恋
「兄さん、どうして遠いのですか?」
「遠いかな?」
「そうです」
貴音と有栖は学校に向かっている途中だが、いつもより距離が離れている。
だから有栖は少し不機嫌だ。
それと同時にある疑念を抱いている。
もしかして自分のことを異性として見てくれているんじゃないか……と。
重度のシスコンだし自分のことを嫌いでないことはわかる。
それでも距離をおくということは、異性として意識している……そう思えずにはいられなかった。
もしかしたら勘違いかもしれないので、有栖は貴音に確かめることはしない。
でも、異性として意識してくれてる可能性があるのは有栖にとって嬉しいことだが、やっぱり離れられるのは嫌だ。
どうにかしていつものように接してもらいたい。
「兄さんが近づいてこないのであれば、こうします」
有栖は貴音の手を握る。
貴音は恥ずかしくなり離そうとしたが、有栖が力を入れて握っているために離れることができない。
「あ、有栖?」
「いつも兄さんからくっついてくるのですから、これくらいいいじゃないですか」
まるで恋人とデートするかのように、有栖は貴音の腕に抱きついてくる。
有栖はもう完全に貴音に依存しており、周りに見られる恥ずかしさより、貴音とくっつけない方が嫌なようだ。
「恥ずかしい」
「シスコン全開な兄さんがそんなこと言うんですね」
有栖はジド目で貴音に言った。
貴音が有栖とくっついて恥ずかしいなんて感じることはなかったが、今は顔が真っ赤だ。
有栖はそんな貴音を見て可愛いと思いながら、自分のことを異性として見始めていることを確信した。
「う、うん。俺はシスコン……」
貴音はテンパっているのか、いつものようにシスコンを否定しない。
それを見てえ? え? と有栖も少しテンパってしまう。
「兄さんは私のこと好きですか?」
「好き」
「じゃあ、私を彼女にしたいと思いますか?」
「思わない」
そこはしたいって思ってもいいんじゃないですかね……と有栖は思いながら貴音のことを見た。
いつもなら有栖に見られたらニヤけてしまう貴音だが、今はまともに有栖のことを見ることができない。
貴音は明らかに有栖のことを異性として意識しているが、頭の中で有栖は妹だって思っている。
だからどれだけ意識をしても付き合うわけにはいかない。
「有栖、離れないの? 人が見てるよ」
今の時間は通勤、通学している人がいっぱいだ。
そんな中、二人は堂々とイチャイチャしているようにしか見えないので、人目についている。
「絶対に離れません。私たちの仲の良さを見せつければいいじゃないですか」
有栖は貴音を離すつもりはない。
何となくだが、離してしまったら、もうこうしてくっつけなくなるんじゃないかと思ったからだ。
義理とはいえ二人は兄妹。
そう思っている限り貴音が一線を越えることはないし、有栖への想いを誤魔化すために彼女を作ろうと思うかもしれない。
彼女を作るつもりはないと言ってはいたが、今はその時とは状況が違う。
もし、貴音に彼女ができてしまったら有栖はどんな行動をとるかわからない。
以前、貴音は有栖に彼氏ができたら殺すと言っていたが、今は自分がそうなってしまいそうだ。
だから貴音のことを離すわけにはいかない。
そう思っているあたり、有栖も兄のことを異性として完全に意識しているのだろう。
「有栖は恥ずかしくないの?」
「恥ずかしいですけど、兄さんが離れるから仕方ないです」
「仕方ない。なら仕方ないな」
「はい」
貴音は仕方ないと言い聞かせて、恥ずかしい気持ちを押さえ込んだ。
そして貴音は有栖のことを見た。
今までも可愛いと思っていたが、改めて見ると物凄い可愛いと感じる。
綺麗な髪はもちろんのこと、雪のように白い肌、そして今の貴音の視線は潤った唇に向かっている。
「ふふ……」
少し恥ずかしながらも自分を見てくれているので、有栖は笑みを浮かべた。
そんな有栖に貴音は見惚れてしまう。
「流石にここでキスしたいと思うのはどうかと思いますよ」
唇に視線がいっているのに気づいた有栖はそんなことを言う。
「そ、そんなことは……」
「慌てて否定しても説得力はありませんよ」
貴音は今までにないほどテンパっている。
唇を見たのだからキスをしたいんじゃないかと思われても仕方ないことだが、実際に思ってしまったのかもしれない。
貴音にとって有栖は妹でしかなかったはずだけど、もう有栖のことを妹として見ることはできないだろう。
「これが恋なのかな」
貴音は有栖に聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
「え? 兄さん今、何て言いましたか?」
「い、いや、何でもないよ」
貴音は有栖への気持ちを恋だと実感した。
それと同時に複雑な気持ちになってしまう。
もし、この気持ちを打ち明けたら、有栖は付き合ってくれるかもしれない。
有栖が貴音から離れたくないのは見ていたら誰だってわかる。
だから想いには答えてくれるだろう。
でも、貴音はこの気持ちを伝えることはなさそうだ。
たとえ義理でも兄妹なのだから付き合うわけにはいかない。
それに付き合ったとして周りにバレてしまったら、兄妹で付き合うとか変だと言われるだろう。
そんなことは絶対に避けなければならない。
だから有栖とは付き合えない。
「変な兄さんですね。学校に着くまでは離しませんからゆっくりと行きましょう」
少しでも長くくっついていたいためか、そんなことを言う有栖。
貴音は恥ずかしながら頷いて、ゆっくりと登校した。
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