愛の告白

 貴音と有栖は可憐と別れて家に帰った。


「ごめんなさい。今日は簡単なものになってしまいました」

「遊んでたんだし、しょうがないよ」


 今日の晩ご飯は帰る時にスーパーで買った惣菜などだ。

 貴音にきちんとバランスのとれた食事をしてほしいと思っている有栖だが、どうしても簡単な食事になってしまうことはある。

 基本的に有栖が作る料理は今後の生活習慣病にならないようにと考えてなのか低カロリーなものが多い。

 でも、ここ最近はコンビニのご飯が多かったりしたから少し申し訳ない気持ちがある。

 貴音はあんまり気にしていないようだけど。


「今日も隣なんだな」

「はい。私は兄さんから離れられないですから」


 有栖に抱きついて寝たことによってここまでデレるとは貴音は思っていなかった。

 渋々と言いながらもきちんと世話をやいてくれるのだから好意があることはわかっていたが、凄い変貌だ。

 たまに毒舌ははくが、基本的にはデレデレな状態。


「これから俺はずっと有栖に抱きついて寝るの?」

「もちろんです」


 そんなことを満面な笑みで言う有栖。

 笑顔の有栖は貴音にとって破壊力抜群で、つい頭を撫でてしまう。


「じゃあ、食べようか」

「はい」



 ご飯を食べ終わり、二人はリビングのソファーでのんびりとしている。

 親がいる時はそんなにリビングにいることはなかったが、今は二人きり。


「さて、これからどうしようか?」

「どうしようか? と言われましても、こうする他ありません」


 有栖は案の定、貴音に抱きつく。

 二人きりの状態でシスコン、ブラコンの二人が甘い空間を作らないわけがない。

 抱きついてきた有栖の肩に貴音は自分の手を置いた。

 こんな二人を見て兄妹だと思う人はいない。

 どう考えてもバカップルにしか見えないと他の人は思うだろう。


「テレビでも見る?」

「そうですね。妹や銀髪のキャラが出てこないのであれば見てもいいですよ」


 もし、そんなキャラが出ているアニメを見たら、貴音は絶対そっちに集中してしまう。

 やっぱり自分のことを見てほしいという気持ちが強いようだ。


「なら見るものがない」

「本当にどれだけ好きなんですか? まさか恋愛対象が二次元なんてことはないですよね?」


 前から疑問に思っていたことだ。

 貴音は有栖のことが好きだが、それはあくまで兄妹として。

 青春真っ盛りな男子高校生なのに彼女を作る素振りすら見せない。

 二次元の女の子を好きになってないか心配になったようだ。


「アニメは好きだけど、恋愛対象には入らないよ」

「本当ですか?」


 物凄く疑っているような目をする有栖。

 貴音は銀髪の女キャラがいたら基本的にどんな物にも手を出す。

 だから恋愛シミュレーションゲームなんかもする。

 もちろんエロいシーンがあるゲームはやったりしないが。


「本当だよ。どんな銀髪キャラも有栖の前では霞んでしまう」

「そうなんですね」


 自分が一番だって思った有栖は、自然と頬が緩んでしまう。

 それは妹が恋愛対象なのでは? と一瞬だけ思った有栖だが、貴音のことだからそれはない。


「もし、私たちが兄妹じゃなかったら、私のことを彼女にしたいって思ったりしますか?」

「え?」


 有栖の言葉に貴音は驚く。


「私はきっと兄さんのことを彼氏にしたいって思います。もし、私が妹じゃなくても、きっと兄さんは私を虐めから救ってくれた……自分のことを救ってくれた人に惚れないわけがありません」


 貴音が有栖の一番どこを好きかというと美しい髪だろう。

 もし、他の人と同じような黒髪だったら、貴音は有栖にここまで過剰に接するとこはなかったかもしれない。

 貴音に救われるまで髪なんて恨めしいとしか思っていなかった有栖だが、貴音に髪を褒められてからここまで伸ばしてしまった。

 もちろん虐めから救ったのは兄妹っていうのはあるかもしれないが、兄妹でなくても有栖の髪の色は変わらない。

 だからきっと貴音は有栖の虐めを止めただろう。

 まあ、兄妹になるまで話したことはなかったけど。


「俺と付き合いたいの?」

「え?」


 今度は有栖が驚いてしまう。

 驚いた後は、視線が泳ぎだしてオドオドとする。

 今思えば、自分が口にした言葉は愛の告白のようだ。


「あ、あくまで兄妹じゃなかったらの話です。仮定ですから」


 咄嗟に言い訳を言う。

 可憐というライバルが現れてからの有栖は、自重がきかなくなっている。


「兄さんはどうなんですか? 私と付き合いたいって思いますか?」

「えっと……あんまり誰かと付き合いたいとか考えたことない」


 貴音は正直な気持ちを有栖に話した。

 恋愛について考えたことのない貴音にとっては恋愛とかわからない。

 もし、有栖が妹じゃなかったら有栖のことを恋愛対象として見ていたのだろうか?

 少しだけそんなことを考える貴音だが、やっぱりよくわからない。


「まあ、兄さんですからしょうがないですね」


 本当は彼女にしたいって言ってほしかったが、貴音にそんなことを期待するだけ無駄だ。


「今はこうして兄さんを独占できるし、それで満足しときます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る