嫌いですね、シリアス展開は!⑥

「本当に最悪だ。よりによって、こいつに……」


 足元を歩く二つ頭の犬を見ながら、スケヒトは呟く。

 現在、再び山道を歩いているところだ。小学校からはどうにか脱出することができた。


「まあまあ、いいじゃないですか。私、楽しかったですよ?」


「セバスチャンの恐ろしさを知らないから言えるんだ、そんなこと」


 セラと二人で掃除用具入れに入っていたという弱みを握られてしまった。今晩から何を要求されるか分かったもんじゃない。


「それにしてもハラハラドキドキしましたよねぇ」


「もうちょっと早く、千代ちよのランドセルが見つかりさえすれば……」


「少し教室を荒らしてしまいましたからね」


 ランドセルを確認するため、机を少々ばかり動かしてしまった。できるだけ直しながら作業したものの、侵入したのがバレないか不安である。


「そういえば、どうして残火人のこりびとは俺の教室を荒らしたんだろうな」


「私の席が分からなかったからでは? 転校して来たばかりですし、あの場にいる人間しか私の席は分かりません」


「じゃあさ、どうして俺の教室にいるって分かったんだ?」


「なじみさんに言いませんでしたか? 私にまもってもらっていると」


「言ったけど……」


 確かに残火人の分身――黒い女に襲われたとき、なじみにはセラに護ってもらっていると説明した。


「そのときのなじみさんは、本来のなじみさんではなく前世の方です。あちらだって護ってもらっていると聞けば、私がスケヒトさんのクラスに所属することなど簡単に予想できたでしょう」


「その話からいくと、前世の人格は俺のクラスが分かってたことになるのでは?」


「まあ、そうですね。記憶の根底の部分はなじみさんと繋がっていますから、前世の人格がスケヒトさんのクラスを知っていたとしても何ら不思議はありません」


 なじみと記憶の根底は繋がっている。だから教室を特定できた。残火人はなじみの記憶をのぞいているって感じか。


「だったら、その逆もあり得るよな?」


「逆、ですか?」


「なじみが前世の記憶を見れるってことだよ」


 深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞいているという。


「その可能性は高いと思います。まあ、夢を見ているって感じですからね」


「なじみがこっちに戻ってくることは可能なのか?」


 なじみはいま、前世の人格に操られている。どうにかしてなじみを引き戻すことができれば、残火人についてもう少し詳しく知ることができるかもしれない。


「はい。きっかけさえあれば」


「きっかけって?」


 そうですねーと言って、セラは首をひねる。


「なじみさんにとって衝撃的なことですよ。例えば、宝くじに当たるとかですかね」


「そりゃ随分な衝撃だな……」


 渡せていなかった誕生日プレゼントを渡す、とかではダメだろうか。いま自分ができるなじみを引き戻すきっかけはそれくらいしかない。


「ゲフッ!」


 いきなり、いままで話を聞いていたセバスチャンが鳴いた。


「何ですか、セバスチャン?」


「ゲフッゲフッ」


「ふむふむ」


 セバスチャンの鳴き声をセラが聞き取っている。本人たちの間では会話が成り立っているようなのだが、一般人のスケヒトには何が何だか分からなかった。


「俺に考えがあるから任せろ、だそうですよ」


「よく分かるな、セバスチャン語」


「ケルベロス検定一級ですから!」


「おかしな検定ばっかりあるんだな……」


 そんなもの取得してどうするのだろうか。ケルベロスはまあ分かるとして、小学生検定は無駄だと思う。いや、無駄な検定であってほしいと願いたい。


「なあ、考えってなんだよ」


 スケヒトは足元を歩くセバスチャンに問う。

 変な考えだったら嫌だ。この犬の性格からして、何かをたくらんでいることには違いない。


「ゲフッ(にやり)」


 スケヒトはすぐにセラを見て、何と言ったのかを聞く。


「いやー、すみません。いまのは聞き取れませんでした」


「おいマジか……」


 けれど、やはり何かをたくらんでいることは確かだった。

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