もしかして、フラグですかね?⑤

 それじゃあごゆっくりと意味ありげに言って、なじみはバイトへと戻っていく。

 申し訳程度のフリルがあしらわれたスカート。それをひるがえす幼馴染の姿は、とても新鮮だった。


「さっきの可愛い人、お友達ですか?」


 クリームソーダのアイスを食べながら、セラがそう聞いてきた。何故かにやにやしている。


「友達っちゃ、友達だな」


「その言い方、何か裏がありそうですね。お名前はなじみさんで合ってます?」


「そう、天月あまつきなじみ。って勘違いするな、裏なんてないぞ!」


「名前で呼び合っているなんて、裏がなきゃありえません。ずばり、スケヒトさんの彼女さんですよね! そうですよねっ!」


「それだけは断じて違う!」


 どうしてこんなに興奮しているのか、分からない。セラは目をきらきら輝かせ、前のめりになりながらスケヒトの返答を待っていた。


「あいつは保育園からの知り合いってだけだ。期待してるような関係じゃない!」


「つまり、ただの幼馴染だと」


「そうだ」


「攻略するか迷ってたりは……」


「しない!」


 できるわけがない。

 なじみとは昔から家族ぐるみで付き合いがある。いまでもたまに遊びに来たり、おばさんの料理を持ってきてくれたりと交流があるのは確かだ。仲が悪いわけでもないし、別になじみのことが嫌いなわけでもない。

 しかし、だ。そこまで親密な関係だからこそ、異性として意識することはできない。しないのではなく、できないのだ。


「なじみは家族みたいなものだからな。家族を攻略はできないだろ」


「そうでもないですよ? マニアックなエロゲですと、よくあるシチュエーションです」


「マニアック過ぎるだろ、それ!」


 どんなゲームだ。そもそも需要があることに驚きを隠せない。


「ポニーテールの幼馴染。攻略のしがいはあると思うんですけどねー」


 ストローで氷を回し、頬杖ほおづえをついてそう言うセラ。その銀の瞳は、頭の尻尾しっほを揺らしながら働くなじみを追っていた。


「――さてと、そろそろ行きましょうか!」


 くわえていたストローを口から出して、セラが言う。スケヒトが最後の一口を飲むのを待っていたようだ。


「明日の予定もできましたし!」


 明日の放課後、セラと駅方面に行くこととなった。コーヒーを飲み終えるほんの間に、そんな約束を結ばされてしまったのだ。


「そのかわり、仕事もちゃんとしてくれよ」


「はいっ!」


 じゃあ行くかと言い、伝票を持って立ち上がる。時刻は午前十一時三十分を回ったところ。通学路とその周辺を確認して帰るのには程よい時間だ。


「おいしかったです! ごちそうさまでした!」


「そりゃよかったな」


 セラはふんふんと鼻歌を歌っている。よっぽどケーキセットが気に入ったようだ。


「会計よろしく」


 レジへ到着し、そこにいたなじみに伝票を渡す。ちなみにセラの分の会計は、護衛への対価ということでスケヒトが払うことにした。


「まさか、あんたが妹以外に金を出すなんて……」


「そんなことはないだろ!」


 誤解を招く言い方はやめていただきたい。


「あ、そうそう。持ち帰りのケーキ、三つ頼む」


千代ちよちゃんの分?」


「一つはな。あとはあいつの分」


 そう言って、スケヒトは後ろの少女をゆびさす。白いセーラー服を着たセラは何故指さされたのか分からず、首をかしげた。


「あの子、二つも食べるの!?」


「まあな……」


 本当は違う。なじみにはまだ言えないが、セバスチャンの分だ。もしもあの犬の分を買っていかなかったら、どうなることか分からない。


「はい、お釣り」


 渡された小銭とレシートを財布へ入れる。スケヒトがそうしている間に、なじみは手際よくケーキを箱に入れていた。


「そうそう、今日あんたんち行くから。母さんが肉じゃが持ってけってさ」


「いつも悪いな。おばさんにも言っといてくれ」


「大丈夫大丈夫。それよりできたわよ、ケーキ」


「おう」


 箱はズシリと重い。ケーキ重さに感じるのだが、それはきっと保冷剤が入ったからだろう。


「今日行くからさ……ケーキ、残しておいてよね!」


「ん?」


「ありがとうございましたー!」


 急いでレシートを見ると、なじみの分まで買わされていた。

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