いつもと違う朝

 今日の貴音はいつもより早く起きてしまった。

 理由は簡単で、早く寝すぎたからだ

 それでも夕方から朝の六時まで寝ていたのだから、寝過ぎだろう。


「兄さん、寝過ぎです」


 有栖はもう起きていたようで、貴音のことをジド目で見ている。


「悪いな」

「本当ですよ。まさかあれから一回も起きないとは思ってもいませんでした」


 有栖は一度起きたのだが、貴音は起きずにずっと抱きついていたので、何もできずに結局再度寝た。


「汗かいたからシャワー浴びたいです」


 既に熱帯夜になりそうなくらい夜も気温が高く、二人は抱き合って寝たのだから汗くらいはかく。


「有栖はいい匂いだからシャワー浴びなくても……」

「怒りますよ?」

「もう怒っている」


 有栖は頬を膨らませながら貴音を見ている。

 そんな顔も可愛いと貴音が思ったのは有栖には秘密だ。


「風邪はもう大丈夫なの?」

「ええ。だからシャワーを浴びても問題はありません」


 有栖はそう言い、部屋を出てシャワーを浴びに行った。

 昨日はお風呂に入っていないし、今日は何としてもシャワーだけは浴びたいのだろう。


「俺も後でシャワー浴びるか」


 貴音も汗をかいているのでシャワーを浴びたい。

 だから有栖がシャワーを浴び終わったら貴音も浴びに行くだろう。


 有栖がシャワーを浴び終わったから貴音も浴びに行こうとすると、有栖に止められた。


「今の兄さんはいい匂いですので、このままでもいいんですよ?」


 有栖は頬を赤らめながら上目遣いで貴音に言ってくる。


「変態?」

「ち、違います。変態は兄さんの方です」


 お互いの汗の匂いが好きなんだから、どちらも変態なのだろう。


「とにかくシャワー浴びてくるから」

「うう~……わかりましたよ」


 有栖は少し残念そうな顔をしたが、貴音はシャワーを浴びに行く。


 シャワーを浴び終わり貴音がリビングに戻ると、有栖は朝食の準備をしていた。

 いつも通り可愛らしいエプロンをつけて。


「お腹空いたー」


 立ち上ってくる匂いに貴音は我慢できなくなりお腹を鳴らす。


「ふふ、もう少し待っていてくださいね」


 有栖は軽く笑ってから料理を再開する。


「今日は多いな」

「昨日の夜は食べていないですからね」


 いつもはトーストとハムエッグあたりが多いのだが、今日の朝食は量が多い。

 トーストとハムエッグに加えて、ソーセージやらがおかずにある。


「おかずが多いのはいいんだが、何で俺の隣なんだ?」


 いつも二人は机に向かい合って座っているが、今日の有栖は貴音の横に座っている。


「こっちの方が兄さんとの距離が近いじゃないですか」


 有栖は貴音の肩に頭を乗せてきた。

 どうやら昨日、ブラコン宣言してからか積極的になってきているようだ。


「兄さんとこうやって過ごせるの凄い幸せです」

「そうだな」


 貴音は頷いてから有栖の頭を撫でる。

 有栖は嬉しさのあまりニヤけてしまい、幸せそうな顔をする。

 そんな顔を見て、貴音はいっぱい有栖の頭を撫でてしまう。


「とりあえずご飯食べよう。せっかくのご飯が冷めるし」

「そうですね」


 もう少しこのままでいたいと二人は思ったが、ご飯を冷ましたくないので食べることにした。


「兄さんがいつもこのくらいの時間に起きてくれたらいいんですけどね」

「有栖はいつもこんなに早く起きるの?」

「そうですね」


 有栖は朝食とお弁当を作るから大体朝の六時くらいには起きている。

 それに比べて貴音は結構ギリギリまで寝ているのだ。


「いっぱい寝ないと育たない……普通に育っているか」

「どこ見ながら言ってるんですか?」


 貴音の視線は有栖の胸に向かっていた。

 だから有栖は手で自分の胸を隠す。

 有栖の胸は大きいくも小さくもない。要は平均的な大きさだ。


「まあ、兄さんがどうしても見たいのであれば、見せてあげなくもないですが」


 視線を貴音から反らしてそんなことを言う有栖。


「いや、妹の胸を見たいとかそれこそ変態じゃないか」


 貴音が向ける愛情はあくまで妹としてだ。

 抱きしめたりはするが、胸を見たいとかは思っていない。


「兄さんは変態だから妹で欲情するんじゃないんですか?」

「そんなことはない」


 キッパリと言い切る貴音。


「少しくらいはしてもいいんじゃないですかね……」


 有栖は貴音に聞こえないくらい小さな声で呟いた。

 貴音に抱きつかれて寝るようになってから、明らかに有栖の心に変化が訪れている。

 積極的になったのとは別に、有栖は少しだけだが貴音のことを異性として意識している。

 だからあんな夢を見てしまったし、これからもずっと一緒にいたい。

 きっと貴音が本気で裸を見たいと言ったら、有栖は貴音に見せるだろう。


「義理でも兄妹で欲情するとかアニメの世界だけだぞ」

「そうですね……」


 貴音の言葉に有栖は寂しそうな顔をする。

 兄妹の関係じゃなかったらこんなに仲良くできなかったけど、もし兄妹じゃなかったら……恋人同士になれたんじゃないか。

 そんな考えが有栖の脳裏を過る。


「兄さん、今日はずる休みしませんか?」

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