夏休み突入

「はあぁぁ……面倒」


 本日から夏休み。妹大好きな貴音にとって有栖とずっと一緒にいれる夢のような時間ではあるが、さっきからため息が止まらない。


「そんなこと言っていないで、さっさと終わらせますよ」


 二人は自宅のリビングで夏休みの宿題をやっている最中。

 貴音を一人にさせると絶対にサボってしまうので、有栖が一緒になって宿題をしている。


「七月中には終わらせて、後はイチャイチャするんです」

「夏休みの宿題がそんなに早く終わるわけがない」


 シャーペンをテーブルに置いてから倒れこむ。

 先日の遊園地デートの日から兄妹という枠を越えて付き合い出した二人であるが、恋人同士になったからと言っても大きく変わったりしていない。

 付き合う前からキスしたりイチャイチャしたりと、既に恋人らしいことをしていたからだ。

 付き合い出してから初めての夏休み……いっぱいイチャイチャできると貴音は楽しみにしていたが、有栖が「宿題をしますよ」と言ったので、宿題をする羽目になった。

 一度イチャイチャしてしまうと止まらなくなるのは目に見えているからか、先に宿題を終わらせようと有栖は考えたのだろう。


「だらけてないでさっさとやる」

「いしゃい……」


 喝を入れるために、有栖は貴音の頬を引っ張る。

 有栖だって今すぐにでもイチャイチャしたいと思っているが、我慢して宿題をやっている。

 だから貴音も真面目にやってほしいものだ。


「宿題すら出来ない兄さんは好きではありません」

「やる。宿題なんてすぐに終わらせる」


 好きではないという言葉に反応し、貴音はすぐに身体をお越し勉強を再開。

 それを見て有栖は「流石は私の大好きな兄さんです」と言い、笑顔を見せる。

 大好きな妹の笑顔を見て、貴音は「うおぉぉぉ……」という奇声のようなものを発し、有栖にやる気をアピール。


「有栖、この問題がわからないから教えて」

「ここで問題をスラスラと解いたらカッコ良かったんですが、解けないあたりは兄さんなんですね。後、さっきの変な声はキモいです」

「本当に辛辣……」


 以前のように距離を取るということはないが、胸に刺さる言葉をズバズバと言う。

 「それで、わからないとこはどこですか?」と言いながら、有栖は貴音に近づく。

 宿題も有栖が教えないと理解できないとこがあるので、テスト勉強同様に教えてもらいながらやらないといけない。

 単なる宿題だから答えさえ書いていれば問題はないのだが、きちんと理解するとしないのでは大学受験に影響する恐れがある。

 有栖は貴音に大学を卒業してほしいと思っているってことだ。


「有栖の匂い良い……」


 近づいたことにより有栖の甘い匂いが鼻を刺激し、貴音は思わず彼女の肩に手を抱いてから自身に引き寄せてしまう。


「兄さん……今は勉強に集中してくださいよ。そうしないと私だって我慢できなく……あ……」


 最愛の人である貴音の匂い……それが有栖にも刺激してしまい、蕩けたような顔になる。

 完全にイチャイチャしたいスイッチが入ってしまって、有栖は貴音の背中に腕を回してイチャイチャを開始。


「うぅぅ……こうなるから宿題を先に終わらせたかったのに……」


 勉強をしなければならないというより、好きな人とイチャイチャしたいという本能が勝った。

 こうなってしまったら、もう二人がイチャイチャを止めるということはない。

 ひたすら本能のままお互いを求め合うのみ。


「宿題なんていつでもできるじゃないか」

「イチャイチャだっていつでもできますよぉ……」


 貴音は有栖の顔を自身の首のとこに持っていき、思い切り匂いを嗅がせる。

 こうしてしまえば勉強をしたいと思っていても、有栖は抵抗することなんてない。

 実際に有栖は「兄さんの匂い好きです」と言って、さらに匂いを嗅いでくる。


「匂いが好きなのは義理だからだろうか?」

「そうですね。血の繋がりがあったら、流石にこうしません」


 思春期の女性は血の繋がりが遠い人の匂いを好きになる傾向がある。

 血の繋がりがある親や兄弟を好きになってしまわないようにだ。

 逆に子供が産まれると、きちんと育てるために血の繋がりがある人の匂いが好きになるようだ。

 あくまで傾向なので、全ての人に当てはまることはないのだが。


「俺の匂いならいつでも嗅いでいいから、他の男のとこにいくなよ」

「はい。兄さんもですよ」


 貴音は「もちろん」と頷いて、有栖の匂いを嗅ぐ。

 甘い匂いが身体中に広がっていき、貴音は有栖のことを押し倒す。


「きゃ……兄さん、まだ午前中なのに……」


 これからすることを想像したのだろう、有栖は顔を真っ赤に染めた。

 そして貴音からのキスを待つかのように、ゆっくりと目を閉じる。

 貴音に抱かれるのは嫌ではないし、むしろしたいと思っているから今からでも問題はない。


「兄、さん?」


 抱きつきながら横になった影響で、貴音は完全に夢の中。


「こうなる辺りは兄さんですね」


 有栖はため息をつきながらも貴音のことを見つめ、頬を指でつついた。

 抱きつかれながら寝るようになってから何度も見ている寝顔……有栖にとってはずっと見ていても飽きない。


「これでは宿題することできませんね……」


 抱きつかれるのは全然いいのだが、貴音が寝ているのであれば宿題をしたい。

 有栖はわからないとこを貴音に教えないといけないので、宿題はなるべく早く終わらせたいのだ。


「まだ初日だからなんとかなりますかね」


 一度寝てしまったら起きることがないので、宿題は諦めて有栖も寝ることにした。

 夕方まで寝てしまったから、身体が痛くなったのは言うまでもない。

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