ルート分岐、そりゃもう一択!④

 いきなり、けたたましい警告音が鳴った。スケヒトはもちろんのこと、なじみとセラも驚いている。


「何だなんだ、何事だ!?」


「……私のから、みたいですね」


 そう言って、ポケットから携帯機器のようなものを取り出すセラ。画面を開いて、深刻な表情になった。


「やはり、いらっしゃったみたいです」


「誰が?」


 セラはスケヒトの質問に答えることはせず、無言で画面を操作する。答えの代わりに輪廻刀りんねとうと呼ばれる刀を出現させた。それを見て、スケヒトも誰が来たのか理解する。


「いまの何?」


 事情を知らないなじみがスケヒトに問う。目の前でどこからともなく刀を出されたのだ、不思議に思って当然だろう。


「まさか、なじみがいるときに来るとは……」


「ねえ、あの刀どこから出したのよ!?」


「事情は後で説明するから、いまは少し待ってくれ」


 焦るスケヒトを見てなじみは口をつぐむ。変な汗をかきながら、スケヒトはセラに聞いた。


残火人のこりびとのほうか?」


「いえ、分身のようです」


 セラも先程とは打って変わって、真面目な顔になっている。


「俺たちはどうすればいい?」


「家にいてください。あとは私が処理いたしますので」


 そう言って、セラは玄関に駆けていく。セラが家の外へ行き、リビングにはスケヒトとなじみが残った。


「ねえ、来たって何が? 何を処理しに行ったの?」


 スケヒトは無言でなじみの手を取る。そしてそのまま、表が見える窓まで連れて行った。百聞ひゃくぶん一見いっけんかず、説明するより見せたほうがいい。


「何、あれ……」


 家を守るように立つセラの前に長髪の女が一人。髪も服装も体も真っ黒で、それは影が立っているよう。ゆらゆらと揺れながらセラのほうに近づいていく。


「信じられないかもしれないけど、実は俺、あいつに狙われてんだよ」


「あの、黒いのに?」


「そう」


 夕暮れどき、家の前でセラと残火人の分身は対峙たいじする。昨日と同じような状況だ。


「そんでいまはまもってもらってるみたいな」


「あの子が、あんたを……?」


 なじみが驚くのも無理はない。はたから見ればセラは華奢きゃしゃな少女。お嬢様といった風貌ふうぼうで、刀を振り回しているなんて想像もつかないだろう。そんな子に護ってもらうと聞けば、立場が逆だとツッコミが入るのは必然だ。


「あんなかよわそうな見た目だけどさ、」


 毎朝トレーニングをしていると言っていた。今朝だってそうだ。朝ご飯を作るからと言ってさぼらず、早起きしてまでトレーニングをしていた。それに、昨日は一瞬で敵をやっつけてくれている。

 不安そうにしているなじみにスケヒトは言う。胸を張ってこう言った。


「うちの家政婦さんは、結構強いんだぜ」


 スケヒトの瞳を一度見て、なじみは再び窓の外に目をやる。


「――そう。だったらいいのだけど」


 なじみがぼそりとつぶやいた次の瞬間、黒い女が動き出した。四つん這いになり、体勢を低くする。その様子は猫が獲物に飛びつく寸前のよう。


「……!」


 黒い女がセラに飛びかかった。空中で腕を振り上げ、セラめがけて下ろす。見ると女の指は長く、そして鋭く変形している。

 女の指と輪廻刀が交わった。甲高い金属音がして、スケヒトは女の指が鋼鉄のように固いことを知る。


「あれでられてたかもしれないのか……」


 刀に弾かれた黒い女は後方へ跳ぶ。アスファルトの道路に白い引っかき傷をつけて、停止した。

 女はもう一度攻撃を仕掛ける。両手を振り回し、セラを追撃。セラのほうは体をよけるだけで、右手に持つ刀を振るうことはしない。相手のすきを探っているようだ。


「っ!」


 隣のなじみは額に汗をかき、はらはらした様子で戦いを見ている。手に汗を握っているのはスケヒトも同じだった。

 セラは女の攻撃をかわしながらステップを踏む。そして女が前によろけたそのとき、一瞬で後ろに回り込んだ。


「よしっ!」


 スケヒトは思わずガッツポーズをしてしまう。

 家を背負うように立つセラは抜刀の構え。女をしっかりと見据みすえている。女は振り向きざまに鋭い指を振り下ろした。左上から右下への袈裟斬けさぎり。しかし、それは空を斬る。


「……つ、強い」


 なじみがそう呟いた。

 セラと黒い女は交差している。輪廻刀は引き抜かれ、切っ先は右上空を向いていた。首が落ち、黒い女はひざから崩れるように倒れる。そして、塵がなくなるようにほどけて消えていった。


「ふう」


 緊張が緩み、やっと一息つけた。スケヒトはその場に座り込み、外のセラを見る。


「……何が華奢な少女だよ」


 夕日色に染まるセラの背中は、とても格好よかった。

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