近所の喫茶店しか思い浮かばなかった。


「警備ルートの確認なんだろう? じゃあ、行くところは学校方面だな」


「いえいえ、警備するのは通学路だけではありません! 個人的には駅の周辺を重点的に確認したいです!」


「駅?」


 駅の周辺には様々な娯楽施設や店がある。駅から少し行けばテレビ塔や時計台もあったりして、なかなかにぎやかな場所だ。でも何故そんなところを重点的に確認したいのだろうか。


「そんなに行かないぞ、あそこ」


「それでもいいのです! 主要なところは嫌でも確認できますから、こういう休日はあまり行かない所を確認しようじゃありませんか!」


「まあ、そういうことなら」


 今回はセラが近くにいる。きっと危ない目に遭ったとしても大丈夫だろう。


「それでは、出かけるとしましょう! 善は急げです!」


 そう言って、立ち上がるセラ。勢いよく立ったそのとき、ポケットから一枚の名刺が落ちた。ひらひらと宙を舞い、スケヒトの足元へ。


「ん?」


 拾い上げ、名刺の裏を見たスケヒトは察した。それは名刺ではなく、一枚のカード。そのカードには虎のキャラクターと万単位の数字が印刷されている。まだセラは落としたことに気づいていない。


「なあ、昔の偉い人は何て言ったんだっけ?」


「虎穴に入らずんば――」


 その日は、近所の喫茶店へ行くことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る