ルート分岐、そりゃもう一択!⑥
夕飯がテーブルに並んだころ、ちょうど
「へー、この肉じゃがなじみちゃんが作ったんだー。おいしーねー」
「たっ、卵焼きはどうでしょうか!?」
「形は変だけど、まあまあおいしーよー」
千代は溶けかけのスライムのような卵焼きをつつく。これを作ったのがセラだということは、言うまでもない。
「一番格好よくできたものを選んだつもりなのですがね……」
十二分の一の確率でしか卵をちゃんと割れない、その言葉は本当だった。だから卵はスケヒトが割ってあげたのだが……。
「ゲフッ、ゲフッ」
スケヒトの足元で、セバスチャンは
「……(頑張ってくれ)」
そう気持ちを込め、無言でセバスチャンを
「そう言えばプレゼント、なじみちゃんに渡したー?」
なじみが作った肉じゃがを取りながら、千代が聞いてきた。
「今日も渡しそびれたよ。なじみのやつ急いで帰っちゃったからな」
「なじみちゃんが急いで帰るなんて、珍しいこともあるもんだー」
「観たいドラマがあるらしくてな」
「ふーん。うちで観てけばいいのにねー」
何も知らない千代はじゃがいもを口に運び、
「でも、明日はちゃんと渡したほうがいいよー。せっかくお兄ちゃんが選んだんだから。なじみちゃんも待ってると思うしさー」
「何をプレゼントなさるのですか?」
きんぴらごぼう(スケヒト作)をつついていたセラが首をかしげる。
「ハンカチだよ、ハンカチ」
「どうしてまた」
「あいつ、昨日が誕生日だったんだ」
「そうなんですか! おめでたいです。それじゃあ、昨日は誕生日ケーキとか食べたんでしょうね」
「そう……だな」
ケーキと言われて気が付いた。
「まさか、俺が忘れてると思って……」
なじみの分のケーキを買わされた理由はそれかもしれない。今日のことといい、昨日のことといい、明日は朝一でなじみに謝らなければ。
「それにしても、うらやましいです」
「何が?」
「お誕生日を祝ってもらえるなんて、うらやまし過ぎます!」
「そ、そうか?」
「はい! だって一回も祝われたことないんですもん!」
そう言えば、年齢という概念は存在しないとか言っていた。誕生日がないのでは、土台無理な話だ。
「誕生日じゃなくても、祝われたことくらいはあるだろ」
「いいえありません! 私は基本単独行動ですので」
「友達は?」
「……」
そっぽを向くセラ。その反応が答えと言えよう。
「いないんだな」
「そっ、そんなにはっきり言わなくても!」
セラはうわーんと言って、白飯をかっ込む。そして自分の作った卵焼きを食べて盛大に
「わたしはセラお姉ちゃんのともだちだよー」
涙目になっているセラに千代がそう声をかける。千代ににっこりと
「大好きですよぉ、千代ちゃぁん! 結婚しましょぉう!」
と言って、わざわざこちらに来て千代に抱きついていた。
「友達は結婚するような関係じゃないぞ……」
それは友達ではなく恋人だ。まあ、それくらいうれしかったのだろう。
「くすぐったいよー、セラお姉ちゃん」
「大好きですぅぅぅ!」
セラに
セラが家政婦だと強調するのも、家事を頑張るのも、なじみともっと話したがったのも、全ては友達が欲しかったから。そうなのかもしれない、と。
「ゲフッ」
足元でセバスチャンが鳴いた。口元に卵焼きスライムの
「安心しろって……」
今日だって朝から色々なことがあったのだ。喫茶店に行ったり、一緒にご飯を作ったり、洗濯物を干したり。しかも昨日なんて自分の部屋に泊めている。そんなやつを、ただの家政婦だなんて乾いた関係で片づけるつもりはない。
「セラはもう、大丈夫だから」
あとは分かるだろ、とアイコンタクトで伝える。きちんと伝わったのだろうか、セバスチャンは無言で食事に戻っていく。そして、
「ゲフッ!」
と、了解の返事なのか
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