なんですか、イベントですか?①

 翌日、月曜日の朝。妹を見送ってからスケヒトとセラは家を出た。今日のセバスチャンはキーホルダーとなり、千代ちよの赤いランドセルにくっついている。


「ねえスケヒトさん! 似合ってますでしょうか?」


 本日、セラはいつもの白いセーラー服ではなく、学校指定の制服に袖を通していた。登校中のスケヒトの前に回り込み、後ろ向きで歩きながら感想を聞いてくる。


「……ま、まあ、それなりに」


 笑顔で聞いてくるセラに、スケヒトは目を合わせることができない。頬をかき、照れ隠しをするので精一杯だ。


「あはは。やっぱり、コスプレのほうが可愛かったですかね……」


 自分の制服を指でつまみ、落ち込み気味に笑うセラ。


「いや、そう言うわけでは」


 面と向かって可愛いだなんて、恥ずかしくて言えるわけがない。

 自慢じゃないがうちの制服は可愛いのだ。制服目当てで入学してくる子もいるくらいに。だから、ただでさえ美少女のセラがうちの制服を着たら、それはオーバーキルと言うものだろう。


「コスプレより……いいと、思う」


 どうにか言葉をつむぐ。このままでは、セラが悪い誤解をしてしまいそうだった。なじみの誕生日の件もそうだが、もう誤解を招いて人を傷つけたくはない。


「それならよかったです!」


 セラは白い歯を見せて、今度はうれしそうに笑う。その笑顔にスケヒトはどきりとした。

 くるっと半回転し、前を向いて歩き出したセラは上機嫌な様子。隣で手さげ鞄をパタパタ揺らしながら、アニソンを口ずさんでいた。


「一つ、聞いてもいいか」


「どうぞどうぞ」


 これは二人きりのときにしか聞けない質問。昨日からなかなか聞けなくてもやもやしていた。だからいま、聞いておく。


「俺のこと、どう思ってる?」


「……!」


 ボンッと音がしそうな勢いでセラの顔が赤くなった。これはしまったと、スケヒトはすぐに訂正ていせいする。


「いっ、いまのは言葉選びを間違えた! 勘違いしないでくれ!」


「びっくり……しちゃいました」


 変な空気になってしまった。ここは一刻も早く話を進めねば。


「正しくは、前世で人殺しの俺をどう思ってるのか、だ」


「と言いますと?」


 隣を歩くセラは首をかしげる。スケヒトはどうしてもこのことを聞いておきたかった。


「俺が残火人のこりびとに狙われているのは、前世でそいつを斬ったから――殺したからなんだろう?」


「おそらくは」


「そんな人殺しを、どんな気持ちでまもってるのかなって……」


 前世の記憶はない。人殺しだったという実感もない。けれど、輪廻転生管理局のセラはそのことをくわしく知っているわけで。


「俺よりも、前世の俺を知っているんだろう?」


「書類上で、ですけどね。なーんだ、そんなことですか。真剣な顔で『俺のこと、どう思ってる』なんて聞いてくるものですから、くらっときてしまいましたよ!」


 やれやれとセラは肩をすくめる。


「そんなことって……」


「大丈夫ですよ、安心してください。私、スケヒトさんのこと大好きですから!」


「なっ!」


「あははっ、お返しです!」


 冗談でもやめてほしい。昨日からどきりとしすぎて、心臓がいかれてしまいそうなのだ。


「真面目な話、私は何とも思っていません。スケヒトさんはスケヒトさんですから!」


「んなこと言ったって、俺は……」


 前世で人を殺しているんだぞ。


「いいですか、重要なことを一つ言いますよ」


 と、セラは真面目なトーンになって人差し指を立てる。


「ただの人殺しでは、そう簡単に転生できません」


「ん?」


「もっと言うと、罪をつぐなった者、しか転生できないのです」


 にっと笑ってセラは続ける。


「それにスケヒトさんの場合は、仕方なく殺した――殺さざるを得なかったのです。だから、気に病む必要はありませんよ」


「なあ――」


 仕方なく殺したって、どういうことだ。

 そう聞きたかった。だがもう聞くことはできない。二人きりの時間は終了だ。


「私は中途半端な時期に来た転校生ですからね。もしかしたら、サクラサクようなラブコメが現実リアルでできるかも! いまからミライが楽しみです!」


「えっ」


 セラは先に校門へ駆けていく。そしてスケヒトの正面に立ってこう言った。


「嘘ですよ、ラブコメは見るだけで十分です。私、スケヒトさん以外には興味ありませんから!」


「はぁっ!?」


「あははっ、倍返しってやつです!」


 今度こそ本当に心臓が止まるかと思った。

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