嫌いですね、シリアス展開は!③

残火人のこりびとってさ、そんなに多く出現するものなのか?」


 山道を登りながらスケヒトは聞く。千代ちよの通う小学校まではもう少し距離がある。


「と言いますと?」


「だってさ、過去には殺した殺されたの因縁なんてたくさんあるわけだろ」


 現在の世の中でこそ少なくはなったものの、歴史上なんかでは多くの人がその因縁を持っていることになる。


「いくらバグって言ったって、その全部が残火人になってたら大変だなと思ってさ」


 管理局の規模がどれほどかは知らないが、今回のように一人ひとりを護衛するのは難しくなるんじゃないだろうか。できるとしたって、そんなことでは日本が管理局員で埋め尽くされてしまう。


「もしそうなってしまったら、我々の手には負えなくなりますね」


 ポケットに手を入れたセラが返答する。それを聞いて、スケヒトは考えていたことを言ってみた。


「だからさ、今回の残火人の因縁は恨みじゃないと思うんだ」


「ほう」


 セラは否定も肯定もしない。ただスケヒトが話すのを促すのみ。


「俺は前世でそいつを殺した。だけど、それはただの殺人なんかじゃない。いまの俺がいるってことはそう言うことだ」


 ただの人殺しでは簡単に転生できない、そうセラは言っていた。


「そして俺はいまも罪を償い続けている。前世の記憶のないいまも、無意識のうちに」


 人殺しが転生できる条件は二つ。

 その罪を償うか、償い続けるか。


「千代がいるってことは――千代が残火人の前世の妹ってことは、そう言うことなんだ」


 セラは黙って聞いている。


「前世で罪を償い続けると決めたから、転生できた。殺してしまったやつのを請け負おうと決めたから生まれ変われた」


 スケヒトは立ち止まってセラを見る。セラもスケヒトのほうを向いた。


「だから残火人との因縁ってのは――その心残り、妹なんじゃないかな」


 おおーと言って拍手するセラ。


「気がつきませんでしたよそんなこと。さすが、スケヒトさんですね!」


 けれど、と言ってセラは続ける。そう言われるのはスケヒトにも分かっていた。


「それが分かったところで、どうなさるおつもりですか?」


 セラが言うように、本当の因縁を知ったところでどうにもならない。どうにもならないかもしれない。けれど、それが分かったことで事態への対策はしやすくなったはずだ。


「いままでの方針は、残火人を輪廻刀りんねとうで浄化するってのだったよな」


「はい。それが通例ですから」


「それだと、過去の過ちを繰り返すことになるんじゃないか?」


 バグだからと言って、問答無用で浄化。そんなの人殺しと何ら変わらない。


「初めて会った日の夜、言ってたよな。普通の残火人なら自然に浄化されるって、思念の強いタイプじゃなければ無害だって」


「まさか……」


「俺は残火人を救いたいと思っている」


 残火人の心残りを解消できたのなら、輪廻刀で斬る必要もなくなるはずだ。心残りを持ったまま再び斬られるなど、そんなのは見たくない。


「だから頼みがあるんだ――」


 スケヒトは考えた作戦をセラに話す。しかしそれは、セラがすぐには了承できないものであった。


「――俺とセバスチャンを信じてはくれないだろうか」


「そんなの危険過ぎます! もしかして、スケヒトさんは私を信じておられないのですか!」


「違う! 俺も信じるってことだ、信じて待ってるってことだ!」


 残火人の心残りを解消し、なじみを救う手はこれしか考えられない。少しばかり危険になってしまうが、これは自分で選んだ道だ仕方ない。


「だからさ、頼むよ。やってはくれないか?」


「……」


 うつむいたセラからの反応はない。


「わがままだってのも分かってる。だけど俺は――」


 それでも残火人を救いたい。そう言おうとした瞬間、セラがぼそりと呟いた。


「……分かりました。不本意ですが、上手くできないと思いますが、それでもよろしいのですね?」


「ああ!」


 喜ぶスケヒトを真っすぐに見つめてセラは言う。その銀の瞳は、残火人の分身を斬る直前の真剣みを帯びていた。


「その代わり、私たちが行くまで絶対に殺されないでください! いいですね?」


「分かった」


 なじみのためにも、千代のためにも、そしてセラのためにも、はなから死ぬつもりなどない。


「そんじゃ行くか」


 いまはただ前進するのみ、とりあえずはこの山を登らないと。


「それにしても遠いなぁ」


 今日はとても長い一日になりそうだった。

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