告白の返事と抱き枕
「兄さん……一体何をしているのですか?」
掃除を終えた有栖が貴音の後ろに立っていた。
驚いて貴音は可憐から離れようとするが、絶対に離れたくないのか、力を入れて離れようとしない。
「白河先輩、兄さんから離れてください」
「嫌。有栖ちゃんはもう私が貴音くんに告白したの知っているよね? 私は貴音くんから離れたくないの」
まだフラれてたわけではないから好きな人から離れたくない。
今まで異性に抱きついたことなんてない可憐にとってとても恥ずかしいことだが、ずっとこうしていたい。
「むうー、じゃあ、私もくっつきます」
有栖は対抗して貴音に抱きつく。
有栖にとって貴音が自分のことを好きということはわかっているが、他の異性と仲良くしてたらやっぱり嫉妬していまう。
「何でこうなるんだ?」
美少女二人に抱きしめられるなんて本当にラブコメアニメの主人公みたいだと思わずにいられなかった。
最近は主人公が異世界に行ってハーレムを築くラノベなんかが流行っているけど、貴音はそんな主人公になりたいわけではない。
そもそもつい最近まで誰かと付き合うなんて考えたことすらなかったのだから。
「何でって言われましても、私はずっとこうではありませんか。兄さん、ずっと離しません」
「私も」
今日は可憐に告白の返事をするために呼んだはずだが、これでは返事どころではない。
二人とも最大のライバルを前に負けたくないという気持ちでいっぱいだ。
「俺はどうすればいい?」
「そうですね。白河先輩から離れればいいと思います」
「それはこっちの台詞だよ。二人は兄妹でしょ?」
「問題ありません。義理だから結婚することは可能です」
有栖と可憐が言い合いを始めてしまう。
有栖の言葉は貴音と結婚したいと言っているようなものだが、若干テンパっているのか貴音は聞き逃してしまった。
「義理だと世間の目が厳しいかもよ? 私なら付き合っても兄妹として仲良くする分には何も言わないよ」
「兄さんがそんなことを気にすると思っているのですか? 前にも言いましたけど、私にとって兄さんは全てなんです。誰にも渡したくありません」
どっちも好きな気持ちを抑えきれずにひくことがない。
基本的に貴音は周りの目を気にすることなんてないから、このままいくと間違いなく有栖と付き合ってしまう。
でも、今は付き合っているわけでないので、可憐は諦めることができない。
どんなに醜く見えたとしても、最後までアタックすると決めたのだから。
「白河先輩には申し訳ないのですけど、今日は告白の返事をするために呼んだのですよ?」
「え? そうなの?」
全く考えてなかったわけではないが、まだ可憐に返事を聞く覚悟ができているわけではない。
今、フラれてしまったら、確実に涙が抑えきれずに泣いてしまう。
「そういうことなので、兄さんの部屋に行って返事を聞いてきてください」
有栖は貴音から離れる。
本当は離れたくないが、いくらなんでも自分が告白の返事を聞いてしまうわけにはいかない。
「兄さん、部屋に行ってください」
「え? うん」
貴音は可憐を連れて部屋に向かった。
☆ ☆ ☆
「あ、あ……本当に写真がない」
貴音の部屋に貼ってあった写真が一枚残らず処分されていた。
有栖のだけでなくて、銀髪のアニメキャラのも全てだ。
スマホにデータは残っているから問題はないが、やっぱり少しだけ寂しい。
恐らく数日後には部屋が写真で埋め尽くされてあると思うが……
「写真ってどんなのが貼ってあったの?」
可憐は部屋を見渡しなが尋ねた。
貴音の部屋を見れた嬉しさと、これからフラれるかもしれないという悲しい気持ちで複雑な表情だ。
「有栖の写真だよ」
「え──?」
「だから有栖の写真が貼ってあったの」
「それは……片付けたくなるね……」
部屋には沢山写真が貼ってあった痕がついているから、それからどれくらいの数だったか想像できる。
少しだけだが、可憐は有栖に同情した。
いくら愛されているとはいっても、写真を沢山貼られたら恥ずかしい。
どうしても片付けたいという有栖の気持ちがわかった気がする。
「じゃあ、返事をするからベッドに座っていいよ」
基本的に貴音の部屋には椅子や座布団がないからベッドに座ってもらうことにした。
可憐は不安で押し潰されそうになってしまう。
「悪いけど俺は可憐と付き合うことができない」
「……そう、だよね……」
すでに泣きそうであった可憐の瞳から一気に涙が流れてくる。
可憐にとって初めての失恋で、思っていた以上にツラいものだ。
泣きたいわけではないのに、涙が全く止まってくれない。
それどころかさらに涙が溢れてくる気さえする。
「俺を好きになってくれたのは本当に嬉しいけど、ごめんなさい」
貴音は誠心誠意謝る。
可憐の気持ちは本気であることがわかっているし、ここまでしないと失礼だ。
「ううん……凄く悲しいけど……わかって、いたこと……だから……」
貴音は泣く可憐をただ見ていることしかできなかった。
下手に声をかけてもさらに悲しませるかもしれない。
そう思うと何もできなかった。
「あのね……これきっきりの、お願いがあるんだけど、いいかな?」
可憐は悲しい気持ちを何とか我慢して貴音に話しかける。
「何かな?」
「今日だけでいいから……私のこと抱き枕の代わりにして……寝てほしいの……」
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