後片付けは、お任せください!①
「ふー、いい汗かきました!」
玄関の前でセラが額の汗を拭う。
「もう、走れん……」
張りきっていた
手を引っ張ってくれたのは最初だけで、後は引っ張られてここまで来た。
「汗でびっしょりだな」
「お前が、あんなに速く走らせるから」
「そんなに速くなかったと思うけど」
残火人の体力を考えて走ったから、スピードとしてはジョギングくらいだろう。いや、もしかしたら早足くらいだったかもしれない。
「ささ、早く中に入りましょう!
セラがぐったりとしている残火人の背中を押す。
「おい、ちょっと待て!」
「どうされましたか、
「この扉を開けば、妹がいるのだろう? その……心の準備というものが」
きゅっと胸を掴んで小声で言う残火人。
久しぶりの、百年以上ものときを経た妹との再会なのだ。たとえ相手が自分のことを覚えていないとしても、緊張するのは無理もない。
「大丈夫ですよ。あなたのそばには私とスケヒトさんがいますから」
「だが、そうは言っても……」
「もー、しょうがない人ですねー!」
うじうじしている残火人の手を取って、セラが強引に引っ張る。
「会う前にどうこう言ってないで、会ってから考えればいいでしょうが! スケヒトさん、玄関のドア開けてくれます?」
「お、おう!」
いまの残火人ではセラに敵わず、ぎゃあぎゃあ言っているうちに玄関の前まで引きずられてきていた。
「いいか、開けるぞ!」
「待て待て待て待て!」
問答無用で扉をオープン。スケヒトはドアマンのように扉を開けた。
さて、元姉妹による感動の再会だ。家の中の様子は見えないが、すぐに千代が出てくるだろう。
「……あれ?」
てっきり、おかえりーと言う妹の声が聞こえると思ったのだが何も聞こえてこない。不審に思って中をのぞいてみる。
「ひっ!」
お玉を持ち、腕を組んで仁王立ちする妹がいた。ゴゴゴゴゴという効果音が付きそうな雰囲気をまとっている。
「お兄ちゃん!」
「はっ、はい」
頬を膨らませ、ご機嫌がよろしくない妹。まさかとは思うが、小学校に侵入したことでもバレてしまったのだろうか。
「いま何時だと思ってるの! よあそびする子に育てた覚えはありません!」
「育てられた覚えないんだけど……」
よくそんなフレーズを覚えていたな。ドラマの観過ぎだ。
「肉じゃがカレーが冷めちゃったよ! わたしも頑張ってつくったのにー」
「ん? わたしもつくった……?」
セラとの事前打ち合わせでは、全ての工程をセラがやることになっていたはず。本当なら千代が帰ってくるころに合わせて残火人を家に連れて行こうとしていたからだ。いまの話を聞くと、セラは千代が帰ってくるまでカレーを作れていなかったことになる。
「そうだよ。帰ったらセラお姉ちゃんがむらさき色の何かをおなべの中でかき混ぜてて、何つくってるのって聞いたらカレーですって言ったの。だから、最初からいっしょにつくり直したんだー」
レシピはきちんと渡したし、具材も全て出してきたはずだ。どんなに失敗したとしても紫色になんてなるはずはないと思うのだが。
じろりと見ると、セラは口笛を吹きながらそっぽを向いてしまった。
「なじみちゃんの分もあるから、早く入ってきてねー」
そう言って、千代はリビングへと戻っていく。
姉妹の再会どころの話ではなかった。本当はもっと感動的なシーンになるはずだったのに、これでは台無しだ。
「ごめんな、何か」
うつむいて肩を震わせている残火人にスケヒトは謝る。
楽しみにしていた再会で茶番劇を見せられて、相当怒っているはずだ。
「……っぷ! ぷはははは!」
「どうした!?」
怒りのあまりおかしくなってしまったのだろうか。残火人は腹を抱えて笑う。
「帰りが遅いと怒るところ、昔と変わってないなぁ」
久しぶりに聞いて笑ってしまったわと言いいながら、出てきた涙を拭いていた。
「それでは、これ以上千代ちゃんを待たせるわけにもいきませんし、早速中へ入りましょう!」
笑っている残火人を引っ張って、セラが急いで家の中へと入っていく。
カレーのことを誤魔化したいのがバレバレだ。
「料理下手にもほどってもんが……」
どうやったら紫色になるのかを聞こうと思いながら、二人の背中を追った。
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