ルート分岐、そりゃもう一択!①
「こんな感じでよろしいですか?」
フライパンの中には真っ赤なソース。煮だったそれをかき混ぜるのは、エプロンを着たセラだ。
「オッケーオッケー。じゃあ次はパスタの投入といこう」
ソースと並行して
「パスタなら何とか、一人でも作れそうです」
麺とソースを混ぜ合わせながらセラがそう言った。
「そりゃよかった。んじゃ、最後に盛り付けといこうか」
「はーい!」
セラが慎重に盛り付けをして、料理は終了。なかなか上手にできた。スケヒトは先にサラダを運ぶ。
「はやく、はやくー」
「ゲフッ!」
テーブルには既に
「この犬、パスタも食べるのか……」
「亡者を食べていたくらいですから、パスタくらい食べますよ」
パスタを運んできたセラがさらっと恐ろしいことを言った。セラはそのパスタを千代とセバスチャンの前に置く。
「え、そんなもん食べんの?」
「昔の話ですよ。だてに地獄の番犬はやっていません」
「腹を壊しそうだな、それ」
変な鳴き声の小さい犬。見た目は弱そうだが、そういえばケルベロスだった。
「それより早く残りのサラダとパスタ、運んじゃいましょう! お腹がすいて、内に秘めし獣が暴れだしちゃいそうです!」
甘いものは別腹という話は本当らしく、セラのお腹はぐぅーと鳴る。
「ほらっ! 言ったじゃないですか!」
腹が鳴ったのが恥ずかしかったらしい。セラは顔を赤らめて腹を押さえながら訴える。その姿を見たスケヒトは思わず笑ってしまった。
「わっ、笑わないでください!」
「ごめんごめん。面白くって、ついな」
「むぅー。それより早く運びますよ!」
エプロン姿の少女に手を引かれ、スケヒトは歩き出す。
「それじゃあ、手を合わせてください。いただきまーす!」
「「いただきまーす!」」
「ゲフッ!」
スケヒトが音頭を取って食事が始まった。セラたちが家に来てから、食事の時間はとても
「初めて作ったので、自信はないですが。どうですか、おいしいですか?」
目の前に座るセラが不安そうな顔で聞いてきた。お腹がすいたと言っていたにも関わらず、パスタにはまだ手をつけていない。
「うんっ! おいしーよ、セラお姉ちゃん!」
「本当ですか!?」
千代の感想に驚くセラ。目をうるうるさせて、今度はセバスチャンを見る。
「ゲフッ!(肯定)」
セバスチャンはそう元気に鳴き、再び食べ始めた。
セラは最後にスケヒトを見る。唇を引き締め、大きな銀の瞳でスケヒトを見つめている。その表情は真剣そのもの。お世辞を言えるような雰囲気ではない。だから、スケヒトは感じたそのままを伝えた。
「さすがは家政婦さん。とってもとっても、おいしいよ」
セラの張りつめていた気持ちが
「よかったです!」
嬉しそうににっこりと笑った。セラの笑顔を見て、思わずスケヒトも顔がほころぶ。
「自分でも食べてみ。ただし、ソースは飛びやすいから気をつけてな」
「はいっ!」
エプロンを着たままパスタを食べる少女を見て、スケヒトは思う。この楽しい時間は、自分が狙われているからこそあるのだと。
「兄ちゃん、ティッシュー」
そう言われて妹を見ると、胸にソースが飛んでいた。服には縦一線に赤く染みがついている。それはまるで返り血を浴びたようだった。
「ありゃりゃ、これは洗濯だな」
「ご飯のあとのお洗濯も、私にお任せください!」
口にソースをいっぱいつけて、セラがそう言ってきた。妹にティッシュを渡すついで、セラにも一枚とってあげる。
「とりあえず、口拭け、口」
「おっと、これは失礼しました!」
真っ赤なソースを拭く妹とセラを見て思う。どうして自分は前世で人を斬ったのだろうかと。
「おいしいんだけどなぁ」
ソースが血のように見えて、仕方なかった。
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