告白
貴音は学校が終わると、すぐに家に帰った。
「有栖、大丈夫か?」
家に着き、ノックもしないで有栖の部屋のドアを開ける。
「え? にい、さん……?」
「え?」
お互いに目を丸くした。
有栖は今、パジャマを脱いでいて、上半身だけ裸だ。
そして濡らしたタオルで身体を拭いている最中。
そんな中、貴音が勝手に入ってきて、お互いに固まってしまっている。
「えっと、体調はいいのか?」
数秒の沈黙の中、貴音が声を発した。
「え、ええ。熱も下がってきたみたいです」
「そうか。良かった」
熱が下がってきたと聞いて、一安心する貴音。
「それで……いつまでいるんですか?」
有栖は恥ずかしくなってきたのか、顔を真っ赤にする。
貴音に対して背中を向けた状態なので膨らんだ部分は貴音に見えていないが、それでもやっぱり恥ずかしい。
背中も髪でほとんど隠れていて貴音には見えていないが。
「何を恥ずかしがっている。良く見られてたんだから今さらでしょ」
「それは子供の時の話じゃないですか」
二人は小学生の時は一緒にお風呂に入っていたから身体を見られていたが、今は一緒に入っていない。
高校生にもなって兄妹で一緒に入ることなんて、ほとんどないだろう。
「背中拭くの大変でしょ? 俺が拭こうか?」
「何を言っているんですか? 兄さんはアホなんですか?」
熱が下がったことにより、有栖の毒舌が復活した。
そんな有栖にもう大丈夫だと安心した貴音は、笑いながら部屋の中に入っていく。
「何で入ってくるんですか?」
「だから背中拭こうかと」
手で背中を拭くようなポーズをとる貴音。
そんな貴音を見て、有栖はつい後退りをしてしまう。
シスコン兄のことだから純粋に背中を拭いてくれるだけだとは思うが、有栖にとってはやっぱり恥ずかしい。
それに背中は自分で確認しづらいとこ、最愛の兄にはあまり見せたくないのだろう。
「タオル貸して」
「本当に背中を拭くんですか?」
「もちろん」
これはどうあっても背中を拭く気だ……と思った有栖は、ため息をつきながら貴音にタオルを渡す。
「今日だけ特別ですからね。風邪をひいて迷惑かけてしまいましたし」
少し頬を赤らめながら言う有栖。
貴音はタオルを手桶に張ってあるお湯に浸してからタオルを絞る。
背中を拭くのには髪が邪魔なので、髪を前の方にやる。
貴音に背中を見られたことにより、有栖の顔がさらに赤くなった。
「は、早く拭いてください」
「はいよ」
「んん……」
貴音が有栖の背中を拭くと、有栖は口から甘い声を漏らした。
「背中、汚くないですか?」
もし背中にシミとかついていたらどうしよう? そんなことが有栖の頭によぎる。
「大丈夫。綺麗すぎて写メ撮りたい」
「それはダメです」
背中を見られているだけでも恥ずかしいのに、背中を撮られるなんて恥ずかしすぎる……有栖はそう思わずにはいられなかった。
でも貴音に綺麗と言われたので、有栖は嬉しすぎてついニヤけてしまう。
「そろそろ大丈夫ですよ」
「わかった」
有栖にそう言われたので、貴音は背中を拭くのを止める。
「他にはどこか拭く?」
「いえ、背中以外は拭き終わってるので大丈夫です」
「じゃあ、片付けとくね」
「ありがとうございます。十分くらいしたらまた来てくれますか?」
貴音は頷き、有栖の部屋を出る。
タオルなどを片付けや着替えをしているうちに、十分が経過したので貴音は再び有栖の部屋に訪れた。
有栖はピンクのパジャマに着替えていて、ベッドで横になっている。
「熱が下がってきているみたいだし、何か食べるか?」
有栖が今日食べたのはお粥だけ。
熱も下がってきているようだし、お腹が空いていてもおかしくはない。
「何か作ってくれるのですか?」
「いいけど、味は保証しないよ?」
「お粥を食べた限り問題なかったので大丈夫ですよ」
「じゃあ、作ってくるね」
貴音はそう言い部屋を出ようとすると有栖に腕を掴まれた。
「ご飯は後でも大丈夫なので、もう少し一緒にいてください」
熱が下がってきたとはいえ、やはりまだ寂しさがあるようだ。
有栖は腕に力を入れて、貴音を自分の元に引き寄せる。
引き寄せたところで有栖は掛け布団をどかして貴音に抱きつく。
「有栖?」
有栖に抱きつかれたことにより、貴音は驚いてしまう。
今まで有栖から抱きついたことなんてほとんどなかったからだ。
「今朝、私が兄さんの部屋で寝ていたことは、バレてしまったので正直に言います」
本当なら今朝も貴音が起きる前に部屋から出ていくつもりだったが、風邪をひいてしまったために出ることができなかった。
それで貴音にバレてしまったので、自分が思っている気持ちを正直に言おうと思ったのだ。
「私は兄さんがいないとダメみたいです。だから今日からまた一緒に寝てください」
突然の告白にさらに驚いてしまう。
有栖にそんなことを言われるなんて、これっぽっちも思ってなかったからだ。
だから有栖が顔を真っ赤にして、身体を震えていることに気付いていない。
この年で兄と一緒に寝たいなんて言うのだから、子供だと思われるかもしれない。
それに何より勝手にベッドに潜り込んで寝てしまったのだから嫌われる可能性もある……そう思った有栖は勝手に身体が震えてしまった。
「私はどうしようもないブラコンで、兄さんが隣にいないと嫌なんです」
前に見た夢のように貴音が彼女を作ったら嫌だ。
そんな気持ちにかられた有栖は告白せずにはいられなかった。
「それってどういう……」
貴音の思考が追い付かない。
何で? どうして? という言葉が貴音の脳裏に過っていく。
「それって俺のことが……」
「好き、ですよ」
これ以上ないくらい有栖は顔を赤くしている。
そして有栖は貴音のことを離したくないからか、さらに力を入れて抱きつく。
「でも、勘違いしないでください。あくまで兄妹としてですので」
そう付け加えると有栖は貴音の顔を見た。
「キスするの?」
「し、しませんよ。こっちは真面目なんですから茶化さないでください」
「悪いな。何て言うか思考が追い付かなくて真面目なことが言えない」
「では落ち着く時間を与えますので、落ち着いたら答えを聞かせてください」
貴音はわかったと言い、頭を落ち着かせることにした。
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