嫌いですね、シリアス展開は!⑤

「あっれー? おかしいな、確かにここのはずなんだけど……」


 どうにか無事についた教室で、スケヒトは困惑していた。


「もしかして席替えでもしたのでしょうか?」


「そうかもしれない」


 クラス名簿を見てみても、千代ちよの席はここで合っているはず。しかし、机の横にかかっているのは千代のランドセルとは違うものだった。


「セバスチャンが返事をすることはできないのか?」


「ええ。第三形態――キーホルダーとなっている間は基本的にスリープモードですから。敵が来るなど、よっぽどのことがない限りあちらから起きることはありません」


「マジかよ……」


 それを聞いて、スケヒトは頭を抱えた。

 千代の所属するクラスは四十人学級。しかもその全員が女子であるという、何とも珍しい教室となっている。


「赤いランドセルなんて、この他に三十九個もあるじゃないか!」


「いいじゃないですか一つ一つ確認していけば」


「それが問題なんだよ! 時計を見てみ」


 セラは黒板の上にひっかけてある時計を見てしばし考える。そしてすぐにスケヒトの言わんとすることを理解した。

 時間割りを見ずに理解するとは、小学生検定師範代もだてではないらしい。


「あわわわ! この時間が終了するまであと五分もないじゃないですか!」


「そうだ。しかも運の悪いことにグラウンドを見てみろ」


 今日は少し早めに終わったらしく、小学生たちはもう昇降口へと向かっていた。


「うおっと! これではスケヒトさんがシスコンからロリコンへと昇格してしまいます!」


「シスコン言うな! って言ってる場合じゃない!」


 こうしている間にも小学生軍団は迫ってきているのだ。一刻の猶予もない。


「この広範囲索敵ゴーグルによりますと、小学生到着まで残り三分!」


「うおー!」


「怪獣を倒すよりは簡単です、頑張りましょう!」


 急いでランドセルを確認していく。血眼になって探すこの様子をもし見られでもしたら、問答無用で通報されるだろう。


「どこだ、千代のランドセルは!」


「ヤバいです! 先陣を切る小学生が走り始めました!」


 あと十個、どうか間に合ってくれ!


「違う、これも違う……」


「うおー! 担任教師がエレベーターで接近中!」


 先生だけエレベーターなんてズルい! あと三つだってのに!


「……あっ、あった!」


 やっと千代のランドセルを発見。急いでセバスチャンを回収する。


「どうしましょう、先生がこの階に到着してしまいました! いま教室から出たら完全にバレます!」


「何だって!?」


 一難去ってまた一難。しかも先程より状況が悪化している。


「これは掃除用具入れに入るしかないようですね!」


 嬉しそうにそう言うセラ。


「さっき入る機会がなかったからって、こんなときに馬鹿言うな!」


 ああ、くそ。どうすればいいんだ。もっと頭を回転させないと!


「ん? 回転……そうか!」


「何か思いつかれたのですか?」


「小学生じみた方法だが、これに賭けてみよう」


 セラの手を引き、教室の後ろの入り口へ。担任教師は確実に近づいてきている。

 頼む、前から入ってくれ!


「いいか、教師が教室に入るタイミングで外に出るんだ。名付けて回転ドア作戦。上手くいけば気づかれずに外に出られる」


「了解です!」


 担任が無事にスケヒトたちを通過。前方の扉へと歩いていく。


「行くぞ」


 教師のつま先が見えたタイミングで、スケヒトはセラを連れて教室を出た。

 セラの手をしっかりと握り、スケヒトは駆ける。


「ストップです、スケヒトさん! そっちからは授業を終えた小学生が多数接近してきています」


「くっ」


「こっちです!」


 今度は逆にセラが手を引く。どうやら階段を目指しているらしい。


「そっちは千代たちが来るんじゃ……」


「隠れる場所なんて、もうあそこしかありませんよ!」


 有無を言わせず、セラはスケヒトを掃除用具入れに連れ込む。


「ち、近い……」


「動いちゃダメですからね?」


 二人が入った掃除用具入れの前を小学生が通過していく。

 次の授業が始まるまでここから出られそうにない。


「む、胸が……」


「ん?」


 首にかかるセラの息、体で感じる鼓動や感触。

 早くここから出たい。こんなところを誰かに見られたりでもしたら、軽く死ねる。


「ゲフッ」


 暗闇から変な鳴き声がした。


「スリープモードなんじゃ……」


「ゲフッ(にやり)」


 どうやら、既に死んでいたらしい。

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