吊り橋効果、マジすごいです!⑥

「……ふざけんな」


 スケヒトは言う。

 自ら自分の腹に輪廻刀りんねとうを刺して言う。


「何がすまなかっただ。何がもう済んだだ」


「お前……」


 立っていられず、スケヒトは膝から崩れる。

 目を覚まさせるためとは言え、やはり痛いものは痛い。激痛が走る中、それでも残火人に訴える。


「じゃあどうして、そんなに悲しい顔してんだよ!」


「っ!」


 残火人のこりびとの顔が再びゆがんだ。


「そんなやつを、俺が斬れるわけないだろう!」


 こいつはただ、どうしようもない気持ちを発散させたかっただけなんだ。最愛の妹にもう一度会いたい、ただその願いを叶えたいだけなんだ。


「つまんない見栄なんて張ってないで、もっと素直になれよ!」


 勝手に自分で終わらせるな、そうスケヒトは叫ぶ。


「あなたは、どうしたいんだ!」


 残火人の肩がびくりと跳ねた。


「私は……」


 うつむいて、蚊の鳴くような声で呟く。肩で息をし、握られたこぶしは震えていた。


「ああ」


 そんな残火人に、スケヒトは優しく声をかける。


「……私は、」


 声を絞り出して、残火人は語る。そして、


「もう一度だけでいい、一目だけでいいから妹に会いたい!」


 顔を上げ、そう叫んだ。


「何だ……ちゃんと言えるじゃん」


 残火人がきちんと自分の気持ちを言えたのを聞き、スケヒトは地面に倒れ込む。

 もう意識を保っていられそうにない。


「おいっ、死ぬな!」


 残火人が倒れたスケヒトに駆け寄り、激しく肩を揺らす。


「一つだけ、頼みがある。聞いてくれ……」


「もう喋るな!」


「いますぐこの刀を抜いてほしい」


「そんなことをしたら死ぬぞ!」


 残火人は泣きながら言う。死ぬなと何度も叫ぶ。

 本当に優しいのはあなたの方じゃないか。


「……大丈夫、俺は死なない。だって、」


 輪廻刀で人は斬れないから。


「だから、いますぐ刀を……」


「お前は何を言っているのだ」


「いいから早く! こうしているの、キツいんだ」


 斬れはしないけど、痛みがないわけではない。初めてセラに斬られたときも結構痛かった。今回は刀を抜かないせいで、その痛みがずっと続いている。


「ほ、本当にいいんだな?」


 スケヒトにかされ、残火人はしょうがなく刀の柄を握る。


「頼む……」


「では行くぞ!」


「うぐっ――!」


 再び腹に激痛が走り、そしてスケヒトは気を失った。


「――……っん、んんっ」


 なまめかしい声を聞いて、スケヒトは目覚めた。見ると、隣で残火人が寝ている。頬には涙のあとがついていた。


「思いっきり寝ちゃったな……」


 残火人と戦っていたのが午前中だから、一体どれくらい寝ていたのだろう。廃墟には夕日が差し込んできていた。


「ん?」


 上半身を起こすと、額からハンカチが落ちてきた。どうやら残火人が乗せてくれたらしい。


「そうだ、セバスチャン」


 ポケットの中に手を突っ込み、セバスチャンを取り出す。


「大丈夫か?」


 画面に映し出されたディフェンスメーターは底をついていた。しかし、セバスチャンの体力は底をついていないようで、


『ゲフッ』


 と弱々しいながらも返事を返してきた。


「無理をさせてすまなかったな」


 謝ってからセバスチャンをポケットに入れる。

 あとは残火人を連れて家に帰るだけだ。腹を空かせているセバスチャンのためにも、早く帰ろう。


「起きろー」


 隣りで寝ているなじみをする。一体どちらのなじみが目覚めるのだろうか。


「……んぁ?」


 なじみがうっすらと目を開ける。そしてスケヒトを見るなり飛び起きた。


「……生きてた」


 目を丸くしてスケヒトを見つめる。残火人の方が目覚めたらしい。


「言っただろ、死なないって」


「本当に、本当に……生きててよかったぁ!」


「ほら、これ使えよ」


 スケヒトはハンカチを差し出す。

 三年前にあげたハンカチも持って来てよかった。


「ありがとな」


 それからしばらく、残火人は大粒の涙を流して泣いた。

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