下校
「白河先輩の家はこっちの方なんですか?」
「え? うん」
完全下校時刻になってしまったために図書室での勉強を止めて、帰ることにした。
今いるのは貴音、有栖、可憐の三人で、帰る方角が一緒のようだ。
「まあ、もう日が暮れてしまったし、途中まで一緒に帰りましょうか。女性が一人というのは危ないですし」
「うん」
美浜学園の完全下校時刻は十九時。七月で明るい時間が長いといってももう太陽は完全に顔を隠してしまったので、辺りの灯りは街灯のみ。
いくら有栖にとって最大の敵といっても知り合いが危険な目に合うのは嫌なのだろう。
テストが終わったら貴音とデートできるという余裕があるからもしれないが。
「可憐は図書室で何借りたの?」
「えっとね、兄妹が異世界に転生して悪と戦う漫画かな」
「あれか」
前に貴音と有栖が一緒に見たアニメの漫画を可憐は借りたようだ。
こういったのを借りるようになったのは完全に貴音の影響だろう。
「白河先輩もこういったのを読むんですね」
「うん。貴音くんが好きそうなのだったから……」
可憐は少し頬を紅潮させながら小声でそんなことを呟いた。
最近の可憐は完全に貴音の趣味の影響を受けている。
共通の話題が欲しいのだろうけど、一番の理由は少しでも貴音に興味を持って欲しいから。
今まで恋愛なんてしたことのない可憐にとってはどう異性にアプローチしていいかわからない。
一応ネットで調べてみたところ、共通の話題を作ること、というのが一番できそうであったために、今は貴音が好きそうなアニメなんかを見ている。
「俺も読みたいぞ」
最近の貴音はほとんどアニメや漫画を見れていない。
最優先が有栖ではあるのだが、見たい気持ちはあったりする。
「じゃあさ、これから一緒に読む?」
「もちろん読……」
「兄さんにそんなことをしている余裕があると思っているのですか?」
「ないです……帰って勉強します」
「よろしい」
冷たい声を出した有栖が嫉妬したのがわかったのか、可憐と一緒に漫画を読むことを諦めたようだ。
「貴音くんって勉強できないの?」
「私が教えないと確実に赤点をとるレベルですね」
確かに先ほどの勉強では有栖が貴音に教えていたが、そこまで酷いとは思っていなくて、可憐は苦笑いをした。
「俺たちの家はここだけど、可憐はどの辺?」
徒歩五分のとこにあるからもう家に着いてしまった。
「私の家はここからだと後十分くらいかな」
「そうですか。なら、兄さんは白河先輩を家まで送ってあげてください。私はその間にご飯の準備しておきます」
……え──?
最近は少し女の子と仲良くしただけでも嫉妬してしまう有栖がそんなことを言うなんて思っていなくて驚いてしまう。
「その目は何ですか?」
「いや、だって……」
「この辺は平和だとはいえ、白河先輩が暴漢に襲われる可能性はゼロではないですよ。だから送ってきなさい」
最近はキスしたり今度デートする約束をしているから、やっぱり余裕があるようだ。
二人きりにさせるのだから少し悶々とするだろうが、有栖の方が圧倒的に優位であることは変わらない。
「わかった」
「ありがとうね」
「白河先輩、兄さんに手を出さないでくださいね」
普通、そういったことは男の子に言うんじゃないかな? と思いながら苦笑いをする可憐。
でも、これは可憐にとって貴音と仲良くなるチャンスでもある。
アニメとかを見たのだし共通の話題があるから気まずくなることはないはずだ。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
貴音は有栖が家に入ったのを見てから可憐を送ることにした。
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