どうします、やっちゃいます?④
「うわっ!」
突如、ガラス張りの天井が一気に割れた。凶器と化したガラスの雨がスケヒトとセバスチャンに降り注ぐ。
「ゲフッ!」
セバスチャンが一回吠えて、スケヒトたちの周りに透明なバリアが張られた。ガラスがドームの形を型取って二人を避けるように落ちていく。
「……!」
ガラスと一緒に落ちてきた――降下してきたものを見て、スケヒトは焦った。
「もう来たのかよ……」
上から降りてくるのは、ヘルメットとゴーグルを着けた迷彩色の集団。映画などに登場している特殊部隊に似ていた。
「ガルルルル」
特殊部隊に囲まれ、セバスチャンは牙をむいて
「動くな!」
銃のようなものをこちらに向け、隊員の一人がそう叫ぶ。
どうしよう。完全に包囲されてしまった。
「我々は管理局所属、
「何の略なのか全く分からないネーミングだな!」
「黙れ! 黙って手を頭の後ろで組め!」
ガチャガチャと音を立てて、銃が目標を捉える。
四方八方から銃口に見つめられ、スケヒトはたまらずセバスチャンにしがみついた。
「ゲフッ」
セバスチャンが小さく吠えた。しがみつかれていない方の頭がスケヒトに目で合図を送ってくる。どうやらここを強行突破するつもりらしい。その意を
「アウォーンッ!」
耳をふさがずにはいられないほどの大音量で、セバスチャンは遠吠えをする。
すると周りを取り囲んでいたスクワットの隊員たちが、見えない壁に押し退けられるようにして一斉に吹き飛んだ。
「や、やりぃ……」
「ゲフッ!」
進路はオールフリー。隊員が吹き飛んだのを見て驚くスケヒトを背中に、セバスチャンは駆けだす。再び扉を粉砕してホール内に突入した。
「ヤバい!」
前方の舞台を見ると、なじみもスクワットに囲まれている。分身――黒い女を出して相手を近づけまいと
「急いでくれセバスチャン!」
事態は一触即発。
何としてでもなじみを――残火人を救わなければ。
「一斉に撃てぇぇぇ!」
銃声が響き渡った。黒い女はなじみを抱きかかえるようにしてそれに撃たれる。そして、塵が風に吹かれてなくなるように消えていった。
「構え!」
銃口が今度はなじみに向けられた。なじみは敵を睨みながら後ずさっている。
「――お前、跳び過ぎなんだよ」
早く行かないと浄化されてしまう。急げとは言ったが、ここまで跳べとは言っていない。
「ゲフッ!」
セバスチャンは天井を一蹴りし、なじみ目指して一気に降下する。
下では部隊のリーダーらしき人物が手を挙げ、発砲の合図をいまにも出そうとしていた。
「頼む、間に合ってくれ!」
「――撃てぇぇぇ!」
ホールに轟音が響いた。衝撃で劇場がきしむ。
「……ごほっ」
煙のように舞った埃の中から咳をするのは、セバスチャンに乗ったスケヒト。
間一髪、バリアでなじみを
「こりゃまた盛大にやったな……」
視界が開けると、スクワットの隊員たちは舞台上にいなかった。座席に寄りかかったり、通路に寝ていたりと全員が吹き飛ばされている。なじみはセバスチャンの後ろで気を失っていた。
「どうすっかな」
気絶したなじみを前に、セバスチャンから降りたスケヒトは頭を抱える。
セバスチャンの背中になじみを上げることは難しい。体力的にもそうだが、時間がかかり過ぎる。
「ゲフッ!」
スケヒトがどうするか迷っている間に、セバスチャンが動いた。
二つの頭を使ってなじみとスケヒトの両方を
「もが(おい)!」
頭から口の中に入っているスケヒトはうまく喋れない。
「もがもがもが(聞いてんのか)!」
唾液で体じゅうべとべと。服が
「フンッ」
抵抗するスケヒトを鼻で笑い、セバスチャンは跳躍の準備に入る。
このまま跳ばれたら四肢粉砕する自信がある。咥えるならせめて縦ではなく横にしてほしい。
「もがもがもがぁ(おい馬鹿やめろ)! もがっ――!」
暴れるスケヒトは口の中でしゃぶられ、鎮圧される。レジスタンスが静かになったところで、セバスチャンは跳躍した。
「もぎゃーーっ!」
体にかかる加速度を感じながら、着地点に風呂があることを祈った。
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