破部

承の章

もしかして、フラグですかね?①

 スケヒトはまだ日も登りきらぬ早朝に目覚めた。

 今日は日曜日。妹の朝ごはんも八時ごろでいいため、いつもならあと二時間は寝ているのだが。


「全身が痛い……」


 ソファーで横になったせいか、体がきしむ。起き上がって肩をもみつつスマホを見ると、時刻は五時を過ぎたばかりだった。まだ頭がふわふわする。あの少女はしっかりと眠れただろうか。部屋を荒らしていなければいいのだが。

 

「ふあぁぁぁぁ」


 と大きなあくびを一つ。伸びをしてから立ち上がり、目をこすりながら洗面所へと向かう。洗面台に到着し、薄暗いなか電気をつけると、鏡にはくまのできた顔が映っていた。男の勲章にしては少しかっこ悪い。げんなりとしている自分を確認し、お湯を出して顔を洗った。


「あっつ!」

 

 いつもより熱い。熱すぎて一瞬で目が覚めた。急いで台所へ行き、温度設定を確認すると、


「五十度って……」


 かなり熱めの風呂くらいの温度になっていた。しかも風呂場優先となっており、こちらからは変えられない。温度を変えるには風呂場の中にあるモニターを操作する必要がある。


「でも、誰がこんなこと」


 普段は四十度設定。風呂に入るときでもせいぜい四十五度だ。自分が変更し直すのを忘れているという線はない。あとは誰かが風呂に入っているという可能性だが、これもありえない。自分が洗面台の明かりをつけるまで家の中は薄暗かった。誰かが入っているのなら、風呂場に電気くらいつけているはずだ。それに、風呂場は洗面所の隣にある。気づかないはずがない。


「そうなると、千代ちよのいたずらか……」


 昨日、千代はセバスチャンと家の中を探検していた。ひみつのボタンだー、とか言っていじったのだろう。


「しょうがないな、まったく」


 ぼりぼりと頭をかきながら洗面所へ戻る。そして、風呂場へ入るために扉を押し開けた――いや、開けようとした。


「うおっと」


 と少女の声。湯気の中から出てきた人物、それはセラだった。


「まさか、のぞくおつもりでしたか?」


 扉を全開にし、黒髪から雫を落としながらそう言う姿には恥じらいがない。顔が紅潮しているのは風呂に入っていたせいだろう。一瞬ではあるが、セラの全裸を見てしまった。


「その様子だと、不可抗力だったようですね」


 両手で顔を隠したスケヒトを見て、セラが笑う。彼女の羞恥心はどこへ行ってしまったのだろうか。


「わっ、悪い!」


 急いでその場から退散。

 まさか電気をつけずに入っていたなんて。疑ってごめん、妹よ!


「なっ、なんで電気もつけず風呂に入ってるんだよ!」


「朝日を浴びながらお風呂に入りたくってですね。トレーニングで汗をかいたものですから、汗だくのままだと汚いでしょう?」


「と、トレーニング?」


「はいっ! 素振りとランニング、それと筋トレですかね。残火人のこりびとと戦うためです、毎日欠かしたことはありません! それよりスケヒトさん、タオルどこですか?」


「……右上の棚の中」


 残火人と戦うため。そう言われては文句も言えない。


「でも、なんでこんな早朝に?」


 昼間は護衛のためにトレーニングができないのは分かる。しかし、メニューを聞く限りこんな早朝からやる必要はないと思うのだが。


「そのですね、朝食をですね……」


 全裸を見られても恥ずかしがらなかったセラが、何故か恥ずかしそうにしている。もしかして下着の替えでも忘れたのだろうか。


「朝食を作って、驚かせようと思ったのですよ」


 照れくさそうに人差し指で頬をかきながら、白いセーラー服を着たセラが姿を現した。ほんのりとただよう甘いシャンプーの香りとその仕草に、胸がきゅうっと締め付けられる。


「そう、なんだ」


 かあっと顔が熱くなるのを感じた。セラの新妻のような初々しさを見ていると、どうしたことかぎゅーっと抱きしめたくなる。

 抱きしめてしまう前に、スケヒトはセラから目をそらした。


「それにしても、きゃーえっちー! とか言った方がよろしかったですか? 風呂桶とかシャンプーとか投げて欲しかったですか? ちなみに、私はやって欲しいタイプです!」


 その一言で、目が覚めた。

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