妹の友達
昼休みになったので、貴音はいつもの場所に向かっている。
本当は落ち着かせるために一人でご飯を食べようとしたのだが、有栖に昼休みは絶対に来てくださいねと言われてしまったために、行くことにした。
「先輩、少しよろしいですか?」
一人の少女に呼ばれたために貴音は少女の方を見る。
制服のリボンの色を見る限り、有栖と同じ一年生だろう。
その少女は長い金髪をしていて、有栖のように白い肌だ。
「えっと……誰?」
「自己紹介が遅れてしまい、失礼しました。私は本道エリーと申します。母がイギリス人のハーフです」
エリーはスカートの裾を手で掴んで丁寧に自己紹介をする。
これだけで育ちがいいことが想像できた。
ハーフだかあって髪を染めたような色ではなく、有栖のように神秘的と言える。
エリーは母親の血を大きく受け継いでいるようで、日本人離れした容姿だ。
有栖と違ってアルビノではないみたいで、制服は夏服を着ている。
「ご丁寧にどうも。俺は高橋貴音だよ」
「知ってますよ。有栖さんのお兄様ですよね」
エリーは有栖と知り合いのようだ。
「それで何か用かな?」
有栖と知り合いでも貴音とは本日初めて顔を合わせた。
だから貴音には何でエリーが声をかけてきたのかわからない。
「そうですね。お兄さんは有栖さんとお付き合いを始めたのですか? 今日はイチャイチャしながら登校していましたので、気になりまして聞きに来ました。貴重なお昼ご飯に申し訳ありませんが、答えていただけると嬉しいです」
本当に丁寧な言葉遣いだ。
有栖にではなく貴音に聞いてきたことを見ると、エリーは有栖のことを親友だと思っているからだろう。
「いや、付き合ってはいないよ」
貴音はエリーから視線をそらして答えた。
その答えを聞いてエリーは、そうですかと呟いてから考えだした。
そしてある答えが導きだされたのか、一人で納得したように頷いた。
「現実でアニメみたいなことなんてないし」
「……そんなことはありません」
「え?」
エリーは貴音の言葉を聞いてから身体を小刻みに震えさせた。
「現実でもアニメと同じ風になってもいいと思うのです」
今まではお嬢様なような雰囲気だったが、今のエリーはそんな雰囲気は微塵も感じられない。
「シスコン兄とブラコン妹の恋物語なんてギャルゲみたいでいいではありませんか」
「は?」
貴音が呆気にとられていると、エリーはまた喋りだした。
「日本は妹がヒロインのアニメやゲームが数多くあるのに、現実で結婚しないのはおかしいと思うのです。確かにアニメやゲームのヒロインは義妹です。でも、お兄様と有栖さんは義理ではないですか。だとしたら法律でも結婚は認められています。好きあっているのであれば、お付き合いするべきです」
「えっと、もしかしてアニメが好きなの?」
「はい。特に兄妹物のアニメやゲームが大好きです。アニメが好きすぎて日本に来てしまいました」
そんな理由で来たのか? と貴音は思った。
いくら日本に来たいからって良く両親が了承したものだ。
いや、娘の気持ちを尊重して日本への留学を許してくれたのだろう。
「同士か」
貴音はエリーの手を握る。
貴音にとって兄妹物のアニメが好きな人がいるのは嬉しいことだ。
だから思わずエリーの手を握ってしまった。
エリーも有栖と同様に近寄り難い雰囲気があり、異性からあんまり言い寄られたことがないので、いきなり手を握られてしまって少しだけ頬が赤くなる。
「有栖さんから聞いていた通りのお方なのですね」
エリーはくすくすと笑っている。
そして貴音はエリーとならいい妹ークができそうだと思ったことだろう。
兄妹物のアニメやゲームが好きな人はあんまりいなく、ネット小説なんかは異世界転生とかで溢れかえっている。
だから貴音にとって妹ークができる人と知り合えるのは純粋に嬉しい。
「えっと……エリリだっけ?」
本当に有栖以外のことになると物覚えが悪い。
樹里の時みたいに完全に忘れたわけではないが、名前を間違えている。
「違いますよ。人の名前くらいはすぐに覚えてください」
エリーは貴音に対してため息をはいた。
聞いていたこととはいえ、あまりにもポンコツぶりに呆れてしまったからだ。
名乗ってから数分で名前を間違う人なんてほとんどいないだろう。
「私は本堂エリーです。しっかりと覚えてくださいね」
エリーは改めて貴音に自己紹介をした。
でも、これで貴音はエリーのことをきちんと覚えただろう。
兄妹物のアニメが好きな人のことを貴音が忘れるわけがない。
「それでもういいかな? 有栖を待たせてるからそろそろ行かないと」
「そうですね。お時間をいただき、ありがとうございます」
貴音はじゃあねと言ってから有栖がいる所まで向かって行った。
「ふふ、何としても二人をくっつけたいですね」
後ろ姿の貴音を見てエリーはそう呟いた。
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