初めまして、戦う家政婦です!⑥
「それでさ、
もしも妹が自分と同じように襲われたらと思うと、
「それはスケヒトさんの前世と
そう言って、セラはスマホ型の機器を操作しだした。少しの間があってから、内容を語りだす。
「ええっと、残火人の前世の人格――以降残火人と総称する存在は、幕末の人間のようです。両親はおらず、家族は妹のみ。近所の人に助けられながら育ったみたいですね。病弱な妹のため懸命に働くも、その妹さんを残して十七歳で殺されています。死因は斬られたことによる失血死。そして斬った人間というのが、スケヒトさん、あなたの前世です。今回の因縁は殺されたことによる恨み、ということになりますね」
自分の前世は人殺しだったと聞いて、納得できる者は少ないだろう。もちろんスケヒトも数多い中の一人であった。十七歳という自分と同い年で殺された残火人を思うと、何ともいたたまれない気持ちになる。
「そんなこと言われても……」
戸惑うスケヒトをおいて、セラは画面をスクロールしていく。
「それで千代ちゃんがどのように関わっているかと言いますと――」
悪い予感しかしない。最悪なことしか思い浮かばない。セラが次に言うであろう、最悪のシチュエーションがスケヒトには簡単に予想できた。
「残火人の妹、それが千代ちゃんの前世らしいです」
「それじゃあ……、妹が狙われる可能性もあるわけか」
なにせ妹を残して殺されたわけだ。家族なら死んでもなお、たとえ生まれ変わっていたとしても会いたいと思うのが普通じゃないか。目の前にいる妹を見て、しかも
「大丈夫です。その心配はありません。言うなれば不幸中の幸いでして、いまのところ残火人が認知しているのはスケヒトさんのみですから」
「そうは言っても、いつこのことを知られるか……。
学校が始まれば妹といやでも離れなくてはならない。護衛対象が二つなのに対して警護者が一人。どうやっても目標を一つに定めざるを得ない状況だ。
「ふふん、そこは安心してください!」
セラの口調は待ってましたと言わんばかり。何か秘策でもあるといった感じだ。
「お忘れですか、スケヒトさん。もう一人、もとい、もう一匹ばかり戦闘員がいるではありませんか!」
「まさか、あのちっこいのが戦闘員だって言うんじゃないだろうな」
「確かにいまは小さいですけれど、セバスチャンも強いんですよ」
チワワ並みの犬が強いと言われても。それは何かの間違いじゃないのだろうか。疑念の眼差しでセラを見つめると、
「し、信用してませんね! 本当なんですよ、信じる者は救われるんですよ!」
と、焦っているのか怒っているのか分からない返答をされてしまった。ごほん、と咳ばらいをしてセラは続ける。
「セバスチャンはただの犬ではありません! 頭が二つあることは置いておいて」
「置いとくのかよ」
「なんと、防壁が張れるのです! 小学生なら誰もがやったことのあるあの、『ばーりあ』ができるのです! しかもそれだけではありません。なんと驚き、第三形態まで変身が可能! さらにさらに、首輪とアプリを連携させることで、離れていても危険を知らせてくれるから安心! な、な、なんと、いまなら無料で首輪とアプリがセットでついてきます! どうですか、分かりましたか、セバスチャンのすごさがっ!」
「とりあえず、離れて……」
今回はまつ毛とまつ毛が触れ合うまで接近された。照れを通りこして恐怖すら感じる近さ。そこまで張り切らなくてもいいのに。
「説明がテレビショッピング的だったのは無視するとして。もう一度ゆっくりと教えてくれないか、セバスチャンについて。迫力がすごくて内容がさっぱり入ってこなかった」
「これは失礼しました。すみません」
セラは椅子に座り直し、乱れた黒髪を整える。見た目は令嬢のようなのに、性格とのギャップがありすぎだ。
「それではもう一度。一応確認しますけど、スケヒトさんの心配は千代ちゃんの護衛と家のセキュリティー、この二つでいいですよね?」
「うん」
「まずは千代ちゃんの護衛ですが、申し上げた通りセバスチャンがやらせていただきます。理由は私が護衛につくと逆に目立ってしまう可能性があるからです」
「その言い方だと、セバスチャンは目立たないってことか」
「はい。セバスチャンは第三形態としてリボンやヘアピンなどの小物になることが可能です。これなら、妹さんをいつでも守れますよね。いざというときは第二形態になって本領を発揮してくれますし」
「第二形態ってのは?」
「本来の姿であるケルベロスのことですよ。体長は約三メートル。ヒグマの一・五倍の大きさとなります。見た目も今のような子犬から凶暴な番犬へと変わるので、迫力も満点です!」
二つ頭の犬をすんなりと受け入れたくらいだから、形態が変わったとしても大丈夫だろう。まず第二形態を見て千代が泣くことはありえない。逆に、わーかっこいーとか言いそうだ。
「次に家のセキュリティーですね。これは千代ちゃんの護衛とも関わってくるのですが、セバスチャンはバリアが張れるのです」
「バリアって、あの?」
「かの有名な中和しないと破れないバリアではないですが、イメージ的にはそんな感じですかね。ドーム型のバリアを出して、人ひとりから家をすっぽり
まさか、あの変な鳴き声の犬にそんな力があったとは。これだったら安心して千代を任せることができそうだ。頼んだぞという気持ちでセバスチャンのいるほうを見ると、
「寝ちゃってますね、二人とも」
妹にぴったりとくっついて、一緒に寝ていた。時計を見ると、小学生が寝る時間はとっくにすぎている。
「さて、明日も行くところがありますし、我々も寝るとしましょうか」
「え、泊まるの?」
そんなこと聞いてないぞ、とスケヒトは心の中で文句を言う。
「私、家政婦でもありますから。ご両親から聞いていませんか?」
「聞いてない……」
適当すぎるぞ、うちの両親。
「じゃあ、いま言いますね。私ことセラは、ご両親が帰ってくるその日まで、
すぐに、はい分かりましたとは言いずらい。なにせスケヒトも年頃の男子である。美少女と一つ屋根の下にいるというだけであれなのに、夜を同じ家で過ごすともなると今夜から眠れそうにない。
「そんなに赤くならずとも、大丈夫ですよ」
そう言われ、スケヒトは我に返った。いささかばかり妄想に走ってしまった自分が恥ずかしい。そんなスケヒトを見て、セラがにやにやしながらこう言った。
「私たちに年齢という概念は存在しませんが、一応十八歳以上であるとしておきましょう」
ああそうだ、こういうやつだった。人差し指と中指の間から親指を出すセラを見てスケヒトは思い出す。
「そうすれば、エロゲ的展開が起きたとしても、コンプライアンスには違反しませんからね! しっかりセーブしてから寝てくださいよ、ダンナ!」
もう一度、妄想してしまったことを恥じた。
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