意識
「何で有栖が裸なんだ?」
貴音はいつも通り有栖に抱きついて寝た。
その時の有栖はきちんと服を着ていたはずだ。
でも今の有栖は裸で貴音に抱きつかれている。
「にい、さん?」
有栖が目を覚ます。
「兄さんが先に起きてるなんて珍しいですね」
今は朝の六時前。貴音が起きるのには早い時間だ。
「何で裸で寝てるんだ?」
貴音は疑問に思っていたことを質問した。
「何でって、昨日は激しかったからそのまま寝てしまったんですよ。兄さんだって裸ですよ」
「え?」
有栖だけでなく貴音も服を着ていない。
でも、貴音には激しいとか、何故自分が裸なのかわかっていなくて、頭の中にはてなマークが浮かぶ。
「兄さんが私のことを異性として見てくれて凄い嬉しかったですよ」
「え? え?」
今まで貴音が有栖のことを異性として見たことはない。
だから貴音には何で有栖がそんなことを言ったのか本気でわかっていない様子だ。
「はあ~……まさかとは思いますが、昨日のこと覚えてないとか言わないですよね?」
貴音の様子を見て有栖がため息をつく。
有栖は既に貴音がどうゆう状態にあるのかを察していて、貴音のことを睨む。
嘘をついても無駄だと思った貴音は、正直に頷く。
そうすると有栖はやっぱりと呟いてから再度、ため息をはく。
「私と兄さんは兄妹という枠を越えて恋人同士になったんです。昨日は私の初めてを兄さんに捧げました」
有栖は少し恥ずかしいのか、頬を赤らめながらそんなことを言った。
その言葉に貴音は驚いて思わずはあ? と言って、目を見開いてしまう。
「いやいや、俺たちは兄妹だよ。そんなことしないでしょ?」
義理だろうと恋人同士になるのはアニメや漫画だけ……だから貴音にはいくらずっと一緒にいると言っても有栖と恋人同士になることはない。
「でも、兄さんのここは私に反応している見たいですけどね」
有栖の視線が貴音の下半身にいっている。
「まだ時間がありますので、私が鎮めてあげます」
「ちょっ、待っ……」
「ダメです。兄さんに満足してもらうのは彼女である私の役目ですから」
有栖は貴音に抱きついて、柔らかい胸を貴音の胸板に押し付けた。
お風呂を一緒に入ったために裸は見たことがあるが、裸で抱きつかれるのは初めてだ。
だからなのか貴音の顔が赤くなる。
「兄さん、可愛いですよ」
有栖は自分の唇を貴音の唇にゆっくりと近づけていき……
「はっ……」
貴音は勢い良くベッドから飛び起きた。
何がなんだかわからなかったが、隣に服を着ている有栖を見て、今までのが夢だということがわかった。
「まさかあんな夢を見るとは……」
いくら抱きしめて寝るようになったとはいえ、妹が恋人になる夢なんて見るとは全く思っていなかったようだ。
部屋にある時計で時刻を確認するとまだ午前五時前。
抱き枕が壊れて以来、こんな時間に起きることはなかった貴音だが、よほどさっきの夢が衝撃的だったようだ。
「俺が有栖のことを異性として意識している?」
今までこんな夢を見たことはなかったが、恐らくは昨日の夜に有栖がもし、兄妹じゃなかったら彼女にしたいと思いますか? と貴音に聞いたことが原因なのかもしれない。
だからあんな夢を見てしまったのだろう。
「にい、さん?」
貴音が起きたからか有栖も目を覚ましたようだ。
「兄さんが私より早く起きるなんて、今日は雪でも降るんでしょうか?」
六月の日本で雪が降ることなんてないが、それほど珍しいことで有栖は驚いている。
「兄さん、どうしました?」
貴音は夢のことを思い出しているためか、少し顔が赤い。
いつもと違う貴音に有栖は心配しているようだ。
「いや、何でもないよ」
どう考えても何でもなくはないが、適当に誤魔化す。
「そうですか」
明らかに貴音の挙動不審なのは有栖もわかっているが、深く聞かないことにした。
「まだ、時間ありますし、こうしてましょう」
有栖はいつものように貴音に抱きつこうとしたが、貴音は一瞬、身体を震えさせてから後ろに飛び退いてしまった。
その反動でベッドから落ちて、背中を強打する。
「ぐえっ」
背中を打ったことにより貴音の口から変な声が出る。
「兄さん、大丈夫ですか?」
有栖は急いで貴音の元に行き、貴音を抱き抱えた。
「だい、だいじょ……」
大丈夫と言いたいだろうが、上手く言葉が出ない貴音。
背中を強打した影響だろう。
ベッドはそんなに高くはないが、勢いがあったのが原因だ。
「背中見ますよ」
有栖は貴音の服をまくって背中を見る。
強打したために少し赤くなってはいるが、特に問題はなさそうだ。
「本当に今日はどうしたんですか?」
今までこんな態度をとったことのない貴音に、有栖は疑問を感じている。
もしかしたら兄妹じゃなかったら付き合いたいと言ったから、そのせいで嫌われたんじゃないか? と思ったからだ。
「何でもないよ」
ようやく喋れるようになったようで、貴音はそう言った。
「本当ですか? 私のこと嫌いになったりしてませんか?」
有栖は少し涙目になって問いかけた。
もし貴音に嫌われてしまったら、有栖はまた絶望に陥ってしまうだろう。
そんなことは嫌だし、何より貴音に嫌われることは何があっても避けたい。
「有栖のことを嫌いになるとは天地がひっくり返ってもない」
「絶対ですか?」
「うん」
「良かったです」
貴音が自分のことを何故、避けたのかわからないが、嫌われていることがないとわかった有栖は一安心した。
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