どうします、やっちゃいます?⑤
「ぐえっ!」
スケヒトはセバスチャンに吐き出され、地面に尻もちをつく。
体じゅう唾液でべとべとだ。さて、お風呂がある場所に着地してくれたのだろうか。
「どこだよここ……」
風呂以前に民家すら周りにない。周りは木々で囲まれており、前方だけが開けている。開けたところから見える景色は、スケヒトたちがいる場所の標高の高さを物語っていた。
どうやらここは山の中らしい。
「ゲフッ」
そう吠えて、セバスチャンがスマートフォンに戻る。
「おい、ここどこだよ!」
スケヒトが話しかけるも、返答はなし。見るとバッテリーがほとんどなくなっており、省電モードになっていた。
「マジか……」
廃墟の屋上――四角い建物の上でスケヒトは呟く。隣では気を失ったなじみが横たわっていた。なじみもスケヒト同様べとべとに濡れている。
「これから、どうすっかな」
べとべとなのは置いとくとして、いま最優先にやるべきは何だろう。気絶しているなじみを放っておくわけにもいかないし、だからと言って背負って行動するのも得策ではない。
「スマホさえ使えれば……」
そうすれば現在地の把握とセラに連絡することが可能になる。しかし、そのスマホ――セバスチャンは腹がへって動けない。スケヒトは自分の携帯を学校に忘れてきたことを悔やんだ。
「なじみはそもそも持って来てないだろうし……」
なじみは携帯を使わないため、普段持ち歩かない。携帯なんぞよりも目と目を見て話したいと言っていた。なじみが携帯を持っている望みは薄いだろう。
「ん? 待てよ」
スケヒトは重要なことを思い出す。
なじみは
「よし!」
なじみからスマホを取るため、スケヒトは寝ている幼馴染に近づく。
きっと制服のポケットにでも入っているはずだ。探すのは簡単だろう。
「……」
べとべとのなじみに触れ、上からスマホの位置を確認。
両側のポケットには入っていなかった。スカートのポッケにもある様子はない。
「まさか……」
残るは内ポケットただ一つ。ごくりと唾を飲んで、なじみの腹部を探る。
「なっ!」
縦長の固いものが入っていた。どうやらここにあるらしい。
スマホを見つけるも、スケヒトは頭を抱えてしまう。
「これ、脱がせなきゃ取れないじゃん……」
事態は最悪だ。寝ている幼馴染の服を脱がせるというだけでもあれなのに、いまは二人ともべとべとに濡れている。濡れているということは、透けているということで……。既に胸元のリボンの隙間からのぞくワイシャツは透けていた。
「一体どうすりゃいいんだよ……」
スマホか、なじみか。
状況は一刻を争う。スクワットの連中がいつまた襲撃してくるか分かったものではない。しかしだからと言って、脱がすのも気が引ける。なじみを起こす手もあるが、起きたのが前世の人格の方だったら終わりだ。
「ふう」
一回呼吸を整える。
ここでもたもたしていては全てが水の泡。スクワットが来てしまってはセバスチャンが頑張ってくれた意味がない。それにセラが頑張って準備していることも無駄になってしまう。
「やるしかない、か」
腹を決め、なじみが着たブレザーのボタンを一つ一つ外していく。もたつきながらもどうにか最後の一つを外し終えた。
「ごめん、なじみ!」
スケヒトは目をつぶって制服を脱がしにかかる。
既に制服は開いた。目の前にはワイシャツ一枚のなじみがいるであろう。あとは目を開いて上着からスマホを取り出すだけ。しかし、いまになって目を開ける勇気が消沈してしまった。
「――ねえ、何してんの?」
「……うっ!」
最悪のタイミングで、いま聞きたくない声が聞こえてきた。
「なじみ……」
「あんた、いい度胸ね」
恐る恐る目を開けると、笑顔でこちらを睨むなじみと目が合った。言うまでもないが、目は笑っていない。
「色々聞きたいことはあるけれど、」
「ま、待て! 誤解なんだ!」
立ち上がりながらなじみは言う。その間スケヒトは動くことができない。
「とりあえず、歯ぁー食いしばれ」
「ひっ――!」
紅葉型に赤くなった頬をさすりながら、下にジャージを着ているのならぶたなくてもいいのにと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます