後片付けは、お任せください!③
「では、そろそろ電話しましょうかね」
紫カレーを何とか食べ、皿洗いを終えて一息ついていると、テーブルの向かいで茶をすすっていたセラがそう言った。
「スケヒトさん、今夜だけ
「ダメってことはないが、なじみの親が何て言うか」
たとえ幼馴染と言えど、自分の娘が男の家に泊まることを簡単に許可するとは思えない。
「それに時間も時間だし、許可を取るのは難しいと思うぞ」
「いえ、親御さんの許可はいりません」
「ん?」
「既になじみさんはなじみさんの家にいるのですから」
「どういうことだ?」
なじみは向こうで千代とセバスチャンと遊んでいる。なじみは確かにここにいるのだ、なじみの家にいるなどありえない。
「こういうこともあろうかと、既にゲンガーちゃんを派遣してあります!」
そういうことか。ゲンガーちゃん――誰の分身にでもなれるドッペルゲンガーがいれば、なじみが同時に二か所に存在することが可能になる。
「でもどうやって」
確か、ドッペルくんとゲンガーちゃんの派遣依頼は電話で管理局にしていたはずだ。
「携帯がないのに、どうやって管理局に電話したんだ?」
「アレンジ用の食材を買いに行ったついでに、私の分身になっていたゲンガーちゃんに頼んできたのですよ! ちょうどお昼休みだったらしくて、スケヒトさんたちと校庭にサッカーしに来ていたところを捕まえたんです」
「はぁ……」
昼休みにサッカーとは、自分なら決してやらない。分身ならきちんと性格も再現してほしいものである。
何はともあれ、話から察するにセラは最初から残火人を泊める前提で動いていたようだ。
「俺を信じてくれたってことか……」
言い方を変えると、家に泊まるくらいの仲まで残火人と打ち解けて帰ってくるとセラは確信していたことになる。
「何かおっしゃいましたか、スケヒトさん?」
「いやっ、別に!」
セラが本当に自分を信じてくれていたと知り、スケヒトは照れる。
こういうとき、いつも素直になれない。
「そうですか、ならいいのですが」
セラは怪訝そうな顔をする。しかしすぐに、
「では、電話をかけちゃいましょうかね」
と言って携帯の画面を操作しだした。
「電話をする前に一つ言わせてくれ」
携帯をいじるセラにスケヒトは言う。
「本当にごめん。俺のせいでこんなことになってしまって」
残火人を助けたいという思いのために、セラが管理局に背いた結果となってしまった。スクワットたちのことも少々ばかりボコらせてしまったし、処分はどうなるのだろうか。
「そんなに心配なさらなくとも、私なら大丈夫ですよ」
画面から顔を上げ、スケヒトの瞳を真っ直ぐ見つめてセラは微笑む。
「そんなこと言ったって」
「偉い人は言いました、『正義はときに悪となる。またその逆も然り』だと」
「一体誰の言葉だよ」
「私がいま作りました!」
「お前かよ!」
予想外の言葉に、スケヒトは座りながらにしてコケてしまう。
せっかく心の名言集に入れようと思っていたのに。
「あはははっ!」
「笑うな!」
「スケヒトさんが深刻そうなお顔をしているもので、つい」
セラは目じりの涙を拭いながら言う。
「まあ、何を言いたいのかと言いますと、私は今回の行動を後悔などしていないということです。見てくださいよ、いまの
セラに言われて残火人を見る。
残火人は楽しそうに笑いながら千代と遊んでいた。
「スケヒトさんがいなければ、あのような
自分に胸を張る権利があるかどうかは分からない。けれど、いま何を言うべきかは分かった。いつまでもセラを引き留めておくわけにはいかない。
「……セラ」
どうこう言ったところで、セラの置かれている状況は変わらないのだ。だったらいまできることをするべきだろう。
「本当に――」
自分にできることなど、言えることなどただ一つ。
スケヒトは一度深呼吸をして、それから言った。
「本当にありがとう」
「はいっ!」
セラの笑顔を見て、少しだけ心が軽くなったような気がした。
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