依存

 貴音と有栖は一緒にお風呂に入ってから、部屋でのんびりとする。

 お互いに寝巻きだが、まだ寝るには早い時間なので寝ることはない。

 有栖に抱きついて寝るようになってからの貴音は、自分の部屋じゃなくて、ほとんど有栖の部屋で過ごしている。

 貴音の部屋だと有栖の写真が貼ってあるので、恥ずかしくて有栖はあまり行きたくないらしい。


「有栖は甘えん坊だったんだね」

「そうですね。兄さんに甘えることができるのは妹の特権です」


 有栖は本当に貴音から離れない。

 特に嫌とかはないが、貴音はここまで有栖が甘えてくるとは思っていなかった。

 こんな有栖を見て貴音は思ったことがある。

 それは自分に依存しているんじゃないか?

 家にいる時は一秒たりとも離れるとこはない。

 もちろんトイレや調理の時は離れたりするが、それ以外は抱きついている。

 もちろん貴音にとって嫌ではないが、今度は有栖の方が過剰に接してくる。

 有栖が貴音に依存したいと思っているのであれば依存させてあげるし、有栖が貴音に依存してほしいって言ったのであれば依存するだろう。


「アニメ見たいよー」


 有栖がこうするようになってから貴音はアニメを見ていない。

 全然長期間ではないのだが、毎日アニメを見ている貴音にとっては変な感じがする。


「ダメです。兄さんがアニメの女の子をまじまじと見たら私は嫉妬します」


 二次元にでも有栖は嫉妬していまうようだ。


「だからどうしてもアニメが見たいのであれば、私がいないとこで見てください」


 それって無理じゃないか? て貴音は思った。

 一緒に暮らしている以上、家では離れることはないだろう。

 自分の部屋に閉じ籠って見ることはできるが、有栖がこうなってしまったので、貴音が家で有栖から離れることはしない。

 だから家でアニメを見ることができない。

 有栖を優先するのは当たり前だが、少しアニメを見たいという気持ちがある。


「じゃあ、部屋で見てきていい?」


 本当は離れる気はないが、少しばかり聞いてみる。


「ダメに決まっているじゃないですか。兄さんと一緒にいれる時間が減るのは嫌です」


 やっぱり有栖は貴音に依存している。

 一日の半分以上は一緒にいるのだが、これ以上、一緒にいれる時間が減るのは嫌なようだ。


「じゃあ、一緒にゲームする?」

「いや、兄さん弱いからしないです」


 前にした時はボスの部屋にすらたどり着けなかった。

 だから有栖には貴音とゲームをするなんて選択肢はない。


「やることがない?」


 有栖は貴音のことを相当強く束縛をしている。

 普通だったら恋人にだってアニメを見せないなんてことはしないだろう。


「私と一緒にすることであれば、何だってしてもいいですよ」

「じゃあ、ゲームを……」

「却下です」


 何でもではない。


「兄さんは私とこうしているのは幸せじゃないですか?」


 貴音のことを覗きこむように聞いてくる有栖。


「幸せだよ。有栖がいるから彼女ほしいなんて思わないんだろうね」

「じゃあ、問題ないですよね」


 有栖は貴音の胸に顔を埋めた。

 そして自分の匂いをつけるかのように、全身を貴音に擦りつける。


「兄さん、頭撫でてください」

「わかった」


 貴音は有栖の頭を撫でる。

 頭を撫でられたことによって気持ちがいいのか、有栖の口から少し甘い声が漏れた。

 有栖は最愛の兄に抱きついて頭を撫でてもらっていることに幸せを感じている様子だ。

 有栖の頭の中はずっとこうしていたい気持ちでいっぱいなのだろう。


「何て言うか俺が抱き枕みたいだ」

「そうですね。でも、寝る時は兄さんが抱きつかないとダメですよ」


 未だに身体を擦りつけている有栖は、そんなことを言う。

 貴音が抱きついてしまったら寝てしまう恐れがあるために自分から抱きついているだけであって、本来は貴音に抱きついてもらいたい。

 抱きつかれた方が離れていかないという安心感があるからだ。

 可憐と付き合って自分から離れていく夢は、有栖にとって少しトラウマみたいになっている。

 きっと貴音と離れて寝たらあの夢を見てしまうだろう。


「俺に抱きつかれて寝るのそんなにいいの?」

「はい。幸せですよ」

「素直な有栖が可愛すぎる」


 貴音が素直に思ったことが口に出た。

 今までは照れ隠しで冷たい態度をとってしまった有栖だが、自分だけにデレるのだから有栖のことを可愛いと思っても不思議ではない。


「そう思ってくれるならずっと一緒にいましょうね」

「もちろん」


 貴音も有栖のことを抱きしめ、ずっと一緒にいる約束をした。

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