もしかして、フラグですかね?⑥
「ねえ、スケヒトさん。どうして昨日になって襲われたんだと思います?」
喫茶店を出て通学路を散策していると、隣を歩くセラがそんなことを言った。
「どうしてって言われても……」
それはスケヒトのほうが聞きたかった。襲われるのには理由がある。だったら、昨日襲ってきたのにも何か理由があるはずだ。
「今回の
「……俺と同じ、十七歳」
忘れるわけがない。同い年で、しかも妹がいたのだから。
「そうです、十七歳です。じゃあ、いつ殺されたのかは覚えていますか?」
「幕末だったはず」
「それでは幕末のいつ、正確には何月何日だと思いますか?」
「そんなの……」
聞いていない。そう言おうとして、気づいた。
「まさか、それが昨日……?」
「さすがですねスケヒトさん。そう、昨日です」
だから昨日襲われたのか。何百年か前の昨日、前世で人を殺したのだ。そのことは前世での出来事だろうが、いやな気持ちになる。
「あのさ、一つ聞いてもいいか?」
「なんなりとどうぞ」
「俺は前世での因縁で狙われているんだよな」
「その通りです」
「そこは分かるけど、相手は俺を捕まえてどうしたいんだ?」
スケヒトには前世の人格も記憶もない。言ってしまえば
「きっと、殺すつもりでしょうね」
「どういうこと?」
「来世で会おうとしているのですよ、自分を殺した人物に」
「ん?」
「いまは片方だけが残火人となっています。だから、因縁を果たすためにはもう一方も残火人となってもらう必要がある。そういうことです」
「そんなこと、可能なのか?」
「バグは修正するまで残り続けます。あとは相手がバグってくれるのを待つだけですから。きっとスケヒトさんを殺したあとで、自分も死ぬつもりでしょう」
「残火人のほうは――現世のほうは、何も知らないままなんだよな」
無意識の状態で体を操られ、誰かを殺してしまう。そして何が何だか分からないまま気が付いたら死んでいる。そんなのって、
「理不尽すぎるだろ……」
スケヒトは歩くのをやめ、立ち止まる。目的地の学校に到着したのだった。
「だからこそ――」
セラはスケヒトの前に回り込み、胸に手を当ててそう言う。長い黒髪が遅れてふわりと宙を舞った。
「だからこそ、私はスケヒトさんを絶対に
スケヒトが死ななければ、残火人も死なない。そして、この少女がいる限りスケヒトは死なないだろう。たとえ殺されそうになったとしても、きっとまた守ってくれるはずだ。
真剣な銀の瞳で見つめられ、スケヒトは少しどきりとする。
「その……よろしく、お願いします」
照れた表情を見られたくないのもあって、スケヒトは一礼する。そういえば、まだこの言葉を言っていなかった。
「お任せくださいっ!」
明るい声でセラが返す。顔を上げると、セーラー服と同じくらい真っ白い歯を見せて、セラが笑っていた。
「さてと。ルートも確認できましたし、帰るとしましょうか!」
校門を
「帰りはスーパー寄ってきましょう」
「あ、ああ」
「お昼はパスタが食べたいです!」
「えっ、まだ食べるの!?」
喫茶店でケーキとクリームソーダを平らげてから、まだ一時間もたっていない。この少女は腹にブラックホールでも飼っているのだろうか。
「そりゃそうです、甘いものは別腹ですから!」
「んな馬鹿な……」
「それに、パスタだったら私でもお手伝いできます! 帰って一緒に作りましょうね、スケヒトさんっ!」
隣で笑う少女を見て、スケヒトはもう一度どきりとした。
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